開幕戦の岡山国際大会が終わりました。結果は、2番グリッドからスタートした#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/山本尚貴組)がレース中盤から終盤にかけて25周ほどをリードしながら、ファイナルラップのバトルに敗れて2位に終わるというものでした。優勝できなかったのは残念でしたが、最後の最後まで粘り強く戦ってくれた伊沢選手と山本選手の健闘をまずは称えたいと思います。さらに、13番グリッドからスタートした#17 KEIHIN HSV-010(金石年弘/塚越広大組)は驚異的な追い上げで3位表彰台を獲得したほか、7番グリッドからスタートした#8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/小林崇志組)は6位、6番グリッドからスタートした#18 ウイダー HSV-010(小暮卓史/カルロ・ヴァン・ダム組)は7位でフィニッシュ。10番グリッドからスタートした#32 EPSON HSV-010(道上龍/中山友貴組)はレース中の接触が原因でリタイアを余儀なくされましたが、彼らを除く4台がそろって入賞を果たすことができました。熟成されたサイドラジエターHSV-010 GTのパフォーマンスをしっかりと発揮できたほか、高い信頼性、そしてかねてよりの課題だったチーム力の底上げなどが確認でき、Hondaとしては得るものの多いレースだったと捉えています。
1台ごとの戦いぶりをもう少し詳しく見ていきましょう。
#100 RAYBRIG HSV-010のスターティングドライバーを務めたのは伊沢選手。タイヤは硬めのコンパウンドをチョイスしました。このタイヤは、一度温まればパフォーマンスの安定性が良好で、ロングランでもラップタイムの落ち込みがあまり見られない長所がある一方で、ウォームアップにはやや時間がかかるというハードコンパウンドに共通の難点があります。2番グリッドからスタートしながら、オープニングラップにして5番手までポジションを落としてしまったのは、このためです。ただし、これは想定の範囲内。スタート前、伊沢選手には「ソフト系のタイヤを選んだチームはスタート直後から飛ばしていくだろうが、彼らを無理に追いかける必要はない。自分のタイヤが温まってきてから反撃に出ればいい」とアドバイスしましたが、まさにそのとおりの展開となりました。伊沢選手はこの作戦に従って冷静に戦い、20周目過ぎから1台、また1台とオーバーテイクしていき、37周目にピットストップを行う直前には2番手まで追い上げてくれました。
さらに、チームのスタッフが素早い作業を行ってくれたおかげで、ピットストップ後は実質的なトップに浮上。そしてピットストップが一巡した44周目にはタイミングモニターの最上段に“100”のカーナンバーが表示されるようになりました。ドライバーの山本選手も落ち着いた戦いぶりを示しています。タイヤは伊沢選手と同じ硬めのタイヤ。パフォーマンスが安定していることは実証済みなので、このまま逃げきって優勝することが期待されました。
ところが、ライバルチームの追い上げが予想外に急で、60周を過ぎると2台はテール・トゥ・ノーズの状態となります。その後も山本選手は懸命に防戦しましたが、69周目に一瞬の隙を突かれてしまい、2番手に後退しました。
かつての山本選手だったら、ここで意気消沈してしまい、それ以上の追撃はできなかったかもしれません。けれども、今回の山本選手はまったく違っていました。トップを行くライバルをその後も追い続け、ラスト2周となった81周目に鮮やかなオーバーテイクを見せてトップに返り咲いたのです。この気迫、そして冷静な判断は本当にすばらしかったと思います。しかし、ファイナルラップに入ったところで再びライバルの攻略に遭い、2番手に後退。その後も山本選手はフィニッシュラインを越えるまで懸命に追い続けましたが一歩及ばず、2位となりました。
それにしても山本選手のファイティングスピリットとドライビングテクニックは見事でした。今回はライバルに敗れてしまいましたが、これも経験です。この悔しさをしっかりと胸に刻み込んで、次回はリベンジを果たして欲しいですね。
シーズン前のテストで#100 RAYBRIG HSV-010と並ぶパフォーマンスを示していたのが#17 KEIHIN HSV-010ですが、今回は予選でアタックのタイミングを逃してしまい、13番グリッドからの追い上げとなりました。ところが、金石選手と塚越選手が予想を上回る奮闘を見せ、最終的にはトップのおよそ15秒後方の3位でフィニッシュ。もう少し上位のグリッドからスタートしていたら結果はまったく違っていたかもしれません。いずれにせよ、彼らがトップクラスの速さを有しているのは明らかなので、第2戦以降も確実に優勝に絡んできてくれるものと期待しています。
#8 ARTA HSV-010も#100 RAYBRIG HSV-010と同じ硬めのタイヤでスタートしました。想定よりやや早い段階でタイヤのパフォーマンスが落ち始めていたのですが、予定していた周回数まで引っ張り、34周目にピットストップを行い、給油、タイヤ交換、そして小林選手へのドライバー交代を行いました。その後、小林選手は安定したペースを保って48周の“超ロングスティント”を走りきり、6番手までばん回してチェッカードフラッグを受けました。昨年デビューしたばかりの、まだ若い小林選手ですが、その成長ぶりには、今後も期待したいと思います。
多くのHSV-010 GTが硬めのコンパウンドでスタートするなか、#18 ウイダー HSV-010に乗るヴァン・ダム選手はソフト系のタイヤでスタートに臨みました。しかし、気温が予想以上に上昇したことも手伝ってパフォーマンスの低下が早く、30周目にピットイン。ここで小暮選手に交代して追い上げを図りましたが、7位という結果に終わりました。
#32 EPSON HSV-010はレース用にチョイスしたタイヤがコンディションとマッチせず、ペースが伸び悩んでいましたが、GT300クラス車両と接触してマシンにダメージを負い、これが原因でリタイアを喫しました。
今季はレギュレーションの見直しでGT300クラス車両が軒並み速くなり、開幕戦でもGT500クラス車両がこれを追い越すのに手間取るシーンが何度も見られました。GT300クラス車両が単独で走っているのであれば、すぐに進路を譲ってくれるのであまり影響はありませんが、順位を争いながら集団で走行しているときはその余裕もなく、後方から追いついたGT500クラス車両が大きなタイムロスを背負うケースも少なくありません。ロスなく抜けるかどうかは、冷静なドライバーの判断が非常に重要になってきます。レースを戦う我々には頭の痛い問題ですが、ファンの皆さんにとっては予想もしなかった結果を招く可能性もあり、楽しみな要素がひとつ増えたともいえるのではないでしょうか?
次戦はゴールデンウィーク中の5月3〜4日に富士スピードウェイで開催されます。昨年のJAF GPでは、HSV-010 GTにとって初となる富士スピードウェイでの栄冠を勝ち取りましたが、公式戦ではまだ白星がありません。今度こそ優勝を目指し、全チーム一丸となって戦いますので、どうか霊峰・富士の麓に足を運んでいただき、澄みきった快音を轟かせるHSV-010 GTに熱い声援をお送りください。どうぞよろしくお願い申し上げます。