team HRC現場レポート

鈴鹿8耐を終え、わずか2週間後に行われた全日本ロードレース後半戦のスタート、もてぎ2&4。
8耐を思わせるかのような灼熱の気象。路面温度が高く、併催される4輪レースの影響もあって路面コンディションも悪かった。そんな中、Team HRCの高橋巧は、悲願の優勝を逃した鈴鹿8耐のうっぷんを晴らすかのように快走を続けていた。

高橋巧

Vol.15

絶好調を持続する高橋に立ちふさがった、思わぬ負傷

そんな高橋をアクシデントが襲う。レースウイーク前週のプライベートテストで、マシントラブルの影響で転倒。歩こうにも力が入らず、少し足を引きずるような動きながら、レースウイークに入る。しかし、そんな状況下で初日金曜日に総合5番手、土曜に行われた公式予選では、なんとポールポジションを獲得!


ケガを抱えながら、果敢に攻める高橋
ケガを抱えながら、果敢に攻める高橋

高橋巧(以下、高橋)
「5月末のSUGO大会から、引き続き調子は悪くないですね。ただ、今日、明日ともてぎは暑くなりそうだし、ケガの影響も走ってみなきゃ分からない、という感じです。ただ、今できることを精一杯、それしかないです」

鈴鹿8耐では、HRCライダーとしての初優勝こそ逃してしまったが、『高橋の走りは図抜けていた』と関係者は口をそろえる。HRCテストライダーのステファン・ブラドルと2人で走りきった8時間、しかも高橋は最後の2時間を連続走行してまで、優勝したい気持ちを爆発させた。

高橋
「8耐最後の連続走行は、チームの戦略に従っただけです。もちろん勝ちたい気持ちは強かったし、僕が2連続走行しなきゃ勝てない、とチームが判断したからこそ走ったんです。結果、最後はもう本当にフラフラにはなりましたけど、自分としては、予定された4回の走行はいい走りができた、と思っています。連続走行の5回目は、僕としても未知の世界で、想像していた何倍もつらかった。もうどうにもできませんでしたけどね」

与えられた状況でベストを尽くす――これが高橋のライダーとしてのプライドだ。これまで、鈴鹿8耐の最後に2時間連続走行するというハードな条件であれ、乗り越えてきたし、そしてまた、絶好調のまま迎えたもてぎ大会でも、ケガという試練が立ちふさがった。

決勝日朝のウォームアップ走行でも、トップタイムをマークした高橋。ただし、日曜はさらに気温も上がり、風もほとんどないという過酷な気象条件。さらにこのもてぎ大会は、23周という長丁場の周回数で行われることになっていた。


高橋は決勝日朝のウォームアップ走行でもトップタイムを記録
高橋は決勝日朝のウォームアップ走行でもトップタイムを記録

高橋
「日曜の決勝日は、せめて少し路面温度が下がってくれたら、と思っていましたが、ダメでしたね(笑) 4輪のタイヤラバーが乗る路面で走ると、なかなかいつものようなグリップ感が出なくて、しかも路面温度が高いと、どうしても身体全体を使った乗り方をしていかないとレース距離を走りきれませんからね。ケガをした状況で40分以上、23周も走るテストはしていないのでどうなるか分かりませんが、とにかく今できることを精一杯。もちろん、後半戦スタートだけに気をつけなきゃいけないこともあります」

高橋が言う『気をつけなきゃいけないこと』とは、もちろんポイントランキングのことだ。早くからチャンピオン争いを意識しすぎてもいいことはないが、高橋はそこをきちんと計算して走れるライダーだ。前半戦の3戦6レース、高橋は2レース連続2位のあと4連勝し、ランキング2位の野左根航汰(ヤマハ)に24ポイント、中須賀克行(ヤマハ)に28ポイントの差をつけてランキングトップを快走している。このケガを負ってのもてぎ大会で気を付けるべきは、ロストポイントを最小限に抑えることなのは言うまでもない。


決勝レース序盤はライバルを追う展開となった高橋
決勝レース序盤はライバルを追う展開となった高橋
決勝レース序盤はライバルを追う展開となった高橋

そして決勝レース。珍しくスタートからの加速にワンテンポ遅れた高橋は、水野涼(MuSASHi RT HARC-PRO.Honda)、中須賀、野左根に続く4番手をうかがいながらの走りとなった。レースは序盤から中須賀が飛び出し、野左根、水野がそこに続く展開の中、高橋はなかなかペースをなかなか上げられない。

序盤3周ほどで、トップを行く中須賀選手に2秒ほどの遅れをとってしまった高橋。レースは、3番手の水野が5周目に野左根を捕らえて2番手に浮上、8周目には野左根が転倒し、これで順位は中須賀を先頭に、水野を挟んで、高橋は3番手。レース中盤には水野がトップ中須賀との差をジリジリ詰めるが、高橋のペースは上がらず3番手をキープ。レース中盤には中須賀との差は約5秒にまで広がってしまった。

高橋
「ケガの痛みというより、路面の状況に合わせた乗り方を最後までできませんでしたね。レース中は、トップ2台とかなり離されてしまって、ペースも上げられず、ここは最後まで転ばずに走りきってポイントを稼いでおこう、と思うようになりました。今僕ができること、しなきゃいけないことはそれだと思っていたし、その選択をせざるを得なかったです」


中須賀の手を借りながら表彰台に立つ高橋
中須賀の手を借りながら表彰台に立つ高橋

結局レースは中須賀選手が開幕戦2レースに続く3勝目で、水野を挟んで高橋は3位。表彰台に上がるのさえ、足が痛む中、灼熱のもてぎを最後まで走りきった。これでポイント差は5つ縮まって高橋164ポイントvs中須賀141ポイントと、23ポイント差でランキングトップをキープした。


レース後の記者会見にて
レース後の記者会見にて

高橋
「今の僕ではこれが精一杯、現状ベストです。(野左根)航汰が転んでのタナボタな3位ですが、ポイントも失点を最小限を抑えられたかな、と思っています。スタートは、このウイークでなかなかうまくいかなくて、クラッチミートしても思ったように加速してくれませんでした。失敗ではないのですが、その失速がなくても、レース中のペースは同じような差だったと思います」

ケガを押しての決勝レース。しかも、『炎天下の長丁場はやってみないと分からない』と言っていた高橋だが、2通りのレース展開を描いていたようだ。

高橋
「予選も決勝日朝のフリー走行も、どうかな、と思って意外にタイムも上がったので、ひょっとしたらトップ争いもいけるかも、と思いましたが、思った以上に路面温度も下がってくれなくて、離される一方になっちゃいましたね。もちろん、レース中プッシュもしたのですが、トップ2台と差が広がって、あれだけ離されたら追いつけないので、表彰台狙いに切り替えたんです。結果、中須賀さんに5ポイント詰められただけで済んだので、最低限の走りはできたと思います」

これで残る戦いは、8月末に第6戦・岡山大会を1レース、終盤2戦は2レース制のオートポリスと鈴鹿の、計3戦5レースだ。勝たなければいけないレース、勝たなくてもポイントを稼いでおかないといけないレースを選択し、高橋は2年ぶりのシリーズチャンピオンへ向かって走り出した。

高橋の走りを見守った宇川徹・HRC監督は言う。


宇川徹 Team HRC監督
宇川徹 Team HRC監督

宇川徹 Team HRC監督
「シリーズ前半から調子がよかったし、トップタイムだった事前テストでマシントラブルが起こってケガをさせてしまって、巧には申し訳ないレースになってしまいました。でも、巧は僕らが想像するより高いレベルで走ってくれましたね。歩くのさえ痛いはずなのに、予選はポールポジション、朝のフリー走行だってトップタイムでした。レースは表彰台に上がれたら、という予定で、きちんとそれをクリアしてくれました。勝てるレースをきちんと勝つこと、勝てないレースでもきちんとハイポイントを取っておくことがチャンピオンの条件。今回のレースはまさにそれだったんです」

痛みをこらえて走りきった高橋。そして次戦・岡山大会は、その高橋を楽に走らせてあげられるセットアップを見つけることが僕らの仕事です、とTeam HRCは岡山国際サーキットのこと前テストに向かうのだった。