vol.24 | Rd.3 セパン レビュー |
灼熱レースで本領発揮したHSV-010 GT |
SUPER GT 第3戦セパン大会で#1 ウイダー HSV-010(小暮卓史/ロイック・デュバル組)がポール・トゥ・ウインでの優勝、そして#17 KEIHIN HSV-010(金石年弘/塚越広大組)が3位入賞を果たし、そろって表彰台に上ることができました。ここで皆さんのご声援に改めてお礼を申し上げます。ありがとうございました。
これが今季初優勝。これまで勝てるレースをふたつ落としているので、やっと勝てたことにほっとひと安心しました。自分たちとしてはようやく順当な結果を出せたと考えていますが、2位に入ったニッサンGT-Rとのレースラップでのタイム差は決して安心できるものではありません。この点は今後の課題として謙虚に受け止めたいと考えています。
今回、#1 ウイダー HSV-010と真っ向勝負を演じたGT-Rは、Honda勢が使用していないメーカーのタイヤを履いています。このため我々にはその特性がわからず、ペースの上り下がりがどのようになるかを推測しにくい状況となりました。たとえば、今回のレースではスタート直後にデュバル選手がポーンとリードを広げてくれた。けれども、そこからじわじわと差が詰まって、その後3秒差くらいまで再び引き離したと思ったら、また追い上げてきた。再びやや差を詰められた21周目を走り終えたところでピットストップを行いましたが、本当は追い上げられる直前、つまりもう2、3ラップ早めにピットストップを行ったほうがよかったのかもしれません。しかし、小暮選手にどのタイヤを履かせるかの判断には、21周まで走らせたかったのです。いずれにせよ、我々と彼らの間には、あまりスピードの差がなかったので、万一抜かされていたら、かなり厄介なことになっていたでしょうから、デュバル選手の踏ん張りには価値があります。そして、後半を受け持った小暮選手はレース終盤にライバルを大きく突き放してくれたので、安心して見守ることができました。
今回の勝因は、やはりHSV-010 GTのタイヤに優しい特性にあったと思います。気温30℃を大きく上回る猛暑の中で、タイヤの持つ性能をフルに引き出すことができた結果、2011年型HSV-010 GTの特色であるレーススピードの速さを長時間にわたり発揮できた。これがライバルを打ち破る原動力になったと考えています。
今回のレースでもうひとつ重要なのは、HSV-010 GTが暑さに強いクルマであることが実証された点にあります。これにはふたつの側面があります。ひとつは車両自体の冷却、もう少し具体的にいえばエンジンの冷却です。サイドラジエターにしたことで、夏場の冷却面で未知数の部分があることは前回、お話したとおりです。自分たちとしては十分な性能を与えたつもりでも、実戦では何が起きるかわからない。その部分に一抹の不安というか心配があったのですが、セパンのレースでこれが解消されました。
実は、セパンの直前、我々は急きょラジエター冷却ダクト内の空気の流れを見直しました。レイアウトの都合上、冷却ダクトはエンジンルーム内で大きくうねった形状になっており、このためラジエターの全面に均一に冷却気があたっていませんでした。これを少しでもそろえるよう、今回一部見直しをした次第です。
このぎりぎりで適用した対策の効果でしょうか、冷却気の排出口を半分くらい塞いでもレースを戦うことができました。つまり、冷却能力にはまだ余裕があったということです。最後まで可能性を追求したことで、今後はこの余裕を性能面に振り分けることもできることになり、その意味では大きな収穫でした。
もうひとつ今回のレースで確認できたのは、クールスーツの効き具合です。昨年のセパンでは、ドライバーの身体を冷やすクールスーツに次々とトラブルが発生した結果、一部ドライバーが体調を崩し、これが原因で優勝を逃す形となりました。その後、多角的に原因を究明し、信頼性向上の対策を施しましたが、今回のセパンで問題が起きなかったことで、ようやくこの問題を乗り越えられたという確信がえられました。
ふたつの問題が解消されたことで、これから夏場に向けたレースを安心して戦っていけると考えています。シーズン全体の流れからすればこれは大変な重要なことであり、セパンで手に入れた大きな成果だといえます。
優勝した#1 ウイダー HSV-010に続き、#17 KEIHIN HSV-010が3位に入ってくれたことも収穫でした。これで金石選手と塚越選手はポイントスタンディングで首位と1点差の25点で2位に浮上。チャンピオン獲得の可能性が大きく広がりました。#1 ウイダー HSV-010も24点にポイントを伸ばし、ポイントスタンディングで3位と大躍進を図っています。今後はこの2台を軸に、タイトルの可能性を追求することになると思われます。
今回は#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/山本尚貴組)にも上位入賞のチャンスがありましたが、ライバルを追走中にスピン、これで一時は最下位まで順位を落としてしまいます。それでも伊沢選手と山本選手のふたりが追い上げて、7位までばん回してくれました。よくがんばってくれたと思います。
#8 ARTA HSV-010(武藤英紀/小林崇志組)も4位を狙えるポジションにつけていましたが、ピットストップの際、ホイールナットトラブルに見舞われ、大きく順位を落として9位でフィニッシュしました。ただし、今回は武藤選手の力走が光ったほか、小林選手もGT300クラスの車両をスムーズにかわすテクニックを走りながら身につけたようで、公式練習以上のペースでラップタイムを刻んでくれました。今後#8 ARTA HSV-010はさらに実力を身につけて、シーズン終盤にポイントを積み重ねて欲しいと期待しています。
#32 EPSON HSV-010(道上龍/中山友貴組)は今回、コンディションとタイヤがうまくマッチせず、苦戦しました。ただし、気温さえ合えば速いことは練習走行で実証されたので、#32 EPSON HSV-010もシーズン終盤までには入賞する速さを身につけ、#8 ARTA HSV-010とともに大量ポイントを獲得できれるようになればHondaとしては理想的な展開になります。
いずれにしても、まだたった1勝です。チャンピオン争いでいえば、やっとスタートラインに並んだようなものです。これをひとつのターニングポイントとして、シーズン中盤戦から後半戦を力強く戦っていきたいと考えています。
第4戦菅生大会は7月30〜31日の開催です。菅生はHSV-010 GTと相性のいいコースのひとつ。被災地のみなさんを含め、ひとりでも多くのみなさんにサーキットにご来場いただきたいと思います。今後とも5台のHSV-010 GTに熱いご声援をよろしくお願いします。