team HRC現場レポート

2019年の全日本ロードレース選手権はいよいよ終盤戦。Team HRCの高橋巧は、JSB1000クラスのランキングトップで今回のオートポリス大会を迎えた。ライバルの選手に対し、21ポイントのリードがあるため、17年以来となるJSB1000クラスのチャンピオン獲得の期待もかかる。タイトル獲得に向けて、高橋は「レースでの勝利だけではなく、(シリーズ)ポイントのことを考えて戦う」と語り、それを有言実行した大会となった。

高橋巧

Vol.17

シリーズランキングを考え、「大事に」戦ったオートポリス大会

いよいよ2019年のシリーズも終盤戦。今回のオートポリス大会、最終戦のMFJグランプリ・鈴鹿大会あわせて、2戦4レース。Team HRCの高橋巧は、ここまでJSB1000クラスのランキングトップを走っている。ランキング2位の中須賀克行選手(ヤマハ)とは、21ポイント差。チャンピオン決定は最終戦まで、もつれこみそうな勢いだ。


JSB1000クラスのランキングトップでオートポリス大会を迎えた高橋巧
JSB1000クラスのランキングトップでオートポリス大会を迎えた高橋巧

高橋巧(以下、高橋)
「ラスト2戦でランキングトップにいるなんて、こんなチャンスはめったにないです。チャンピオンは獲れるときに獲っておかないと。ここまで来たら、もちろんレースに勝ちたいのはありますが、シリーズのこと、ポイントのことを考えて戦います」

「シリーズのことを考えて」というのは、もちろん“ポイント計算を頭に入れてレースに臨む”ということ。レーシングライダーならば、出るレースには全部勝ちたいと思うものだが、冷静でクレバーなライダーとして知られる高橋は、アツくなりすぎずに、きちんとタイトル獲得のためのレースができる男だ。

ちなみに中須賀選手に対するアドバンテージの21ポイントは、中須賀選手が残り4レースを全勝したとしても、高橋がすべて3位以内に入ればチャンピオン獲得ということ。これも、ここまでミスなく走り続け、中盤の4連勝が貯金として生きているということだ。

オートポリス大会は、いつも悩まされる天候の影響もなく、事前練習の金曜からほぼ快晴のドライコンディション。しかし、高橋とTeam HRCは、レースウイーク前に行われた事前テストから、思うようにマシンのセッティングを決めきれないでいた。


Team HRCのスタッフが高橋のマシンを調整
Team HRCのスタッフが高橋のマシンを調整

宇川 徹 Team HRC監督(以下、宇川)
「事前テストからうまくマシンを詰めきれませんでしたね。巧はここオートポリスを得意とはしているのですが、少しセッティングを外すとタイムが出ないんです。いわば、ライダーもマシンも決まれば無類に速いですが、少し外すとマシンもライダーも思うように走れない感じなのです」


宇川 徹 Team HRC監督
宇川 徹 Team HRC監督

それでも、公式予選は中須賀選手に続く2番手。土曜に行われた決勝レース1でも好スタートをみせ、高橋のチャンピオン獲得への最終章が始まった。

スタートから1コーナーに飛び込んだのは中須賀選手。野左根航汰選手(ヤマハ)を挟んで水野涼(MuSASHi RT HARC-PRO.Honda)、そして高橋が続く。この4台がトップグループを形成し、後方に岩戸亮介選手、渡辺一馬選手のカワサキ勢が続く展開だった。レースはトップ4台が少しずつ後方を引き離し、先頭集団を形成する。この4台の中で、野左根選手がトップに立ち、中須賀選手、水野、高橋と続くオーダー。水野が中須賀選手をかわすシーンもあったものの、すぐに抜き返されて、元のポジションに。この4台がつかず離れずで周回を重ねた。


水野涼(#634)をかわした高橋(#13)
水野涼(#634)をかわした高橋(#13)

高橋
「レース中はずっと、だれかがトップに立っても引き離すだけの差がないし、だれかを先頭において後方から続く、というのがレースしやすいかたちでしたね。みんなタイヤを温存しながら、前に出るタイミングをうかがっていた。その中で、僕は涼の後にいて、なかなか抜けなかった。何度も追いつきそうになるんですが、ストレートでは体重が軽い涼の方が伸びたんです」


水野とのバトルを「ストレートでは体重が軽い涼の方が伸びた」と振り返った
水野とのバトルを「ストレートでは体重が軽い涼の方が伸びた」と振り返った

レースに動きがあったのは中盤。13周目に高橋が水野をかわし、中須賀選手と野左根選手をチェイス。さらに、ラスト4周で中須賀選手がトップに立ち、2番手に野左根、3番手に高橋、4番手に水野は変わらず。結局、この順でフィニッシュし、高橋は3位表彰台を獲得。ランキングでは、2位の中須賀選手に5ポイント詰められたものの、これは想定の範囲内だ。

続く日曜日のレース2は、朝のうちに雨が降った影響で、ウォームアップの時間帯はウエット路面。各ライダーとも、レース2に向けてのセッティング変更を確認できないままでレース2を迎えてしまう。


ウォームアップはウエットコンディションの路面だった
ウォームアップはウエットコンディションの路面だった

そのせいもあったのか、レースは序盤からレース1と似た展開となり、レース1のトップ4がまたもレースをリード。レース2では水野がレースを引っ張り、序盤はここに中須賀選手、野左根選手、高橋の順。高橋は、レース開始直後こそ渡辺一樹選手(スズキ)に先行されたものの、早めに前に出て、レース1と同じ4人でトップ争いを繰り広げることになる。


オートポリス 決勝レース2
オートポリス 決勝レース2

高橋
「(渡辺)一樹くんは、なかなか抜きづらいライダーで、前にいられたら厄介なタイプ。それで早めに前に出たのですが、そこからも4番手で、なかなか前には出ませんでした。抜こうと思えば前に入られたので、展開上どの位置でレースをしたらいいのかは変わってくるし、今回は中須賀さんと一騎打ちというより、野左根選手や涼がいるので、ちょっと大事にいきすぎました」

「大事にいった」とは偶発的なアクシデントを心配してのことだ。むろん、自分が無理をしてスリップダウンでもしようものならばチャンピオン獲得の可能性は、ほぼゼロになってしまう。そして、順位争いの台数が多ければ多いほど、だれかの転倒に巻き込まれたり、接触されたり、というリスクは高まってしまう。順を狙いながらシリーズのことも考えるという高橋の戦略をそのまま実行したのだ。


走りで無理をしない戦略に切り替えた高橋
走りで無理をしない戦略に切り替えた高橋

結果、トップを走っていた水野は中盤につかまり、中須賀選手、野左根選手のトップ2に遅れじと、最終ラップに高橋が3位に浮上してフィニッシュ。シリーズランキングでは、連勝を飾った中須賀選手に、2レースで10ポイント詰められてしまったが、これも想定の範囲内だった。


2レースともに3位となった高橋
2レースともに3位となった高橋

高橋
「マシンを詰めきれなかったのが敗因ですが、きちんとシリーズのことを考えれば、最低限のレースはできたかなと思います。走りという点では納得いかないものだったので、レースをした実感はありませんが、この悔しさは最終戦にぶつけたいです」

両レース3位表彰台という結果にも満足しない高橋。うまくいかないときには無理に勝ちを狙わず、現状ベストを成し遂げる――それがオートポリス大会の両レース3位だったというわけだ。


「悔しさは最終戦にぶつけたい」とレース後に語っていた
「悔しさは最終戦にぶつけたい」とレース後に語っていた

宇川
「マシンを決めきれなくて申し訳ない思いもさせましたが、まだ11ポイント差。11ポイント『しか』ないとは思っていません。最終戦は、巧が得意な鈴鹿。ここでチャンピオンを決めてもらいましょう。僕らチームは、巧を信じています」



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