小暮 「それは、外国人のロイック(・デュバル)にもわかるみたいで、『今年は何が何でも勝つぞ』って話を2人でよくしていました。言葉じゃなくても伝わるものがクルマ全体から放たれているというか、あのHSV-010 GTというクルマを走らせることは、そのくらい背負うものが大きかったんです。それなのに、開幕戦はあんな結果になったじゃないですか。本当にあのあとは生きた心地がしないというか、どうしよう……って、すごく苦しかったですね」
瀧 「まあ、あの後は壊れた車を次のレースまでにきちんと直せるか、っていう苦労がすごくあった。今シーズン一番大変だったかもしれない(笑)。それはそれとして、小暮自身も最初のテスト走行から携わってもらって、開発チームの一員みたいなものだったから、余計そうかもしれないね。ほんと、夏も冬も、季節を問わずたくさん走ったよね……」
HSV-010 GTの「はじめの一歩」に立ち会って
若手エンジニアたちがNSX-GTをベースにしてゼロからつくりあげた、「俺たちのクルマ」が完成したのは2007年の終わり頃。生まれたばかりのクルマを走らせながらデータを集め、HSV-010 GTへの道筋を完成させていく役目は道上選手、そして小暮選手が担っていた。HSV-010 GTのデビューイヤーを終えたいま、HSV-010 GTの「はじめの一歩」を、小暮選手と瀧に振り返ってもらった。
瀧 「小暮にも乗ってもらった最初のプロトタイプ、『プロト1』というのは、NSX-GTをベースにして単純にFR化しただけのクルマでした。空力も考えられてないし、重いし。でも、とにかく若いエンジニアたちにクルマづくりというものを学ばせたくて、彼らに設計をやらせたんです。それが2007年の終わり頃。小暮はNSX-GTでレースをしながら開発テストにも参加してたから、頭のスイッチを切り替えるの、大変だったよね」
小暮 「いやぁ、大変でしたね。NSX-GTと、このときのプロトタイプは完全に『似て非なるもの』でした。でも、滑ったあとのマシンコントロールがやりやすいというか、そういういい点もあるんですけど、正直に言ってNSX-GTのような『俊敏さ』はなかったですね。特に、このプロトタイプの開発が始まった2007年の頃のNSX-GTなんて、これ、フォーミュラカーじゃないのかな?ってくらい、カミソリみたいに研ぎ澄まされたコーナリング性能だったんです。それと比べちゃうのはかわいそうかもしれないけど……」