vol.34 | Rd.8 ツインリンクもてぎ レビュー |
シリーズ最終戦で有終の美を飾れず |
2011年シーズンのSUPER GTを締めくくる最終戦もてぎ大会が終わりました。その決勝レースでは、一時5台のHSV-010 GTが数珠つなぎになって甲高いエキゾーストノートをサーキットに轟かせたほか、レース終盤に#32 EPSON HSV-010(道上龍/中山友貴組)と#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/山本尚貴組)がギリギリの競り合いを演じるなど、見どころの多いレースとなりました。最終的に#100 RAYBRIG HSV-010は3番手を走るライバルを攻略しきれず、0.251秒差で4位に終わったのは残念でしたが、これ以前の#32とライバルの戦いも含めて、このバトルは緊張感あふれるもので、見ていて思わず力の入るものでした。結果は、私にとっては残念でしたが、サーキットに足を運んでくださったみなさんには、心ゆくまで楽しんでいただけるものだったと考えています。これがトップ争いを含んだものであれば、さらに喜んでいただけたであろうことだけが残念です。
第7戦オートポリス大会での結果により、Hondaはタイトル獲得のチャンスを逃していましたが、このためもあって最終戦には「思いきり戦おう!」を合い言葉に挑みました。走行開始を翌日に控えた金曜日の夕方、Hondaの全ドライバーに集まってもらい、私からこんなメッセージを伝えました。「いよいよシーズン最後の一戦です。どうか、今回は悔いの残らない走りをしてください。そして、どうかレースを楽しんでください」 結果的に自分の走りに満足できなかったドライバーがいたかもしれませんが、少なくとも彼らは精一杯の走りを見せてくれました。これをファンのみなさんに見ていただけたことが今回は最大の収穫だったと思います。
もっとも、いくら一生懸命走った結果とはいえ、最上位が4位という成績はHondaのGTプロジェクトリーダーとして満足できるものではありません。我々が予想外の敗北を喫した最大の理由、それは前日ウエットコンディションのもとで行われた予選でのパフォーマンス不足にありました。
今季、ブリヂストン・タイヤを履く4台のHSV-010 GTは、ウエットコンディションでは必ずといっていいくらい苦戦を強いられてきました。ひょっとしたらタイヤの性能だけでなく、HSV-010 GTとのマッチングという側面もあったかもしれませんが、今年はセッション中に何度となく雨がふり、そのたびにHSV-010 GTはライバルに対してマージンを削った苦しい走りとなってしまいました。例外はダンロップ・タイヤを装着する#32 EPSON HSV-010で、気温や雨量がスイートスポットにはまれば、トップグループと遜色のないスピードを見せつけます。第4戦菅生大会で3位入賞を果たしたのがまさにそれで、今回もウエットコンディションの予選で4位に入り、これが決勝での健闘に結びつきました。
一方、残る4台の予選結果は、#100 RAYBRIG HSV-010が7位、#17 KEIHIN HSV-010(金石年弘/塚越広大組)が9位、#1 ウイダー HSV-010(小暮卓史/ロイック・デュバル組)が11位で、#8 ARTA HSV-010(武藤英紀/小林崇志組)は14位に沈み込んでしまいました。とはいえ、#8 ARTA HSV-010は予選1回目を走行中、シフトアップした拍子に後輪が瞬間的にロック、これでスピンを喫し、満足にタイムアタックを行えないまま予選を終えたという事情があります。
実は、予選2回目でタイムアタックを行えないまま終了してしまった#1 ウイダー HSV-010も状況はほとんど同じで、高速コーナーの130Rでシフトアップした瞬間にタイヤがロック、これでスピンアウトしました。そしてその後、リバースギアに入らずコースへ復帰できないまま終了となってしまいました。一方で、#100 RAYBRIG HSV-010の予選7位、そして#17 KEIHIN HSV-010の予選9位は、残念ながらこれがウエットコンディションにおける実力といわざるを得ません。そして、#32 EPSON HSV-010を除く4台がいずれも中位以下のグリッドに沈み込んだことが決勝での苦戦を招いたのです。
予選から一転してドライコンディションとなった決勝でも、Honda勢には苦難が待ち構えていました。第7戦のレビューでもお話ししたとおり、ブリヂストン・タイヤを履く4台のHSV-010 GTはオートポリスで“謎のグリップダウン”に見舞われました。そこで第8戦もてぎ大会では、従来の実績のあるタイヤとオートポリスで問題を起こしたとはいえ茂木ではメリットの見られる新しいタイヤの両方を持ち込むことにしたのです。一方、SUPER GTには週末にサーキットに持ち込めるタイヤは最大で8セットまでで、レーススタートまでに使用できるタイヤは申告した6セットという規定があります。普段であれば、予想される天候や気温にあわせて複数のスペックを持ち込むことができますが、今回は新旧タイヤの比較検討を予定していたため、普段ほど幅広いバリエーションを取りそろえることができません。そこで我々は決勝当日が比較的涼しくなると予想し、ソフトコンパウンドを中心としたラインナップを持ち込みました。しかし、結果的にこれが裏目となりました。決勝当日はレースが後半に入った午後3時の段階でも気温:25℃、路面温度:29℃と、10月中旬とは思えない温かさ。これだったらソフトよりもう1段階硬めのコンパウンドのほうがコンディションにマッチしていたはずです。
この影響をまともに受けたのがソフトタイヤでスタートした#1 ウイダー HSV-010と#100 RAYBRIG HSV-010でした。コンディションにマッチしないタイヤを履いていたために2台とも早い段階からラップタイムが落ち込み、#1 ウイダー HSV-010は21周目、#100 RAYBRIG HSV-010は19周目と比較的早めにピットインせざるを得ませんでした。1セットだけ持ち込んでいた硬めのタイヤに履き替えた後半は、トップグループを1〜2秒も上回る速いペースで周回しましたが、前半での失地をばん回するには至らず、11番グリッドからスタートした#1 ウイダー HSV-010は6位、7番グリッドからレースに挑んだ#100 RAYBRIG HSV-010は4位でチェッカードフラッグを受けました。
一方の#8 ARTA HSV-010はハードタイヤでスタート。このため32周目までピットストップを引き延ばすことができたうえ、その直前にはレースリーダーをしのぐ1分48秒台というラップタイムを記録していたので、上位を狙いタイヤ無交換で武藤選手をコースに送り出すギャンブルに打って出ました。この作戦はまずまずの成功を収め、#8 ARTA HSV-010は一時トップ10に食い込むまでポジションを上げます。しかし、最終的には決勝レース終盤に他車との接触でペナルティを科せられ、13位となりました。
残る#17 KEIHIN HSV-010はやや違ったアプローチでこのレースに挑みました。彼らは、オートポリスで問題となった仕様のタイヤとのマッチングが以前からよく、もてぎにもこれを中心としたラインナップを持ち込んでいました。そして硬めのコンパウンドを装着してスタートしたのですが、第7戦オートポリス大会のときと同じような“謎のグリップダウン”は軽かったものの、別のトラブルにより、7位で決勝を終えることとなりました。
#32 EPSON HSV-010は、前述したように上位グリッドからスタートしたメリットを生かしきり、4位でライバルを追撃していましたが、終盤に#100 RAYBRIG HSV-010にパスされ、5位フィニッシュとなりました。決勝中のペースも決して悪くなかったと思いますし、最後にパスされたのも3位のライバルを牽制する中で、ややガードが甘くなったところを山本選手に突かれたものでした。これまでにも何度となく、タイヤとコンディションさえうまくマッチすれば#32 EPSON HSV-010は速いと申し上げてきましたが、それが実証された格好になり、とてもうれしく思っています。
とはいえ、表彰台にさえ手が届かなかったのですから、負けは負けです。言い訳は言うつもりはありませんが、悔いの残るシーズンでした。来シーズンは、これまでの経験を生かして、ファンのみなさんのご期待にそえるような結果を残せるよう努力して参ります。まだ特別戦のJAFスプリントカップは残っていますが、2011年シーズンとしてはこれが一応の幕切れ。今年も1年間、熱い声援を送っていただき本当にありがとうございました。来年もどうぞHonda Racingをよろしくお願い申し上げます。