GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポート
vol.48 rd.5 鈴鹿レビュー HSV-010 GTがもっとも得意とする“ホームコース”鈴鹿での一戦に挑む期待される#8 ARTA HSV-010の今シーズン初優勝

 悔しい結果に終わったSUGO大会に続いて、HSV-010 GTがもっとも得意とする三重県・鈴鹿サーキットでの一戦に臨みます。

 伝統の“1000km”レースは2009年に700kmに短縮され、昨年は500kmレースとされましたが、今年は4年ぶりに1000kmレースとして開催されます。さらに、今年はエアリストリクターの2サイズ・アップが実施され、エンジンのパワーアップと引き換えに燃費が低下したため、1000kmを3ストップでは走りきれず、最低でも4ストップが必要となる見通しです。このあたりがどう影響するかも考察しつつ、SUPER GT第5戦鈴鹿大会の展開を占ってみることにしましょう。

 S字コーナーでの速さが鈴鹿でのラップタイムを大きく左右することは皆さんもご存じのとおりです。左右に素早く向きを変えながら、3速ないし4速でクリアする中高速コーナーが続く鈴鹿のS字コーナーでは、効率的にダウンフォースを生み出すことが、なによりも要求されます。この点でHSV-010 GTがライバルたちに対して大きなアドバンテージを有していることはいうまでもありません。つまり、マシンのポテンシャル面からいってもHSV-010 GTは鈴鹿を得意としているのです。

 さらには、Hondaのホームコースということもあり、鈴鹿での走行データが豊富なことも我々の強みの一つです。また、ドライバーもここではたくさん走り込んでいるので自信を深めています。苦手意識の強い富士スピードウェイとは対照的な状況にあるといえます。こうした背景もあって、HSV-010 GTがデビューした2010年より、鈴鹿ではHondaが連続優勝を遂げています。この記録を伸ばすためにも、全力で今年の鈴鹿1000kmに取り組むつもりです。

 ところで、前戦SUGO大会で我々が苦戦した理由の一つに、重量感度というものがありました。これは車重がマシンのパフォーマンスに与える影響の度合いを示すもので、結果的にSUGOでは重量感度を小さくとどめることができなかったため、重いハンディウエイトを積む#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/山本尚貴組)や#18 ウイダー HSV-010(小暮卓史/カルロ・ヴァン・ダム組)は本来の実力を発揮できませんでした。けれども、鈴鹿はSUGOと違ってアップダウンが少なく、そもそも重量感度を低く抑えやすいサーキットです。また、Hondaが持つ走行データが豊富なこともあり、エアロダイナミクスや重量配分などに工夫を凝らすことで、この重量感度を下げられるめども立っています。つまり、鈴鹿では#100 RAYBRIG HSV-010や#18 ウイダー HSV-010がタイトル獲得に向けて反撃に打って出ることも期待できるわけです。

 これらを実現するため、鈴鹿大会には新たに開発した空力パーツを持ち込む予定です。新たなパーツ自体、それほど大きなものではなく、エアロダイナミクスを一新する効果を有するわけではありませんが、これを用いることで自分たちの狙った空力セッティングがより容易に得られるようになると期待しています。

 第5戦鈴鹿大会に先立ち、7月20〜21日にはSUPER GTの公式テストが実施されましたが、両日ともあいにくの雨模様となったため、ライバルたちとの力関係を示す有用なデータは手に入れられませんでした。とはいえ、鈴鹿の走行データは豊富にあるので、今回テストがウエットになった影響を、より大きく受けるのはライバルチームのほうではないか、とも予想しています。

 一方、今シーズンの開幕前に行った鈴鹿のウインターテストでは、HSV-010 GTの各車がコースレコードを塗り替えるタイムを記録しています。2012年モデルのHSV-010 GTが鈴鹿で速いことは、この点からも証明されると思います。

 さらに、第4戦SUGO大会で、我々はフェイズ2と呼ばれる新エンジンを投入しました。気温が高いうえに標高も高いSUGOでは、残念ながらそのポテンシャルをフルに発揮できたとはいえませんでしたが、平地での開催となる鈴鹿大会では、SUGO大会を上回るパフォーマンスを発揮してくれると期待しています。

 戦略面でいえば、前述のとおり4ストップ、5スティントでレースに挑むことになります。燃費面からいって、各車とも3ストップという選択肢はありえず、4回給油してギリギリ1000kmを走りきれるかどうか、というところでしょう。また、常識的に考えれば、ピットストップに伴うタイムロスの大きな5ストップを採ることはないと思われます。裏を返せば、いかにして4回ストップのレース戦略を完ぺきに遂行するかが勝敗の分かれ目になりそうです。これを実現するには、各スティントで使用するタイヤで、想定した距離を確実に走りきる必要があります。また、通常のレースであれば1回で終わるピットストップ作業を、4回とも完ぺきに行うことは、チームにとって大きなプレッシャーとなります。たまたまSUGOでは#17 KEIHIN HSV-010(金石年弘/塚越広大組)に燃料補給のトラブルが発生しましたが、全般的に見ればHonda勢のピットストップ作業は確実性が高いので、この点も我々のアドバンテージといえます。

 続いて、鈴鹿大会に挑む5台のHSV-010 GTについて、順を追ってその状況をご説明しましょう。

 今シーズンは苦戦続きだった#8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/小林崇志組)ですが、第4戦SUGO大会の週末に、これまでチームを苦しめてきたトラブルの原因が究明されました。この問題への対策は完ぺきに実施してあるので、第5戦鈴鹿大会では本来のスピードを取り戻してくれるはずです。しかも、ハンディウエイトは10kgと圧倒的に軽いです。今回は優勝候補の1台として推しておきます。

 #17 KEIHIN HSV-010も、ハンディウエイトはまだ44kgと、上位ランカーに比べて有利な状況にあります。前述のとおり、第4戦SUGOでは予定した量の燃料を給油できなかったというトラブルが発生したものの、過去2シーズンで#17 KEIHIN HSV-010の速さは証明済みです。現在、ポイントテーブル上ではトップと22点差で8番手となっていますが、ここで大量得点を果たし、シーズン後半に向けてタイトル獲得の望みをつなげることが期待されます。

 第4戦SUGO大会では重いハンディウエイトに苦しんだ#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/山本尚貴組)と#18 ウイダー HSV-010(小暮卓史/カルロ・ヴァン・ダム組)ですが、こちらも前述のとおり、重量感度を軽減する措置を実施して第5戦鈴鹿大会に挑みます。ここは、ぜひともチャンピオン争いを繰り広げるライバルたちに先んじてフィニッシュし、ここのところやや形勢不利に傾きかけているチャンピオン争いの流れを大きく変えたいところです。

 タイヤとマシンのマッチングが引き続き課題となっている#32 EPSON HSV-010(道上龍/中山友貴組)については、上記4台とは違ったアプローチになることも考えられます。おそらくは、たとえ5ストップとなってもパフォーマンス面で有利なタイヤをセレクトし、その中で上位入賞のチャンスを探ることになるでしょう。

 第5戦鈴鹿大会は8月18日・19日の開催です。鈴鹿サーキットでは「みんなの冒険プール」をテーマにさまざまなアトラクションを用意した“アクア・アドベンチャー”を営業していますので、夏休み中のお子様とともにぜひ、ご来場ください。そして、灼熱の1000kmレースに挑む5台のHSV-010 GTに熱い声援をお送りください。どうぞよろしくお願いします。