GTプロジェクトリーダー 瀧敬之介 現場レポート
vol.5 Rd.3 富士スピードウェイ レビュー
富士の高速バトルで見えた次の一手

 ある程度、予想されたことではありましたが、HSV-010 GTは富士で苦戦を強いられました。最上位となった17号車が5位で、第2戦岡山で優勝した18号車は大きなトラブルがなかったのに7位でフィニッシュとなってしまったのですから、残念な結果としかいいようがありません。

 前回のプレビューでもお話しましたが、富士には長さおよそ1.5kmという、世界でもあまり例のない距離のストレートがあります。このため、最高速度の伸びがラップタイムに大きな影響を与えますが、これまでの戦いを通じてHSV-010 GTが最高速度の点でやや不利な立場に立たされていることは明らかで、たとえば鈴鹿のバックストレートではライバルに4〜5km/hほど差をつけられていました。このままでは好成績は望めません。そこで富士のレースに照準をあわせて、ロードラッグの新しい空力パッケージを開発し、投入しました。
 この空力パッケージは期待通りの効果を発揮して、HSV-010 GTの最高速度は5km/hほど向上しました。ただし、ドラッグ(空気抵抗)を減らしたぶんダウンフォースも減るので、そのままではコーナリングやブレーキング時の安定性が低下する傾向となります。ダウンフォースで路面に車体を押さえつける力が減れば、車体の安定性が低下するのは自然な流れといえるでしょう。ですから、サスペンション等のセッティングで、最高速と安定性のバランスポイントを見つける必要があります。今回、Hondaはこのセッティングのバランス取りにも取り組みましたが、現在のSUPER GTではテストの機会が極端に少ないので、基本的には“ぶっつけ本番”でレースに臨むことになってしまいました。つまり、時間不足、準備不足のなかで、新しい空力パッケージを使わなければならなかったのです。そうしたなか、8号車のようにバランス取りがうまくいったマシンもあったいっぽうで、18号車のように満足できる状態にならないまま決勝レースを迎えたマシンもありました。富士では、こうしたセッティングの差が成績に結びついたという一面がありました。
 これ以外にも、苦戦を強いられた理由はいくつかあります。たとえば、富士仕様の空力パッケージを装着したHSV-010 GTは最高速度をぐんと伸ばすことに成功しましたが、ライバル勢も負けず劣らず最高速の向上に取り組んできたようです。なかでもSC430勢の進化は著しく、結果的に5km/h程度の差がほぼそのまま残る格好となってしまいました。

 もうひとつ残念だったのは、Honda陣営のなかでいちばん好調だった8号車がレース中にGT300クラスのマシンと接触し、これがきっかけでリタイアに追い込まれたことが挙げられます。レース序盤、8号車は3位争いを演じていたのですから、彼らが生き残っていてくれたら、もう少し違った結果を残すことができたと思います。
 いっぽう、最高速度の不利を少しでも挽回するため、今回はレース戦略の面でも工夫を凝らしました。ライフの長いミディアムタイアの特徴を活かし、17号車、18号車、100号車の三台は2回目のピットストップでタイヤ無交換という作戦に出たほか、32号車は10周目という極端に早いタイミングで1回目のピットストップを行なって、目の前が開けた状態で周回を重ねることを狙いました。ただし、どちらも期待したほどの効果は得られませんでした。この結果、今回は勝利を逃すこととなってしまったのです。

 冒頭に、富士での苦戦は「ある程度、予想されたこと」と言いましたが、それでも、勝てなかった悔しさに変わりはありません。ゴールデンウィーク中に富士まで足を運んで応援してくださったファンの皆さんには申し訳ない気持ちでいっぱいです。ただし、そうした苦しいレースのなかでも新たな試みに挑戦し、今後に希望を抱かせるデータが得られたことは大きな成果でした。失敗から学ぶ。これも、Hondaのチャレンジング・スピリットといえます。今回得られたデータを活用し、猛暑のマレーシア・セパン・サーキットが舞台となる第4戦では雪辱を果たすつもりなので、これまでと変わらないご声援をよろしくお願いいたします。
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