GTプロジェクトリーダー 瀧敬之介 現場レポート
vol.31 Rd.7 オートポリス プレビュー

逆転タイトル獲得への重要な一歩
雄大な阿蘇の大自然にHSV-010 GTの雄叫びを響かせる

 全8戦で繰り広げられる2011年シーズンのSUPER GTもいよいよ大詰めに入りました。第7戦の舞台は阿蘇山系の大自然の中に建つオートポリスです。

 全長4.674kmのオートポリスは最大登り勾配:7.2%、最大下り勾配:10%とアップダウンの激しいコース。また、低速コーナーから中速コーナーが主体で、それらが勾配との組み合わせで巧みに配置されており、最大横Gのかかり方が難しいコーナーが多いことも特徴といえます。中でも、サーキット内の最高地点に位置する左30Rコーナーは、旋回中にそれまでの登り勾配が下り勾配に反転するため、荷重が抜けた状態で向きを変えるという難易度の高い動きが求められます。さらにこの先、まるでジェットコースターのように急な10%の下り勾配を下りきった先には、右に2回大きく曲がるコーナーが控えています。ここもマシンに大きな負荷がかかるセクションで、ボディの良し悪しがそのままコーナリングスピードに影響しますが、ここから登りセクションが始まることからも、ここでのボトムスピードは落としたくない場所です。いずれにしても、オートポリスはシャシーへの負担が大きく、フレーム剛性の高いマシンが有利となります。つまり、基本的にはHSV-010 GTが得意とするコースだといえるでしょう。

 一方で、マシンのセッティングでは悩ましい部分もあります。まず、メインストレートから1コーナーおよび2コーナー、そしてコース半ばの登りセクション、ここは通過速度が比較的高めで、これらのセクションを合わせた距離はコース全体の中でも大きな割合を占めます。つまり、この区間を速い速度で走り抜くことができれば、それだけラップタイムの短縮にも大きく寄与することになります。しかし、路面が少々荒れているのは気がかりです。

 これとは対照的に、前述の下り勾配10%の短いストレートを抜けたあとは、タイトな複合コーナーが連続するテクニカルセクションとなります。しかも、この部分はメインストレートに至るまでずっと登り勾配が続きます。しかも、富士スピードウェイの最終セクション以上の勾配と小さなコーナーが続くことから、この区間のスピードをいかに高く維持するか、がラップタイムに大きく影響を与えるといえます。先ほどの中高速セクションより、やはりこちらを重視する方がラップタイム短縮には大切かとも思われ、一番の悩みどころです。

 中高速セクションをとるか、後半の低速セクションをとるか。シャシー剛性が高く、優れたコーナリン性能を有するHSV-010 GTは、ポテンシャル的には低速コーナーも高速コーナーも得意としていますが、セッティングをまとめるとなると、やはりある程度はどちらかに的を絞らなければいけません。この辺りのセッティングの方向性というか、バランスの取り方も、オートポリスでの勝敗を分けるカギとなるでしょう。これを、HSV-010 GTとしては初めて走る土曜日午前中の練習走行、この時間でものにしなければなりません。

 また、オートポリスは車重の違いが敏感にラップタイムに反映されるサーキットでもあります。言い換えれば、ちょっとした車重の違いがラップタイムの大きな差となって跳ね返ってくるのです。この点、ハンディウエイトの影響は大きいといえます。ところで、SUPER GTでは獲得ポイントに2kgを掛けた数字がハンディウエイトとされますが、第7戦ではこれが半減されてポイント×1kgとなり、最終戦ではハンディウエイトそのものが撤廃されます。ちなみに、現在タイトル争いの2番手につけていて、Honda勢としてはランキング最上位の#1 ウイダー HSV-010(小暮卓史/ロイック・デュバル組)はこれまでに52ポイントを獲得。一方、ポイントリーダーを務めるライバルは60ポイントを獲得しています。つまり、52kg対60kg。いくら重量に敏感なオートポリスとはいえ、8kg差であればないも同然。言い換えれば、互角の条件で戦うことになるといえます。いずれにしても、オートポリスで8点差を逆転できれば、最終戦もてぎにも余裕をもって臨むことができ、戦い方にも幅が生まれてきます。その意味からも、我々にとっては上位フィニッシュを果たすことが極めて重要となります。しかも、ランキング3番手以降のライバル達も、ほぼ同じようなウエイトで上位を狙って来ます。これらとの戦いも考慮しながら戦略を立てなくてはなりません。トラブルフリーで勝ち抜くためには、サスペンションやステアリング系へかかる高い負荷に対する対策も大切です。

 NSXでSUPER GTを戦っていた当時には何度も訪れたことのあるオートポリスですが、フロントエンジンのGTマシンで走行したのは、HSV-010 GTが完成する前のプロトタイプカーで1度テストを行っただけ。このときは好感触をつかみましたが、HSV-010 GTによる走行データはまったくありません。しかも、プロトタイプカーからHSV-010 GTでは大幅に車両特性が変わっています。このため、第7戦はある意味でぶっつけ本番となりますが、その時々で最善の判断を下す“臨機応変”な戦い方をすることで、自分たちの持てるポテンシャルを丁寧に引き出すつもりでいます。

 阿蘇山系に甲高いエキゾーストノートを響かせながらオートポリスを戦う5台のHSV-010 GTにぜひ、熱い声援をお送りください。どうぞよろしくお願いいたします。