富士スピードウェイで開催されたSUPER GT第2戦で#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/山本尚貴組)が2位表彰台に上りました。レース終盤には首位に立ち、シリーズ戦としては初となる富士での優勝が目前に迫りましたが、残り5周でライバルに逆転され、最終的にはトップと12秒差の2位に終わりました。表彰台の中央に立てなかったのは残念ですが、これまで苦手とされてきた富士で優勝争いを演じられたことには強い手応えを感じています。また、これで#100 RAYBRIG HSV-010はポイントリーダーにも浮上しました。シーズン前のテストで試みてきたことが結果に結びついたことを、いまは率直に喜んでいます。
コーナリングを得意とするHSV-010 GTはダウンフォースが大きく、そのため空気抵抗がどうしても大きくなりがちです。この影響でストレートスピードの伸びではライバル勢に後れをとることがあり、長いストレートを有する富士ではたびたび苦戦を強いられてきました。従来は、こうした弱点を克服するため、HSV-010 GT本来の持ち味であるコーナリング性能を多少犠牲にしてでも、ストレートスピードの伸びを追求するという側面がなきにしもあらずでした。しかし、自分たちの“強み”を見失っては、ライバルに打ち勝つことはできません。そこで、今季は方針をほんの少し改め、HSV-010 GTの優れたコーナリング性能をしっかり確保したうえで、ストレートスピードも追求することにしました。シーズン前のテスト、そして富士用の空力パーツの開発は、この方針に沿って進めてきたものです。
結果的に、この考え方が今回の成績に結びついたように思います。最高速を他社と比較すると、レクサスに対してはやや後れをとっていましたが、ニッサンに対してはほぼ同等でした。一方、ラップタイムではライバルと互角か、コンディションによっては上回っていることもありました。こうしたセッティングの方向性が効を奏したほか、500kmの長丁場となった今回のレースでは戦略面でも工夫を凝らしました。
ここでレースを簡単に振り返ってみましょう。
全車スリックタイヤを装着してグリッドに整列したところ、小雨が降り始めます。もはやレインタイヤへの交換はできないタイミングだったため、主催者はセーフティカースタートとし、この間にレインタイヤへの交換を促すことで混乱を回避しました。セーフティカーランが終了する3周目までに大半のマシンがウエットタイヤへの交換を済ませ、本格的な競技が幕を開けます。一方、この時点では完全なウエットコンディションとなっていたものの、雨はすでに止んでおり、ドライコンディションに転じるのは時間の問題でした。各チームとも、コースの状況、ラップタイム、ライバルたちとの間隔、タイヤの摩耗具合を勘案しながら、早いチームは10周目に、遅いチームでも27周目までにはスリックタイヤに交換、こうしてレースの第2幕が始まりました。
この第2幕の途中ではGT300クラスの1台がストレート上で大クラッシュし、再びセーフティカーランになるという事もありました。さらに、レースが残り20周ほどとなった89周目にはまたもや雨が降り始め、これがレース結果に大きな影響を及ぼすこととなります。
#100 RAYBRIG HSV-010と#17 KEIHIN HSV-010(金石年弘/塚越広大組)は、燃料補給、タイヤ交換、そしてドライバー交代を、16周目終了時という同じタイミングで行いました。ただし、#100 RAYBRIG HSV-010は、燃費のよさを生かして次のピットストップをなるべく先延ばしにする戦略を採りました。一方、#17 KEIHIN HSV-010は逆にエンジンパワーを生かして、追い上げを図る戦略です。結果的には、この違いが、2台の明暗を分けることとなりました。
前述のクラッシュによりセーフティカーランとなったのは62周目のこと。#17 KEIHIN HSV-010はこれに先立つ38周目にピットストップを行いましたが、燃料をセーブしながら走行していた#100 RAYBRIG HSV-010はここまでピットストップを引き延ばすことに成功。ライバルたちがセーフティカーに先導されてゆっくりと走っている間にピットストップを済ませることで、タイムロスを最小限に留めることができました。#100 RAYBRIG HSV-010がレース終盤に優勝争いを繰り広げることができたのは、これが大きな要因となりました。
ただし、#100 RAYBRIG HSV-010が2位表彰台に上れたのは、偶然の巡り合わせだけが理由ではありません。今シーズンは#100 RAYBRIG HSV-010の仕上がりがとてもよく、しかもチームとドライバーがミスなく戦ってくれたからこそ、今回は戦略のよさが生きてきたのです。そもそも、開幕戦で2位に入った#100 RAYBRIG HSV-010は30kgのウエイトハンディを積んでこのレースに挑んでいました。今回、上位入賞したチームの中で、これほど重いウエイトハンディを積んでいたものは他にいません。また、ブリヂストン・タイヤ装着車としても2位は最高位です。これについては後述しますが、この点からも#100 RAYBRIG HSV-010の2位はとても価値ある成績だったと考えています。
では、残り5周まで首位を走っていた#100 RAYBRIG HSV-010が2位に終わった理由は、どこにあったのでしょうか? レース終盤に再び雨が降り始めたことは、すでに申し上げました。この時点でトップを走っていたライバルの1台はレインタイヤに交換するためピットインして遅れ、5位に終わりました。たしかに、あの時点ではスリックタイヤよりもレインタイヤで走ったほうが速く、タイヤ交換したくなる気持ちはわからなくもありません。けれども、いくらレインタイヤで追い上げても、ピットストップでのロスタイムを取り返すには残り周回数が少なすぎました。そこで#100 RAYBRIG HSV-010はピットストップせず、スリックタイヤのまま走り続ける決断を下したのですが、Honda勢とは異なる銘柄のタイヤを履くライバルチームは、“チョイ濡れ”の中をスリックタイヤで走っても速く、このため残り5周での逆転を許してしまったのです。ちなみに、レースが残り10周となった100周目の時点で、#100 RAYBRIG HSV-010はこのライバルを22秒ほど引き離していました。ところが、フィニッシュ時には逆に12秒の差がつけられていました。ということは、わずか10周の間に32秒も追い上げられた計算になります。つまり、1ラップあたり約3秒の差です。これでは、まったく勝負になりません。今後はこのようなことがないよう、セミウエット・コンディションでの速さをタイヤとマシンの両面から追求していきたいと思います。
一方の#17 KEIHIN HSV-010は、予選で実力を発揮しきれずに11番手に終わりましたが、レースでは金石、塚越両選手が追い上げて順位を上げましたが、前述した戦略面での巡り合わせの悪さと、終盤はタイヤ表面にタイヤかすが付着してペースが伸び悩んだことが重なり、結果的に6位となりました。ただし、今回は運が悪かっただけで、今後の巻き返しが期待されます。
#18 ウイダー HSV-010(小暮卓史/カルロ・ヴァン・ダム組)は、予選、決勝ともに9位と、ややもどかしい戦いとなりました。チーム一丸となって戦ったのはもちろんですが、他車との接触でドライビングスルー・ペナルティを受けたり、タイヤの性能をうまく引き出せなかったりと、ふたりのドライバーの歯車がかみ合わず、本来のポテンシャルを発揮しきれませんでした。
#32 EPSON HSV-010(道上 龍/中山友貴組)は、セミウエット・コンディションとなった予選2回目でトップに立ち、ポールポジションを獲得する快挙を成し遂げてくれました。#32 EPSON HSV-010が使用するダンロップのレインタイヤは、ほんの少し路面が湿ったコンディションで抜群の性能を発揮してくれます。これが、今回のポールポジション獲得で大きな役割を果たしたことは間違いありません。ただし、幅広いコンディションでトップクラスのパフォーマンスを発揮するには、まだ課題も残されています。この点が、#32 EPSON HSV-010にとっては最大のテーマといえるでしょう。
#8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/小林崇志組)は、スタートを受け持ったファーマン選手がスリックタイヤでも走り続けられると判断したため、レース序盤のセーフティカーラン中もタイヤを交換しませんでした。ところが、その後コンディションは次第に悪化していったので、そろそろピットに呼び戻そうとしたところ、コースアウトを喫してマシンにダメージを負い、これが原因でリタイアに追い込まれました。今回、#8 ARTA HSV-010は非常にマシンの調子がよかったのですが、わずかな判断の遅れにより、好成績を収めるチャンスをフイにしてしまったのはとても残念でした。しかし、これもレースなので仕方ありません。
次戦は酷暑のマレーシアで開催される第3戦セパン大会となります。HSV-010 GTのために新開発したエアコンがどんな威力を発揮してくれるのか、いまから楽しみです。どうか、5台のHSV-010 GTを引き続き応援してくださいますよう、心よりお願い申し上げます。