SUPER GT第2戦は富士スピードウェイでの開催となります。同じく富士が舞台となった昨年の第2戦では、予想外に気温が低くタイヤを発熱させるのに苦労したことにくわえ、決勝では雨が降り始めてフロントウインドウが曇り、予定外のピットストップを強いられるなどの苦戦を強いられました。
もっとも、今年はシーズンオフの間に富士で2回のテストを行いセットアップの熟成を図ったほか、フロントウインドウの曇りは昨年の段階で対策済みなので、どちらも心配ありません。つまり、昨年に比べればしっかりと準備が整った状態にあり、このため富士での戦闘力も確実に上がっていると考えています。
とはいえ、今年は今年で新たな課題が浮上しているのも事実です。たとえば、岡山国際大会のプレビューでも触れたとおり、今シーズンはGT300クラスの車両が速くなっているため、いくらGT500クラスといっても容易に抜けない状況となっていることも課題のひとつです。おそらく富士のレースでは、最高速度を高めに設定し、長いストレートで追い抜くのがいちばん効率的な戦い方でしょう。ただし、富士のストレートが長いとはいえ、ここでの最高速度を上げてもラップタイムに寄与する割合は限定的です。着実なタイムアップを果たすには、コーナーが連続するセクター2ならびにセクター3で速いクルマを作ることが重要で、その意味からいえば、無闇にダウンフォースを削ることなく、HSV-010 GT本来の速さを生かすセッティングとしたほうが予選では有利なはずです。
一方で、決勝ではGT300クラス車両をロスなく追い抜くために最高速度の高さも求められます。予選ではHSV-010 GTのコーナリングスピードを生かしたラップタイム重視のセッティングとし、決勝にはストレートスピードの伸びも考慮したセッティングで挑むことが想定されます。つまり、予選と決勝のそれぞれに最適化したクルマ作りが必要となるわけです。
もうひとつ、第2戦を戦う上で忘れるわけにいかないのが、500kmというレース距離です。このため、今回はレース中にドライバー交代を伴う2回のピットストップを行うことが義務づけられました。300kmレースでは1回で済むピットストップを2回行うわけですから、ピット作業をミスなくこなすのはもちろんのこと、2回のピットストップをどのタイミングで行うかという戦略も勝敗を分ける重要なファクターとなるでしょう。
現行のレギュレーションでは、予選で使用したタイヤで決勝のスタートに挑むことが義務づけられているので、必然的に第1スティントは短めとなり、その分、第2スティントと第3スティントは長めとなります。もっとも、だからといって第2スティントと第3スティントを均等割にすればいいかといえばそうとも限らず、コースコンディションの変化やレース展開を見極めながら柔軟に対応することが求められるでしょう。つまり、マシンの純粋な速さだけでなく、チームとしての総合力が問われる戦いになるということです。
一方、HSV-010 GTはダウンフォースが大きいだけにドラッグ、つまり空気抵抗も大きく、このため富士のストレートスピードではライバル2メーカーに劣っているとの指摘をこれまで受けてきましたが、この点も抜かりなく対策しました。いわゆる「富士エアロ」と呼ばれる空力パーツを用意して極力ドラッグを抑え、ストレートスピードを高める工夫を施したのです。
こう申し上げると、「じゃあ、ダウンフォースも減ったんだな」と思われるかもしれませんが、ドラッグとダウンフォースの関係は必ず一対一になるとは限らず、空力全体のレベルアップを図ることができれば、ドラッグを下げながらダウンフォースを増やすことも可能です。今回、我々はレスダウンフォースをコンセプトとして新しいリアバンパーやウイングステーを開発し、最高速を4〜5km/hほど向上させることに成功しましたが、その一方でダウンフォースの量も上積みし、昨年を上回るコーナリングスピードを実現しています。これらの点も、富士におけるHSV-010 GTのパフォーマンスが向上したと考える、ひとつの根拠となっています。
では、第2戦富士でHSV-010 GTは優勝できるのか? もちろん優勝できるとお答えしたいところですが、こればかりは相手がいることなので、蓋を開けてみないことには、分かりません。率直に申し上げれば、それでも表彰台には十分手が届くと考えていますが、自信を持って「優勝できます」と答えるには、自分たちにとってプラスになる要素がもうひとつ欲しいところです。現在、我々はこの「もうひとつの要素」を求めて、懸命の検討を行っています。
5台のHSV-010 GTは第2戦富士でどんな戦いを見せてくれるでしょうか? 基本的には、やはりハンディウエイトが少ない#32 EPSON HSV-010(道上龍/中山友貴組)、#18 ウイダー HSV-010(小暮卓史/カルロ・ヴァン・ダム組)、#8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/小林崇志組)の3台が有利となります。
#32 EPSON HSV-010は、Honda勢として唯一使用するダンロップ・タイヤが最高速度を伸ばすのに有利な特性を備えているため、富士での活躍が期待されます。予選ならびに決勝でのコンディションがうまくマッチすれば、きっと驚くようなパフォーマンスを発揮してくれるでしょう。
クルマの仕上がりでいえば、#18 ウイダー HSV-010は5台のHSV-010 GTの中でもトップレベルにあります。あとは、HSV-010 GTでの出場はこれが2戦目となるヴァン・ダム選手がしっかりと実力を発揮してくれれば、表彰台はもちろんのこと、優勝争いにも絡んでくると思われます。
ハンディウエイトの軽い#8 ARTA HSV-010にも期待がかかります。プラクティスから予選までの間にファーマン選手が富士に合ったセッティングを見つけ出してくれれば、こちらも面白い存在となるでしょう。
#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/山本尚貴組)は30kg、#17 KEIHIN HSV-010(金石年弘/塚越広大組)は22kgのハンディウエイトを積むので、決して有利とはいえません。ただし、2台を操る伊沢選手、山本選手、金石選手、塚越選手の4名は、ドライバーとして非常に良い状態にあるので、このハンディウエイトを跳ね返す活躍を見せてくれるはずです。
第2戦富士大会は5月3〜4日の開催です。ゴールデンウィークのまっただ中で渋滞が心配されますが、4月14日に新東名が開通したので、特に静岡方面からお越しのお客様にとっては例年よりもスムーズにご来場いただけるのではないでしょうか。どうか、富士スピードウェイに足を運び、甲高いエキゾーストノートを響かせながらストレートを駆け抜ける5台のHSV-010 GTに熱いご声援をお送りください。どうぞよろしくお願い申し上げます。