| 今勝っているのか負けているのか、トライアルはレース中の順位が分かりにくい。そのため監督は、15セクションあるセクション毎にライバルの走りも見て、その減点状況を逐一ノートにメモしている。しかし、そのメモの内容を、状況によっては藤波選手が知りたいという時でも、教えないことがあるという。逆に、藤波選手が知りたくないというときに、“知っておいた方がいいのではないか？”とアドバイスすることもあるという。そうした戦況を選手に伝えるか伝えないか、その判断の目安は微妙なものであるらしい。
「それは非常に難しいことであって、これといった判断の基準はありませんが、一番基本になるのは選手の調子ですね。選手が緊張しているときには、戦況は教えない。やはり選手の気持ちが分かっているので、変なプレッシャーをかけないようにします。たとえそれがいい話であっても悪い話であっても、あえて何も言わない時もあります。逆に、すごく安定して自信がある時には、今勝っているとか負けているとかが言える。何を言われてもそれを超えていける、と思う時には言います。特にレースの終盤で、そのセクションの結果によって勝負が決まってしまう時には、監督として今言っておいた方がよいかどうかライダーの気持ちを理解して、その時々判断しています」
ときには悩みながらも、ともに戦ってきた。藤波選手との長いつきあいの中で、これまでで一番思い出に残るのは、やはりチャンピオンを獲ったときのことだという。
「一番印象的だったこと、それはやっぱり藤波選手がチャンピオンになったときのことですね（笑）。彼は本当に長い間安定した走りでずっと頑張ってきて、何年もランキング２位という結果になってしまっていました。彼が世界のトップに立ったその瞬間は、皆にとって本当に素晴らしい瞬間でした。それはスイスGPでのことで、今でもよく覚えているのですが、彼の両親に本当に何度も何度も感謝されました」
藤波選手とシレラ監督が直面した、最大のピンチ。それは今年の開幕戦で、藤波選手が左手の人差し指を骨折していた時のことだった。周囲の者は誰もが“出場できる状態ではない”と思うような状況だった。だが、シレラ監督だけは、藤波選手にポイントを取りに行くようにアドバイスした。その判断に迷いはなかったのか。そしてまた、そう決断する決め手になったものは、いったい何だったのだろうか？
「それは非常に難しい判断でしたけれども、藤波選手の怪我を治療したスペイン人のドクターは実はトライアルもやっている人で、トライアルのことをよく知っている人でした。そのドクターの判断で、本人が走れるならば出場は可能だということだったので、藤波選手に走るように勧めたのです。本当にやっていけるのであれば、皆の賛成を得てやってみよう、今年も藤波選手で行こうと決めたのです。最初はドクターがずっと藤波選手に付き添いながら参戦することになりました。こうしたドクターのカバーもあって６位になることができたので、このまま続けて行こう、となったわけです」
このインタビューが行われたのは、ウイダー日本グランプリ大会前日のことだった。その時点でシレラ監督が藤波選手に望むこと、今シーズン通して藤波選手に望むこと。これらについて、シレラ監督は明確に答えてくれた。
「今年はとても難しい年であると思います。我々モンテッサ・チームも日々進化しているわけですけれども、我々だけではなく当然ライバル・チームも特に今年は強くなっています。同じレベルにあるチームも他にたくさんある中で、今年は骨折などもあってそれが少しハンデになっていますね。でも藤波選手は日本GPでは特に強いので、2000％の力を出してくれるのではないかと思っています（笑）。本当にいいパフォーマンスが期待できると思うし、それが藤波選手なのです。１戦１戦のレースでいつも優勝することが目標なのですが、今年に関しては、何が起こるか分からない。たとえば前回のアメリカGPでも、絶対に優勝できると思っていたのですが、結果はちょっと予想外でした。期待はできるけれども、外れることもあります。今年の目標は、やはり藤波選手とドギー・ランプキン選手の2人でチャンピオンシップを獲得することです」
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