GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポート
vol.47 rd.4 菅生レビュー 予想外の苦戦を強いられた5台のHSV-010 GT エンジンのパワーアップを帳消しにした“ミドルアンダー”とは?

 思いもよらない結果でした。Honda勢の最高位は#18 ウイダー HSV-010(小暮卓史/カルロ・ヴァン・ダム組)の7位。#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/山本尚貴組)は、2戦続けてチャンピオン争いを演じるライバルに敗れ、ポイントテーブル上のリードを広げられてしまいました。非常に残念な結果と言わざるを得ません。

 SUPER GT第4戦菅生大会で、Hondaはフェイズ2と呼ばれる改良型エンジンを投入しました。SUPER GTでは1台のマシンが使用できるエンジンを年間3基までと制限しているので、最大2回のエンジン交換がシーズン中にできることになります。そこで我々は第4戦菅生大会の前に1回目のエンジン交換を実施。これにあわせてエンジンのバージョンアップを行いました。今回はエンジンの吸排気系の改良とフリクションロスの低減を図ることで幅広い回転域におけるパワーアップを実現し、その成果は7月20〜21日に鈴鹿で行ったテストでも確認されました。したがって、自信を持って菅生に挑んだことはいうまでもありません。

 ところが、土曜日の走り始めからHSV-010 GTは本来のパフォーマンスを発揮できませんでした。この週末は気温が高く、また菅生は標高が400m近くと高いために空気の密度が低く、これらがエンジン出力の面でマイナスの影響を及ぼしたのは事実です。けれども、不振の原因はこれだけではありませんでした。実は、ハンドリングを思うように煮詰められなかったことも、ライバルに後れをとる一因となっていたのです。

 皆さんは“ミドルアンダー”という言葉をご存じでしょうか? コーナーの半ばでアンダーステアになる症状のことを、我々はミドルアンダーと呼んでいます。そして、今回は上位を狙えるHSV-010 GTがそろってこの症状に苦しむことになりました。ミドルアンダーが出ると、コーナーからの脱出でスロットルを踏み込むタイミングが遅れ、結果的にコーナーのあとに続くストレートでスピードを伸ばすことができなくなります。したがって、現象としてはエンジンパワーが不足しているようにも見えますが、本当の原因はハンドリングの不調にあるのです。

 このミドルアンダーは、コースレイアウトによって影響を受けることもあれば、受けないこともあるようです。事実、直前に鈴鹿でテストをしたとき、この症状は出ませんでした。つまり、HSV-010 GTにとっては菅生特有の問題だったと考えられます。

 もっとも、今回はミドルアンダー以外にもさまざまな不運が5台のHSV-010 GTに襲いかかりました。ここからは、菅生の週末に何が起きたかを、1台ずつ順を追ってご説明することにしましょう。

 まず、#18 ウイダー HSV-010はQ1の予選アタックにミスがあり、Q2進出を果たせず、11番グリッドからのスタートを強いられました。決勝では、2人のドライバーが安定したペースで走り続け、7番手まで追い上げましたが、途中で70kgのハンディウエイトを積む#100 RAYBRIG HSV-010のペースに付き合わされる形となり、それ以上のばん回はなりませんでした。もしもこれがなければ、ライバルの1台をさらに攻略して6位フィニッシュを果たせたかもしれません。

 #100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/山本尚貴組)は、やはり70kgのハンディウエイトが大きな足かせとなってしまいました。菅生では、高速の最終コーナーを素早くクリアし、続く急勾配のストレートでいかにスピードを乗せるかが重要となりますが、#100 RAYBRIG HSV-010はハンディウエイトを積んでいたために高速コーナーからの脱出速度が鈍り、これがストレートスピードの伸びにも悪影響を及ぼしたようです。そうはいっても、#100 RAYBRIG HSV-010より重いハンディウエイトを積むライバルが今回は5位でフィニッシュしているので、車重がパフォーマンスに与える影響の度合い、いわゆる重量感度については、改善に向けて今後取り組まなければいけないと考えています。

 これとは対照的にハンディウエイトがまだ40kgと比較的軽い#17 KEIHIN HSV-010(金石年弘/塚越広大組)には大きな期待を寄せていました。ところが、彼らもミドルアンダーの影響で予選8番手にとどまったほか、オープニングラップで5番手まで浮上しながらコース上でのライバルとの接触により7番手に後退。さらに、ピットストップの際には給油リグのトラブルから予定した量の燃料を補給できず、8周後に2回目のピットストップを行ったため、最終的に9位でフィニッシュするのが精一杯となりました。

 #32 EPSON HSV-010(道上龍/中山友貴組)は今回もタイヤとコンディションがマッチせず、予選12番手、決勝11位という悔しい結果に終わりました。ここのところ似たような状況が続いていますが、道上選手も中山選手も懸命の努力を続けてくれているので、彼らの思いに応えるためにも、マシンとタイヤの一層の開発とマッチングを図りたいと考えています。

 #8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/小林崇志組)は今回も歯車がかみ合いませんでした。実は、公式練習の段階ではマシンの状況が一定せず、走るたびに挙動が変化する症状に見舞われていましたが、その後、問題の解明に成功。このため、予選こそ最下位の15番手に沈み込んだものの、決勝では力強い追い上げに期待がかかっていました。ところが、ピット作業でのちょっとしたミスからファーマン選手のドライビングエラーを誘発。34周目に最終コーナーでスピンを喫し、リタイアに追い込まれました。

 菅生では、終わってみれば7位が最高位と残念な結果に終わりましたが、前回の鈴鹿テストでもHSV-010 GTが好調なことは確認されているので、第5戦鈴鹿大会では再び優勝争いを演じられるものと確信しています。また、現状に甘んじることなく、次戦までにマシンをバラして組み直す作業をするなどして、より高いパフォーマンス、より信頼性を確保したいとも考えています。

 菅生でHSV-010 GTの活躍をお見せできなかったことは残念でしたが、次戦の鈴鹿では必ずこの雪辱を果たすつもりです。どうか、5台のHSV-010 GTに今後も熱い声援をお送りくださいますよう、お願い申します。