マシン解説

これまでのNSX−GTは、ミッドシップレイアウトのため旋回し易い半面、安定性に欠ける面があった。HSV-010 GTでは、「速さ」と「安定性」の両立を徹底的に追求。NSXは多くの人らから、“コーナリングマシン”と言われていたが、HSV-010 GTではNSXを超える“究極のコーナリングマシン”を目指した。

HSV-010 GTは、Hondaにとって未知のFR駆動(フロントエンジン・リアドライブ)によるSUPER GTマシンである。新しいチャレンジでもNSX-GTの歴史で培った技術と開発者の想いを乗せ、誰のマネもすることなく、“扱い易い高性能”を“技術で”創ることに挑戦。各所にNSXで培った実績のある技術と、新開発の技術を融合。車体は、メインフレームの剛性バランスを最適化することで理想的な車体性能を実現。エンジンは、フォーミュラニッポンの3.4L V8エンジンをベースに、SUPER GT用に最適化した「HR10EG」を採用。

HSVは、Honda Sports Velocityの略で、Velocityとは“速さ”、“速度”の意味。その名の通り、モータースポーツの原点である速さを追及。またVelocityの意味には、“方向性をもった速度”の意味があり、このHSV-010 GTがこれからのHondaのレーシングマシン造りの方向性と開発メンバーの“速さ”にこだわる気持ちを表現。

「SUPER GTマシンはレギュレーションで、全長、全幅、車体厚み、ホイールベース、前後のオーバーハングの長さが細かく定められています。またベース車輌の基本形状は活かさなければならないので、この中でいかに機能を追及するかがカギとなります。
『フロントにエンジンが積まれて無いんじゃないか?』と言うファンの声があるようですが、決してそんなことはありません(笑)。ベース車輌のデザインが、強いウェッジとリア周りのボリューム感が特徴となっている事から、相対的にフロントフードが低く見えています。リア周りは大変苦労した結果、これまでのSUPER GTマシンにはない、“斬新なデザイン”に仕上がったと自負しています。
マシンのイメージとしては、猛禽類のような迫力や力強さを感じて欲しいとは思っています。しかしレーシングマシンである以上は、どんなに格好がよくても、速くなければ何の意味もありません。勝利という“獲物”を獲得できるよう、まだまだマシンの熟成をしたいと思っています」

「Hondaらしい官能的なサウンドを求め、8-4-2-1集合レイアウトを採用しました。既にNSX-GTでも1本出しのマフラーを採用していましたが、HSV-010 GTでも音とエンジン性能両立の見通しが立ちました。環境にも配慮して2010年より、キャタライザー(触媒)の装着も義務付けられています。
開発中には、排気管の取回しを工夫したことで出力は向上しましたが、音が悪くなったので却下しました。それぐらい音にはこだわりました」

「リアウイングのスティが外に出ている特徴的なリアビューですが、これはリアオーバーハングの短さを活かし、レギュレーションの規定値いっぱいまで、利用した結果です。ファンの間では、『ここに空力の秘密がある!』と言われているようですが、そんな秘密はありません。空力性能はまだ'09 NSX-GTと同等なので、まだまだ改善が必要です。なおこのスティは、排気系の保護も兼ねており、NSX-GTで追突されて火災となったこともあるので、新しいトライとして採用しました」