Red Bull Honda with 日本郵便

Vol.02「数々のアクシデントを乗り越え、今やれることに全力で臨む」

7月5~6日にかけて行われた4メーカー合同/タイヤメーカーテストを終えると、8耐エントラントはすぐ翌週の7月10~12日には再び合同テストに参加。両日とも雨に見舞われた1回目のテストとは打って変わって、この3日間はカラッと晴れた夏らしいコンディションに。いよいよ鈴鹿8耐の夏がやってきた。

Red Bull Honda with 日本郵便は、前回のテストに参加した中上貴晶が、MotoGP第9戦ドイツGP参加のために欠席。かわって、スーパーバイク世界選手権にレギュラー参戦しているレオン・キャミアが合流した。キャミアは6月中旬に一度来日し、鈴鹿8耐仕様のマシンをシェイクダウン。今回が本格的なテストのスタートとなるはずだった。

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迎えたテスト初日。いきなりアクシデントが起こってしまう。キャミアが初走行の1セッション目に、12~13周回をこなした辺りで転倒してしまったのだ。キャミアは自力でピットまで戻ったものの、大事を取って病院へ。結局この日は、キャミアは残りの走行をキャンセルし、高橋巧が一人で残りのテスト項目を消化することになった。高橋の走りそのものは好調で、A/Bグループに分けられたチームのうち、午前/午後ともにグループトップのタイムをマーク。ナイトセッション(夜間走行)でも総合4番手を獲得し、初日の総合2番手につけた。

高橋巧(以下、高橋):「前回のテストがウエットだったということもあって、最初はこの気温、この路面温度に合わせるのが難しかった。まだまだ改善ポイントはたくさんありますが、自分が速く走るのはもちろん、3人のライダーみんなが乗りやすいマシンを僕が仕上げないと、という気持ちで走っています」

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2日目も、キャミアの診察結果が出るまでは大事を取って走行を控えるというチームの判断により、高橋が一人で走行を続けた。この日、高橋は自らのセットアップはもちろんのこと、3人で乗るセッティングのバランスを考慮しながら走行。タイムが重要視されない走行でもあったものの、高橋は2回目/3回目セッションでグループトップタイムをマーク。メインマシンとスペアマシンを交互に乗り換えながらのテストで、文字通り休みなくセッティングが続けられた。

高橋:「一人で走るのはなかなかつらいですね、休むヒマもないですから。でも、そんなことは言っていられないので、レオンとタカ(中上)に、いい状態でマシンを渡すことを考えながら進めていましたね。あとはいよいよロングランもやりました」

高橋巧

ロングランとは、8耐の決勝レースを想定して、一人のライダーが担当する約1時間を燃料満タン、タイヤ1セット、ピットインなしで連続走行すること。1周限りのラップタイムがさほど重要視されない鈴鹿8耐では、このロングランでどれくらいのペースで走り、どれくらいのラップタイムで走ったときにどれくらい燃料を消費するのか、またタイヤがどれほど摩耗するのかをチェックするのが重要なのだ。

高橋:「ロングランでは2分08秒台で安定して周回できましたが、まだ余裕はないですね。まだやらなきゃいけないことはたくさん残っています。ロングラン想定でのベストタイムは08秒3くらいで、ペースの遅いマシンに引っかかったり、数台まとめて抜かなきゃいけないような局面がなければ08秒台で回れます」

宇川徹

高橋が言うこの「08秒台」は、鈴鹿8耐決勝レースでの一つの目安となるものだ。

2015年、MuSASHi RT HARC-PRO. Hondaから出場し、スタートライダーを担当した高橋は、最初のスティント=25周で、2分09秒台を10周、10秒台を11周、そして11秒台を2回記録している。この場合、1スティントのうちの2周は、タイムの落ちるスタート周とピットイン周となる。

さらに16年には、同じくスタートを務め、最初のスティント=26周で、2分08秒台を2回、09秒台を15回、10秒台を7回記録。

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2017年にはこれが、最初のスティント=28周で、2分08秒台を9回、09秒台を6回、10秒台を3回記録。スティント中盤には小雨が降りややラップタイムが落ちてしまったものの、この3年間は上記のようなペースで、最初の1時間を戦っていることになる。

つまり、8耐で一番重要だと言われる「最初の1時間目」は、2分08秒台以内で周回し続けるのが理想なのだ。ベストラップを07秒台あたりにおいて、08秒で周回できれば、最初から優勝争いに加わることができる、という目安だ。

高橋巧

テスト最終日となった3日目もキャミアの走行はなし。一方高橋は、マシンのセットアップを詰めてラップタイムの底上げを図りつつ、ロングランでラップタイムが安定する方向での仕上げも行っていった。メインマシンとスペアマシンを乗り換えながらの、文字通り休みない走行。気温は35℃を超え、路面温度も60℃に届こうかという8耐本番さながらのコンディションで、高橋はとにかく走行を重ねていった。午前に40分のセッションを2回、午後には90分のロングセッションを1回。8耐本番に近いコンディションで、少しでも周回を重ねることが勝利への近道だと信じて――。

(左から)宇川徹、高橋巧

高橋:「とにかく走り込みましたが、思ったように作業が進まなかったのと、結果、一人で走ることになってしまったので、ほかのライダーの意見を聞くことがなかったのが残念でした。現時点では、まだ納得のいくまでマシンを仕上げきれてはいないです。ただ、最後の最後で、ここを解決すればというポイントが分かったので、その確認をして次のステップに進めたいです」

レオン・キャミア

しかし、この3日間のテストを終えた時点でキャミアの鈴鹿8耐不参加が発表され、後日には、キャミアと同じくスーパーバイク世界選手権のレギュラーライダーである、パトリック・ジェイコブセンのRed Bull Honda with 日本郵便への加入が発表された。

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テストを締めくくって、宇川徹監督はこう語った。

宇川徹(以下、宇川):「中上は雨のテストだけ、さらにキャミアが転倒して参加できなくなるなど、ちょっと準備がうまく進みませんでしたね。けれど、焦ってもしょうがない。不安材料は多いですが、3人目のライダーが決まってから(注:インタビュー時点では、ジェイコブセン加入は未定)一度テストできそうなので、ここまで積み上げてきたものを、3人でうまくバランスを取りながら進むしかないと思います」

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8耐では、一人だけ速く走っても、ライダーだけ仕上がってもダメだ、と言う宇川監督。本番に向けて、ライダーをサポートするピット勢の準備も整いつつある。

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宇川:「今シーズンの全日本選手権もそうですが、鈴鹿8耐でも僕らのチームはルーキーなので、8耐のピットスタッフも、レース経験者は数えるほどしかいないんです。けれど、会社でも5月ごろからピットワークの練習を始めて、かなりのスピードと確実性でピットワークをこなせるようになりました。このテスト中にはギアを入れたまま停まったり、停止位置を少しズラして停めたり、作業をしにくくしてピットワーク練習をしていたくらいです。8耐本番まで、毎日準備できることを進めて、あとは本番当日に照準を合わせていきます」

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テストで3人のライダーがそろわなかっただけでなく、予定していたライダーの負傷によって、急きょライダー編成の変更を余儀なくされてしまったRed Bull Honda with 日本郵便。しかし、この苦難を乗り越えてこそ、名門Hondaワークスチームである。

取材の最後に、高橋は力強く言った。

高橋:「本番にはなにもかも合わせられます。それがHondaワークスチームです」

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