
徳留真紀(とくどめまさき)
僕から教えることはなにもない
学びたかったら自分で考えて、自分から動け
世界に挑戦するならそれぐらいの覚悟と行動力が大切です
■世界につながる小排気量クラス・J-GP3
250cc単気筒の2サイクルエンジンを搭載したJ-GP3クラスは、MotoGPのMoto3クラス直系として、2012年に新設された。小さなエンジンゆえにトップスピードこそ速くはないが、コーナリングスピードはJSB1000やJ-GP2など大排気量のマシンをもしのぐ速さとなっている。また、マシンの性能差が大きくないため、スリップストリームを使ったクレバーなパッシング技術や駆け引きも要求され、最終ラップまで勝負の行方が分からないレースとなることが多い。10代の若手ライダーにとっては登竜門的な存在だが、ベテランとなったかつてのGPライダーたちがその前に立ちはだかり、毎戦ごとに表彰台の顔ぶれが変わる人気のクラスだ。
■僕は若手ライダーたちから学ばせてもらっている
44歳になりベテランと呼ばれる領域に入りましたが、今でも僕は若手からいろんなことを学んでいます。学ぶ対象に年齢や経験は関係ありません。速いライダーがいたら、その走りを研究するし、練習走行や予選では、ラインをトレースしてライディングスキルを学ぼうとしています。クラスをまたぐことだって珍しくないです。時間の許す限り違うクラスのライダーのアクセルワークやライディングスタイルの違いをコースサイドから見て、自分のライディングの参考にすることもあります。いろんなコーナーに移動して、じっくり観察し、アタマの中であれこれシミュレーションします。なにもしなかったら、どんどん退化してしまいますし、フィジカル的に厳しいことだって感じています。だからこそ学べることは学んでしまおうというわけです。
■なにもなかったから、なんとかする能力が身についた
ボクが世界選手権(125cc、250ccクラス)の舞台で走っていたのは1994年から99年までの6年間。九州の小さなサーキットでスクーターレースに明け暮れていたやせっぽちの少年だったのに、世界選手権への憧れだけでいきなりステップアップしたんですから、周囲からすればあまりにも無鉄砲ですよね。全日本ロードレース選手権に身を置いたのはわずかに一年だけ。それでも行かなければ始まらないと瞬発力だけでヨーロッパ行きの飛行機に飛び乗り、メカニックと2人だけで欧州各地を転戦しました。初めて見るサーキットばかりに対して、まずは自分の足で歩いてコースを下見。コースの特徴をつかみながら走行のイメージ作りをしていました。練習走行ではコースレイアウトを確認。自分のイマジネーションをフルに使ってなんとかしようとしていました。速いライダーについてラインどりを盗むのはそのあと。ラインを覚え、攻め方を叩き込んで、決勝レースに臨むという繰り返しでした。データロガーなどない時代ですから、セットアップもそこそこに「あとはライダーがなんとかする」という気持ちでコースインしていました。暴れるマシンを嘆くのではなく、どう乗りこなすかを考えられるようになったのは、意外にもそんな環境で戦っていたからかもしれませんね。おかげでベテランと呼ばれるようになってもなお、こうやってトップ争いに加われています。
■とっとと世界へステップアップすればいい
時代が時代だったのかもしれません。上田昇さんや坂田和人さん、若井伸之さんたちがすでに活躍されていましたし、世界選手権への距離感というか、意識が今よりも身近だった気がします。でも、今の若手ライダーも世界を狙うなら、とっととステップアップすればいいと思います。スカラシップなど恵まれた環境もありますが、それに及ばなかったとしても、道が閉ざされたわけではありません。まずは志。強い気持ちが大事だと思います。開催されるレースが激減し、走行のチャンスが少なくなったと嘆くより、乗れない時間をどう過ごすかを考えればいいと思います。スマホをいじっている時間があるなら、ほかのクラスの走りを研究し、いろんな人にアドバイスをもらえばいいと。世界を知っているライダーやメカニックはそこかしこにいるんですから。アドバイスを鵜呑みにしなさいなんて言いません。自分なりに消化してダメだったら、次にトライする。その繰り返しです。遠慮なんかしなくていい。僕も聞かれれば話します。親子ほど年齢が離れていますし、おっかない顔をしているから聞きにくいのでしょうか。いずれにしても、自分からアクションを起こさないとなにも始まりません。
■結局のところ、僕はバイクが好きなんだ
もちろん、僕は現役ライダーです。今シーズンのチャンピオンの可能性こそなくなりましたが、最終戦は全力で優勝を狙いにいきます。マシンに性能差があるとすれば、その部分を埋めるためにもトレーニングを重ねます。サーキット走行ができなければ、フラットトラックでバランス感覚を養いますし、トライアルマシンで体幹を鍛えます。立ち止まったらたちまち後退します。それこそがベテランの抱える弱点ですからね。現実的ではないかもしれないけれど、世界への再挑戦も捨てたわけではありません。年齢制限のレギュレーションがあるため、Moto3は無理ですが、Moto2など、可能性はゼロではありません。だからこそツインリンクもてぎで開催されたMotoGPでは、全クラスのレースをコースサイドで食い入るように見せてもらいました。世界との距離感に絶望するのではなく、少しでも吸収するためです。寝ても覚めてもバイクのこと、次のレースのことを考えています。結局のところ、僕はバイクがとことん好きなんでしょうね。このモチベーションがなければ、現役なんて続けられません。







