GTプロジェクトリーダー 瀧敬之介 現場レポート
vol.26 Rd.4 菅生 レビュー

ついに表彰台に登った#32 EPSON HSV-010
5台のHSV-010 GTの底上げが見えて来た

 SUPER GT第4戦菅生大会でダンロップ・タイヤを履く#32 EPSON HSV-010(道上龍/中山友貴組)が3位入賞を果たしました。これまではタイヤとマシンのマッチングに手こずり、なかなか上位争いに食い込めませんでしたが、今回は初めてレースらしいレースを戦って表彰台に登りました。まずはドライバーとチームのみなさんにおめでとうとありがとうを申し上げたいですね。
 実は、7月後半に鈴鹿サーキットで行ったタイヤテストで#32 EPSON HSV-010は総合2番手となるタイムをマークし、好感触をつかんでいました。これまで課題だったタイヤとマシンのマッチングに関して、これで目指すべき方向に目処が立ったことになります。
 #32 EPSON HSV-010は公式予選で4番グリッドを獲得。決勝レースでは、前半部分を受け持った中山選手がアンドレ・ロッテラー選手の乗るレクサスSC430の猛攻をしのいでくれたほか、道上選手は、タイヤ交換直後の難しい状況の中、背後に迫ったニッサンGT-Rを見事に振りきってくれました。2人の活躍がなければ、レースはまったく違った展開になっていたでしょう。特に道上選手はクールスーツの水ジョイントがつながらないまま、こん身の走りを続けてくれました。このトラブルがなければピットストップ時間も短くなり、また違った展開もあったかも知れませんが、それは言っても仕方ありません。その時の状況の中、最善の結果を引き出してくれたと思っています。また、チームが準備した車輌の仕上りのよさもポジションを上げる大きな原動力となりました。つまり、#32 EPSON HSV-010の3位入賞は、チーム全員が力をあわせてつかみとった成績だといえると思います。

 今回の菅生大会では#8 ARTA HSV-010(武藤英紀/小林崇志組)の成長ぶりにも目を見張らされました。SUPER GTを戦った経験が豊富とはいえない武藤選手と小林選手は、GT300クラスの処理があまり得意ではありませんでした。このため、これまではGT300クラスのマシンに追いついたとき、いったん彼らと同じところまでスピードを落としてから、改めて抜きにかかっていましたが、これだとどうしてもロスタイムが大きくなってしまいます。ところが、前回のセパン大会の頃から自分のペースを落とすことなく、追い抜くタイミングを見計らって、ずばっとGT300クラスのマシンをパスできるようになり、この傾向が今回は一層顕著になりました。
 こうしたテクニックを身につけるには、どうしても時間がかかります。したがって#8 ARTA HSV-010が本領を発揮するのはシーズン後半戦になってからと予想していましたが、2人のドライバーは見事にその期待に応えてくれました。これで#32 EPSON HSV-010を含め、5台のHSV-010 GTがすべて上位を狙えるポテンシャルを手に入れつつあることになります。今シーズンは「5台の底上げ」を1つテーマとして掲げていたので、この点については確かな手応えを感じているところです。

 菅生大会では、もう1つうれしいことがありました。#100 RAYBRIG HSV-010に乗る伊沢拓也選手が予選で久しぶりに活きのいい、彼らしい走りを見せてくれたことです。最近の伊沢選手のドライビングは、きれいにまとまってはいるけれど、どこかがむしゃらに前を目指す走りに欠けている気がしていました。
 そこで伊沢選手には「もっと思いきって攻めた方が伊沢らしい」とアドバイスしたのですが、今回はこれを見事に実践してくれました。チームメートの山本尚貴選手ともども、これからもアグレッシブに戦い、優勝争いを演じて欲しいと期待しています。

 #1 ウイダー HSV-010(小暮卓史/ロイック・デュバル組)は公式予選で11位と苦戦しました。48kgのハンディウェイトが重くのしかかったという側面もありましたが、それ以上に、今回は波に乗りきれなかったように思います。また、今回始めて履くブリヂストンのタイヤ性能を引き出す面で少々悩んだ感じもしていました。そこで決勝では、気温:21℃、路面温度:22℃と例年になく寒いコンディションの中、あえてハードタイヤを装着し、タイヤ無交換も視野に入れた作戦を立てました。これが図に当たり、#1 ウイダー HSV-010は着実に順位を上げていきましたが、19周目の1コーナーでブレーキングミスによりオーバーラン。マシンは無傷だったので、そのままコースに復帰しようとしたところ、後続の車両に追突されてタイヤがパンクし、これで致命的な遅れになってしまいました。その後、タイヤ交換を済ませ、ピットロード出口を目指して走行していましたが、他車がまいたオイルなのか詳細は不明ですが、突然フロントのグリップを失いガードレールに激突、これでサスペンションに大きなダメージを負い、リタイアを余儀なくされました。

 エース格の#1 ウイダー HSV-010を失ったことはHondaにとって大きな痛手でしたが、こういうときに#17 KEIHIN HSV-010(金石年弘/塚越広大組)がしっかり走りきって6位入賞を果たし、5点を勝ち取ってくれたので、とても心強いと思いました。これで#17 KEIHIN HSV-010はポイントランキングの2位をキープ。4位となった#1 ウイダー HSV-010とともに、今後もシリーズチャンピオン争いの場に、Hondaとして踏みとどまることができます。

 次の第5戦はHSV-010 GTがもっとも得意とする鈴鹿サーキットでの開催。Hondaにとって鈴鹿はホームコースでもあるので、ぜひともここで2勝目を挙げ、後半戦に弾みをつけたいと考えています。今後もHSV-010 GTの活躍にどうぞご期待ください。