vol.36 | Rd.SP 富士スプリントカップ レビュー |
#100 RAYBRIG HSV-010/伊沢拓也がレース2で優勝 |
どんなに努力を重ねても、なぜか結果につながらない“悪い流れ”が続くと、どうしても勝負を焦って奇をてらった戦い方となり、これが災いしてかえってはまることがあります。富士スプリントカップでのHondaも、危うくこの罠にはまりそうになりましたが、何とか踏み止まり、#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也)がレース2で優勝してくれました。今年は“悪い流れ”の多い一年でしたが、こうした流れを押し返すのも実力。こうした実力を付けるには、まだまだ努力が必要と感じる一年でしたが、最後に速さを証明することができました。今回は、苦戦の果てに勝利をつかみ取った富士スプリントカップの週末を振り返ってみましょう。
今年の富士スプリントカップは、金曜日に公式予選、土曜日に決勝レース1、日曜日に決勝レース2を行うというスケジュールは昨年と同様ながら、JAFグランプリ・ウイナーの決め方は大きく見直されました。昨年は決勝レース1と決勝レース2のウイナーにそれぞれJAFグランプリのタイトルが贈られましたが、今年は決勝レース1と決勝レース2の成績を総合し、最上位となった1チームにJAFグランプリが贈られることになったのです。なお、Hondaから参戦するのはシリーズ戦と同じ、#1 ウイダー HSV-010(小暮卓史/ロイック・デュバル組)、#8 ARTA HSV-010(武藤英紀/小林崇志組)、#17 KEIHIN HSV-010(金石年弘/塚越広大組)、#32 EPSON HSV-010(道上 龍/中山友貴組)、#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/山本尚貴組)となります。
金曜日は朝から雨模様。しかも、決勝レース1のスターティンググリッドを決める予選1回目が始まって間もなく、急に雨脚が強まりヘビーウエットとなってしまいます。運悪く、これが5台のHSV-010 GTがじっくりタイヤを温めてからアタックを始めようとした矢先のこと。これでは、それ以前に早目に一回アタックを済ませていたライバルにかなうはずもなく、Honda勢では小林選手の7位が最上位。続いて山本選手が8位、小暮選手が9位、中山選手が12位、セッティングを変更していたためにコースインが遅れた塚越選手にいたっては何と14位という結果に終わりました。
その後も雨脚は強まる一方となり、決勝レース2のスターティンググリッドを決める予選2回目は翌日に持ち越されることとなります。
明けて土曜日は好天に恵まれたものの、予選2回目を行った朝の段階ではコースの大半がまだ濡れている状態。ここでHSV-010 GTの多くは浅溝のウエットタイヤを装着しましたが、路面が乾いていくタイミングとタイヤがうまくマッチせず、路面コンディションがよくなったセッション終盤にはタイヤの寿命が尽きてタイムが伸びないという展開となります。唯一タイヤとコンディションのマッチングが良好だった道上選手は2番グリッド、そして伊沢選手も4番グリッドに滑り込んでくれましたが、デュバル選手は9番手、金石選手は14番手、武藤選手は15番手と残念な結果に終わりました。
土曜日の午後に行われた決勝レース1でも“悪い流れ”を断ち切ることができません。小暮選手が乗る#1 ウイダー HSV-010は、すばらしいスタートでジャンプアップしましたが1コーナーで後方から来ていたライバルの1台が、小暮選手をアウトへはじき飛ばし、続く2コーナーでは右フロントに激突してきたために大破。何とかピットまで戻ったものの修理のしようがなくリタイア。小林選手の乗る#8 ARTA HSV-010も序盤の混乱に巻き込まれてダメージを負い、走行は続けましたがペースは上がりません。さらにステアリング系からのバイブレーションと妙な挙動を訴えた#17 KEIHIN HSV-010塚越選手はレース終盤にピットイン。タイヤを交換してコースに復帰したものの、完全には症状が直らずペースが上がらないまま11位に終わり、中山選手が乗る#32 EPSON HSV-010もやはりタイヤが合わないことからペースが上がりませんでした。中山選手は、レース終盤に明日のレースタイヤを見直すため、あえてピットインしてタイヤ交換を行ったことで13位となりました。
結局、#100 RAYBRIG HSV-010を駆る山本選手が粘り強く戦って8位フィニッシュ。これが決勝レース1ではHonda勢の最上位となりました。しかし山本選手のクルマも、決していいバランスとは言えず、明日への課題が残された感じでした。富士スプリントカップでの苦戦はある程度予想していたこととはいえ、これほどの惨敗を喫するとは思ってもいませんでした。履いたことのない新しいタイヤで、ドライでの走行無しで臨んだレースでしたので、ある程度は予測していましたが、私自身言葉では言えないほど悔しい思いをしました。しかしそれ以上に、応援してくださるHondaファンのみなさんには、面白いレースをお見せしたいと思っていただけに申し訳ない気持ちで一杯になりました。
では、翌日に控えた決勝レース2をどう戦うか? 決勝レース1でリタイアし、決勝レース2では9位スタートの#1 ウイダー HSV-010や決勝レース2に最後尾からスタートする#17 KEIHIN HSV-010と#8 ARTA HSV-010は、スプリントレースでもあり、このままでは上位を望むことは難しい状況です。であれば、普通だったら選択しないようなソフトコンパウンドのタイヤをこれらの車に装着し、“もしかしたら……”の可能性に賭けてみようか? いや、最後まで持たない可能性が高いタイヤでレースに臨むことが本当に正しいのか? 決勝レース1を終えた直後から、我々は翌日の戦い方についてずっと頭を悩ますことになりました。
タイヤに関しての答えは、決勝レース2のスタート直前まで出ませんでした。実際、“ギャンブル”ともいえるかもしれないソフトコンパウンドをスターティンググリッドの脇まで持ち込んだほどです。しかし、最後の最後で我々が出した答えは「正攻法でいこう」というものでした。ここまで結果が出なかったのは流れが悪かったからで、自分たちが流れを押し切るだけの実力を出し切っていなかったからだと思いました。正攻法でしっかり実力さえ出し切れば、きっと満足のいく結果を残せる。また、そういう戦い方をHondaファンのみなさんであればきっと理解してくれるはずだと、考えて下した結論でした。
そして決勝レース2が始まりました。2番グリッドからスタートした#32 EPSON HSV-010の道上選手はタイヤとコンディションがマッチせず、ズルズルと順位を落としてしまいました。このタイヤは、昨日中山選手が自らの順位を落としてでも、レースの終盤に確認してくれた結果でもいまひとつでしたが、残念ながらこれしか選択肢がありませんでした。代わりに伊沢選手が乗る#100 RAYBRIG HSV-010が絶妙なスタートでトップに浮上、レースをリードしていきます。伊沢選手は、序盤こそ今年のチャンピオンカーにテールを脅かされていましたが、レースの折り返しを過ぎてからはジリジリと引き離し、最終的には2位に2.6秒の差をつけて堂々の優勝。#17 KEIHIN HSV-010に乗る金石選手も14番グリッドから11台抜きを演じて3位表彰台に上り、この栄冠に華を添えてくれました。この2台は昨日のレースで、山本選手と塚越選手が苦戦しながらも完走し、ドライセッティングの問題点を明確にするデータが得られ、それをベースにセット変更したことが結果につながりました。#1 ウイダー HSV-010のデュバル選手も5位と健闘しましたが、こちらは昨日のリタイアでデータが得られず、走行中盤からセッティングのバランスが崩れて、攻めきれませんでした。これがなければ、手堅いタイヤ選びもあり、もっと上位でフィニッシュできたはずです。武藤選手が乗る#8 ARTA HSV-010はライバルとの接触が原因でリタイア、道上選手の乗る#32 EPSON HSV-010は13位に沈み込んでしまいましたが、Hondaとしては悪い流れを切ることができる成績を収めることができました。それぞれのドライバーが別々のレースを戦うスプリントカップですが、表彰台に上がった2台は、2人の努力で勝ち取った表彰台と言えるでしょう。やはり、この2人が協力し合う戦い方がGTの戦い方だと、強く感じるレースでした。
さて、これで2011年シーズンも終了です。シーズンを通してHSV-010にご声援をいただいたファンのみなさま、本当にありがとうございました。昨年のチャンピオンカーをサイドラジエター化するという大手術に踏みきった今年、結果的にタイトル防衛はなりませんでしたが、マシンは確実に進化を遂げました。では、2012年シーズンはどうするか? 実は、タイトル奪還に向け、さらにマシンの戦闘力を高める改良を考えています。その基本的なプランはもうできあがっていますが、少々面白い部分もありますので、楽しみにしていてください。シーズンオフの間も、この“現場レポート”は継続し、今シーズンの総集編と来季に向けた開発計画を順次お伝えしていきますので、どうぞお楽しみに。SUPER GTに挑むHondaに、これからも熱いご声援をお願いします。