鈴鹿8時間耐久ロードレース
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失敗から生まれる勝利。Part3 : 勝利へ向けての準備

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Part3 : 勝利へ向けての準備

どうすれば失敗するのか

基本的な役割を担当者に徹底させ、具体的なピットワーク作業の訓練に入ったのは91年の5月頃だ。各自の日常的な担当業務をこなしながらも、練習は1日17回以上、7月末のレースウイークまでほぼ毎日行われたという。

1時間ごとに1回のピットワーク作業を、練習では何度も繰り返して行う。そうすると、何回かに一度は必ず失敗する。ピットワーク作業の短縮=時間の短縮は、そのままラップタイム向上につながる。もっといえば、年々短縮されていく給油作業に要する時間に合わせて、タイヤ交換作業も短縮されていく。

作業でちょっとしたミスが起こると、それをリカバリーするには通常の倍の時間がかかるという。ピットワークの失敗=停止時間の延長は、それだけ走行するライダーへの負担になり、目的地に到達するためのダイヤグラムに狂いを生じさせる。だから、当然のように“失敗しないように”と誰もがプレッシャーを感じる。

また、不測のトラブルで変わってしまった時間の流れを元に引き戻すことができる可能性を、唯一残しているのもピットワークなのだ。“何かあったら、ピットワークでなんとかする”というのが8耐の掟であり、逃げ道はどこにもない。このような状況が意識や四肢を硬直させる。焦れば焦るほど、ストップウォッチは止まることなく時間を刻み続ける。

それならば、“どうすれば失敗するのか”“わざと失敗するようにやる”という逆転の発想で練習を行ってみた。失敗しようと思うと、今度はなかなか失敗しなくなる。その中から、より迅速かつ正確に作業を行うヒントが見えてくる。そして、事前に立てた目標が“なぜ、できないのか”“どうして駄目なのか”という根本原因すら見えてくると言う。

各自の手足の動き方の分析から、スタッフ同士の連携した動きまで考える。使用する電動工具やエアジャッキを改良する。タイヤ交換作業を妨げる可能性があると感じれば、ホイールに取り付けるバランスウエイトの形状さえ変更する。あらゆるリスクを検討し、問題点を一つひとつつぶして、スキルをアップデートしていく。単純なほど奥が深くアイデアはその気なって考えなければ生まれてこない。

  • 1991年
  • 1991年
  • 1991年 ワイン・ガードナー
  • 1991年 ミック・ドゥーハン

これらの試行によって、やがては燃料の油面が上昇すれば給油終了という、誰にでも間違いのない正確な給油作業が行えるレベルにまで到達した。そうして8耐におけるHondaの給油ピット作業の速さは、ライバルチームにとって解明すべき謎となり、ピット作業を撮影したVTRによって分析・研究されるまでになった。

そして、91年の8耐はHondaのNo.1ペアであるワイン・ガードナー/ミック・ドゥーハン組が勝った。予選ポールポジション(この年は3番手までがHondaチームだった)から、2位に3周もの差をつけての勝利だった。だがしかし、その内容は決して完ぺきなものではなく、翌年に新たな課題を残したものだった。

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