GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポート
vol.48 rd.5 鈴鹿レビュー HSV-010 GTがもっとも得意とする“ホームコース”鈴鹿での一戦に挑む期待される#8 ARTA HSV-010の今シーズン初優勝

 大きな期待を抱いて臨んだ第5戦鈴鹿大会で、Hondaは最高位が7位という不本意な結果に終わりました。私たちにとっては、これで悔しいレースが2戦続くこととなりましたが、前戦のSUGO大会と今回とでは「悔しさの質」がだいぶん異なります。というのも、SUGO大会ではHSV-010 GTが思うようなパフォーマンスを発揮できなかったのに対し、鈴鹿大会ではパフォーマンスは高かったのに、それを成績に結びつけることができなかったからです。今回はまず、この点からご説明申し上げましょう。

 前回の鈴鹿プレビューでもお伝えした通り、事前に行われたSUPER GTの公式テストでは2日間とも雨が降り、ドライコンディションのデータを収集できませんでした。実は、これに先立って鈴鹿サーキットは西コース部の路面改修をしており、公式テストではその影響を見極めることを大きな目的としていました。Hondaはホームコースである鈴鹿サーキットのデータは豊富に有しているため、ドライコンディションでテストする機会が多少減っても、セッティング作業などに大きな支障はありませんが、走行にともなうタイヤ性能の低下を示すタイヤのデグラデーション、それに燃費などのデータは、実際に走ってみない限り、手に入れられません。従って、テストがウエットコンディションとなったことはとても残念でした。

 その一方で、4年ぶりに1000kmレースとして開催される今大会では、戦略がレースの行方を大きく左右すると予想されました。この点は前回のプレビューでもお伝えしたように、私たちは事前のシミュレーションにより5ストップではなく4ストップで走りきった方が有利との答えを得ていましたが、4ストップ作戦では燃費やタイヤのライフがギリギリとなるため、先に述べたデグラデーションや燃費のデータはぜひ手に入れたいと考えていました。そうでなくとも、今年はエンジンのエアリストリクターが2サイズ拡大された関係で、エンジンパワーが増大し、これにともなって燃費が悪化しています。けれども、私たちは確固たるデータを何も持たないまま、4年ぶりとなる1000kmレースの週末を迎えることとなったのです。

 そしてレースウイーク、私たちは予定通り4ストップ作戦を前提にしてプログラムを組みました。タイヤも5セットで1000kmを十分走りきれる安定性の高い仕様を選択しましたが、この面では、もともとタイヤに優しいHSV-010 GTの特性がプラスに作用しました。一方、土曜日に行われた公式練習の流れを見ていると、4ストップ作戦に取り組んでいるとは見受けられないライバルもありました。4ストップか、5ストップか。それによってベースとなるラップタイムが異なってくるのは当然のこと。このため、Hondaは予選で上位に食い込むことができませんでした。

 ただし、熟慮の末に決めた4ストップ作戦が、決勝レースでは期待通りの効果を発揮してくれました。1000km=173ラップを4ストップで走りきるには、1スティントあたり35ラップほど走る計算になりますが、GT500クラスではライバル勢の1台が23ラップ目にいち早くピットストップを行うなど、5ストップ作戦を採る、もしくは5ストップ作戦を採らざるを得ないチームが少なからず存在しているようでした。Hondaチームでは、5ストップ作戦も視野に入れていた#32 EPSON HSV-010(道上龍/中山友貴組)のみ24ラップ目にピットインしましたが、残る4台はいずれも33ラップ目から36ラップ目までに作業を行っており、4ストップ作戦を無理なく実現できることを確認していました。念のために申し添えておきますと、最初のスティントは予選で使用したタイヤで走行するため、それ以降のスティントよりも若干、周回数が短めとなります。それゆえ、私たちは4ストップ作戦の完遂に自信を深めていたのです。

 ただし、いくら4ストップ作戦とはいえ、ペースがあまりにも遅ければ、結果的に5ストップ作戦を選んだライバルたちに敗れてしまいます。しかし、この点でも私たちの作戦は有効に機能していました。レースが中盤に入った77周目に#17 KEIHIN HSV-010(金石年弘/塚越広大組)は2番手に浮上。同じ周に#18 ウイダー HSV-010(小暮卓史/カルロ・ヴァン・ダム組)も表彰台圏内の3番手までばん回していました。

 そして82周目に#17 KEIHIN HSV-010はトップに立ちます。さらに、この時点で21.2秒だった2番手とのギャップを、92周目には35.1秒まで引き離す快走ぶりを披露しましたが、93周目を走行中に右リアタイヤがパンク。しかも、その場所が1コーナー付近だったため、ほぼ1周のスロー走行を強いられ、タイヤ交換と破損したボディの応急処置を終えてコースに復帰したときには8番手まで順位を落としてしまいました。

 この時点ではパンクの原因は不明だったものの、念のため、違う種類のコンパウンドに変更したタイヤを装着して走行しました。ところが、157周目には懸命の追い上げを図る#17 KEIHIN HSV-010に2度目のパンクが発生。しかも、今度は130R出口でトラブルが発生したため、マシンはスピン状態に陥り、コーナーイン側のウオールに激突する事態となりました。ステアリングを握っていた塚越選手が軽傷で済んだのは不幸中の幸いとしか言いようがありませんが、これで#17 KEIHIN HSV-010はリタイア。実は、81周の段階で3番手を走行していた#18 ウイダー HSV-010もほぼ同じトラブルに見舞われ、この影響で彼らは8位でフィニッシュすることになりました。

 そのほかにも、今回は5台のHSV-010 GTに次々とトラブルやアクシデントが襲い掛かりました。まず、#32 EPSON HSV-010はドライビングミスによりS字コーナーでクラッシュ、リタイアを余儀なくされます。76kgのハンディウエイトを積み、予選で14番手に沈み込んだ#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/山本尚貴組)は、50周目以降は安定してトップ圏内を走行してポイント獲得に期待がかかりましたが、他車との接触が原因でラジエターが水漏れを起こし、この補修のためピットで40分近い時間を過ごしたため、トップから20周遅れの11位となりました。

 残る#8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/小林崇志組)は、前戦のSUGO大会でこれまで彼らを苦しませてきたトラブルが解消されたため、優勝を含む上位入賞を期待していましたが、小林選手が追い上げ中にGT300クラスの車両と接触。この事故の原因を問われて30秒間のピットストップのペナルティが科せられ、7位でチェッカーフラッグを受けました。そして、結果的に彼らがHondaとしての最上位となったのです。

 優勝も見えていただけにこの結果はいかにも残念ですが、今は気持ちを切り替え、残るレースを前向きに戦っていきたいと考えています。引き続き5台のHSV-010 GTに熱いご声援をお願いします。