GTプロジェクトリーダー 瀧敬之介 現場レポート
vol.28 Rd.5 鈴鹿 レビュー

波乱のレースで#1 ウイダー HSV-010が快勝
逆転のタイトル獲得に弾みをつける

 SUPER GT第5戦で#1 ウイダー HSV-010(小暮卓史/ロイック・デュバル組)が接戦を制し、今季2勝目を挙げてくれました。ご存じのとおり、今回のレースは途中で雨脚が強くなったり弱くなったりを繰り返し、そのたびにさまざまな波乱が起きました。決勝中に雨が降ることはあらかじめわかっていたため、荒れたレースになることもある程度は予想していましたが、それにしてもHonda勢にとってはあまりに浮き沈みが激しいレースだったので、チェッカーフラッグが振り下ろされて#1 ウイダー HSV-010の優勝が決まったときは、「うれしい」というよりも「ほっとした」という気持ちの方が強かったくらいです。今回は、5台のHSV-010 GTの戦いを順に振り返ってみましょう。

 まず、#8 ARTA HSV-010(武藤英紀/小林崇志組)は13番グリッドからスタートし、9位でフィニッシュしました。これだけを見るとやや地味な結果に思えるかもしれませんが、内容はとてもよかったと思います。特に決勝レースでは武藤選手も小林選手も堂々とした、いい走りを見せてくれました。その力走が成績に結びつかなかったのは、1つには最近だいぶんよくなっていたGT300の処理で失敗し、ペナルティを受けてしまったこと、そしてそういった状況を作ってしまったのは、やはり予選結果がよくなかったことに原因があると思います。決勝であれだけいい走りをしてくれるんですから、2人にはもう少し予選でもがんばってもらいたい。それが今後の課題といえるでしょう。

 第4戦菅生大会で3位表彰台を得た#32 EPSON HSV-010(道上龍/中山友貴組)は、今回もタイヤとコンディションがぴったりとマッチし、非常に速いところを見せてくれました。実は#32 EPSON HSV-010は、走り出しからメカニカルトラブルに見舞われ、全くセッティングができないままで予選となり、14位とかんばしくない位置でのスタートとなってしまいました。この位置からでは、スタート直後に遅いクルマのペースに付き合わされるのではないかと心配していましたが、前半戦を受け持ってくれた道上選手はトップグループより1周あたり2秒近く速いペースで追い上げ、10周目には5番手までポジションを上げてくれました。このときの快走ぶりには本当に目を見張らされました。しかしその直後、最終コーナーでほんのわずかにラインを外したところ思った以上の水量があり、そのままフロントが逃げてスポンジバリアに激突。道上選手にとっては珍しいミスでしたが、あの難しいコンディションを考えればやむを得ない側面もあったと思います。クルマへのダメージは決して小さくなく、エンジンのエアインテークにはスポンジバリアの破片が挟まり、スポイラーも割れている状態でした。しかし、再び走り始めたところ速く走れており、ストレートで確認した範囲ではマシンも危険な状態では無さそうだったため、ピットに呼び戻さず走り続けたところ、レース終盤の62周目には何と4番手まで盛り返してくれました。そして2回目のピットストップではかなり路面が乾き始めていたこともあり、思いきってスリックタイヤを装着したのですが、結果的にはペースが上がらず、フィニッシュ直前にもう1度ウエットタイヤへの交換を行って13位となりました。結果は残念でしたが、前回の菅生同様、状況次第ではトップクラスの速さを持っていることが証明されました。きっと、今後のレースでもいい走りをしてくれることでしょう。

 6番グリッドからスタートした#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/山本尚貴組)も、序盤はやや順位を下げましたが、その後は伊沢選手が非常にいいペースで追い上げてくれたほか、20周目のピットストップでステアリングをゆずり受けた山本選手はファステストラップを記録しながら順位を上げていき、36周目には4位まで浮上します。ところが、41周目にヘアピン先の200Rで縁石に乗ってしまい、リアからスポンジバリアに突っ込む格好となり残念ながらリタイアとなってしまいました。今回、#100 RAYBRIG HSV-010は予選で大クラッシュを演じ、そのときドライビングしていた伊沢選手はかなりショックを受けましたが、私は「攻めた末のクラッシュは仕方がない」と言って彼を励ましました。もちろん、クラッシュはないに越したことはありませんが、それよりも、前回の菅生大会から伊沢選手本来の元気のいい走りが戻ってきてくれたことのほうが私にはうれしかったのです。今後の山本選手も、決して今回のクラッシュに臆することなく、常に前を見て攻め続ける元気のいいレース運びを見せてくれることを期待しています。

 #17 KEIHIN HSV-010(金石年弘/塚越広大組)は予選でHonda勢最速の2位に食い込んでくれました。彼らの速さは本当に折り紙付きだと思います。ただし、決勝では少しスロースターターの部分があるんですね。最近はそれが無かったのですが今回はそれが久しぶりに出て、レース前半に11位までポジションを落としてしまいました。もっとも、そこからは徐々に反撃に転じて順位を上げてくれましたが、その矢先にダンロップコーナーで水に乗ってしまい、スポンジバリアに突っ込んでしまいます。しかもこの事故がたまたま黄旗区間だったためにペナルティを科され、12位に終わってしまいました。今回の結果は実力通りでないことは言うまでもありません。次戦でのリベンジを楽しみにしています。

 #1 ウイダー HSV-010(小暮卓史/ロイック・デュバル組)は3番グリッドからスタートして今季2勝目を勝ち取ってくれました。勝因としては、まず、第1スティントのデュバル選手が一旦はスタートの混乱で順位を下げながらもあきらめずに追い上げ、よいポジションで次につなげたこと、そして、レース中盤の第2スティントを受け持ってくれた小暮選手が安定して速かったことが挙げられます。当初、小暮選手には30ラップほどを担当してもらう予定でしたが、あまりにペースがよかったので、結果的には36ラップ走ってもらいました。タイヤがかなり厳しい状況の中、集中力だけで好タイムを連発した小暮選手のここで築いたマージンが、最後の最後で優勝に結びついたことは間違いありません。
 第3スティントを担当したデュバル選手もタイヤが厳しい中でも気迫のこもった力走をしてくれました。これも大きな勝因の1つです。レース終盤にほとんど雨が止んだとき、トップを走る#1 ウイダー HSV-010の後方に、現在ポイントテーブルでトップに立っている我々のライバルが迫ってきました。#1 ウイダー HSV-010はウエットタイヤ、件のライバルはスリックタイヤを装着していたので、この段階での不利はやむを得ません。ところが、タイヤが既に厳しいはずのデュバル選手にペースアップを指示したところ、彼は我々の期待に応え、それまでよりも1秒近くペースを上げてくれました。結果的には1.4秒差まで詰め寄られたところで雨が降り始め、ライバルを突き放すことに成功しましたが、あのときのデュバル選手のふんばりがなかったら、また違った展開になっていたかもしれません。
 また、今回は2回のピットストップが義務づけられましたが、ウイダー ホンダ レーシングのピット作業の奮闘もあり、いずれのピットストップでもライバルチームより速いピット作業でマシンをコースに送り出すことができました。このチームワークも勝因の1つに挙げられると思います。

 実は、我々も第3スティントでスリックタイヤを装着することは検討していました。ただし、雨はあくまでも降り続くと予想していたので、2回目のピットストップでもウエットタイヤを装着したのです。一方、前述のライバルは、一時、10番手まで順位を落としたものの、路面が乾き始めると急速に盛り返し、80周目には#1 ウイダー HSV-010の直後にあたる2番手まで浮上します。このときのタイム差は約12秒。ライバルのペースは#1 ウイダー HSV-010より3〜4秒速く、しかも残り周回数が7周あったため、これは絶体絶命のピンチと、緊張感を持って事態の推移を見つめながら、2回目のピットインから雨の再来を予測しレーダー情報で注視していた雨雲が必ず来ると信じて待ちました。そして、81周目には西コース側から小雨が降り始めるとともに、やがて雨の降るエリアが広がり、雨脚も強まってきました。そしてギリギリのところで当初の狙い通りに逃げきることができました。神様が最後は恵みの雨を我々にもたらしたといえるかも知れませんが、最後まで自分たちの作戦を信じてふんばって走り続けた結果、やっとつかみ取ることができた栄冠といえると思います。

 これで#1 ウイダー HSV-010はチャンピオン争いのドライバー部門で2位に浮上しました。前述のポイントリーダーとは12点差。残るは3戦。敵のタイヤはどこでも高いパフォーマンスを見せてはいますが、今後も1戦1戦大切に戦い、着実にポイントを積み重ねていけば十分に逆転可能だと考えています。同様にチーム部門でもまだチャンスは残されています。タイトル連覇を目指し、これからも全力を尽くして戦っていきますので、HSV-010 GTへのご声援を引き続きよろしくお願い申し上げます。