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team HRC現場レポート

Team HRCが全日本ロードレースに復活して2シーズン目。復活初年度は、チャンピオンこそ取り逃がしたものの、ランキング2位を得た。しかし、もちろんこれは満足のいく結果ではない。ライバルを倒し、チャンピオンを奪回して初めて、Team HRC復活の第一章が始まる。2017年以来の全日本王者を目指す高橋巧の開幕戦を追った。

高橋巧

Vol.12

悔しさが次のレースへの一番の武器

「悔しいです。ものすごく悔しい。こんなに悔しいの、久しぶりです」

Team HRCのエースライダー、高橋巧が、ぎゅっと唇をかみしめた。
開幕戦、2レース制で行なわれたJSBクラスで、高橋は2レース連続2位。優勝は、両レースとも中須賀克行選手(ヤマハ)にさらわれてしまった。レースが終わった記者会見のあと、高橋が見せた悔しい表情。普段はポーカーフェイスを絵に描いたような、感情をあらわにすることなどめったにない高橋が、そう漏らしたのだ。


高橋巧
高橋巧

中須賀選手に敗れることは、昨シーズンに何度もあった。中須賀選手が優勝、高橋が2位というレースは、2018年の11レース中に5レースもあり、中須賀選手が高橋の最大のライバルであり、倒すべき相手だということは、だれもが知っていること。そのライバルに負けたとしても、昨シーズンの高橋に、こんな悔しさを感じたことはなかった。それだけ、届きそうで届かない、惜しい、惜しすぎる、歯がゆいレースだったのだろう。

2レース制で行なわれた開幕戦。高橋は公式予選でレース1のフロントロー2番グリッドを獲得する。レース2のスターティンググリッドを決める、公式予選でのセカンドベストタイムでも2番手となり、ここでも中須賀選手に先を越された。

高橋巧(以下、高橋)
「マシンは昨年から大きく変わってはいません。昨シーズンの最終戦で大きく仕様変更をして、この開幕戦も、その状態からセッティングを詰めた仕様で走り始めています。どんどん大きなパーツを変更していけば速くなるような世界でもないですからね。昨年のこのレースに比べれば、最高の状態でスタートしているようなものです」


高橋巧
高橋巧

昨シーズンの開幕戦・もてぎ大会。高橋は、シーズンオフのトレーニングで左手の指を骨折し、事前テストもないまま新チームに合流し、シェイクダウンもなしにニューマシンでの走行をスタートした。結果、レース1で2位入賞を果たしたものの、レース2では他車に接触されてマシンにダメージを負い、マシン修復のためのピットインを強いられ、完走したもののノーポイントに終わっていた。

高橋
「レース1は2位、レース2もアクシデントではありますが、それ以上に自分が乗れていなかったレースでした。単に調子が悪いというものではなくて、思っているような走りができないのです。思った以上に速かったり遅かったり。そういうのって、すごくストレスになるし、納得いかない」

高橋ほどのトップライダーになると、自分の走りをタイムだけで判断することはない。今の走りでこれくらい、という予想との突き合わせや、この区間が遅いからタイムが出ない、ならばこう走る、またはこういう方向でマシンをセッティングすれば改善するというポイントをつかんでいないと、先へ進めないのだ。

高橋
「結局、昨年は中須賀選手に1回、勝っただけでした。野左根選手(ヤマハ)にも負けたレースがあって、もちろん悔しいんですが、どこか自分で『しょうがないか』って思うところもあって、『次がんばればいい』って思い込んでたんです。ふてくされていたわけじゃないですが、『あーあ負けちゃった』って。もちろん、一生懸命やって、毎レース勝ちたい、優勝したいって気持ちはずっとありますが、なんだろう、気持ちが安定していなかったのかな」


高橋巧
高橋巧

決勝レース1、高橋は得意のロケットスタートが不発に終わり、中須賀選手、渡辺一樹選手(スズキ)に続く3番手でレースをスタート。3周目に渡辺選手をかわして2番手に浮上すると、そこからは中須賀選手を追って、3番手以下を引き離しての一騎打ち。オープニングラップを除いては、中須賀選手のラップタイムを上回り続け、5周目にはほぼ真後ろについてレース序盤に築かれたリードを完全に取り戻した。

9周目には中須賀選手にパッシングを仕掛け、一時は前に。しかし中須賀選手も譲らず、すぐにトップが交代。レース後半も、中須賀選手の背後に高橋、というトップ争いが続く。2人の差はつかず離れずで、レース終盤に高橋が再びアタック。ラスト2周、何度も中須賀選手に並びかけるものの、パッシングには至らず、中須賀選手がトップでゴール。背後についたままフィニッシュした高橋は、わずか0秒829差の2位に終わってしまった。

高橋
「スタートはちょっと失敗して、中須賀選手との間に渡辺選手を入れてしまったんですが、そこで中須賀選手に逃げられるほどでもなかったので、落ち着いて追いついて、それからはいいペースで追いかけていた感じでした。23周のレースだとタイヤももちろん消耗するので、そこはお互いにセーブしながらの展開だったと思います。中須賀選手がペースを上げるタイミングにも反応できたし、勝負できたし、可能性も見えました。明日のレース2は、少しまたマシンを修正して、もう1回勝負したい」

高橋の顔は晴れやかだった。やるだけやった手応え、勝負できる圏内にいられたことで、レース2、そして今後のレースで巻き返せる可能性が見えたのだろう。


高橋巧
高橋巧

日曜のレース2では、今度は高橋が好スタートを決めてホールショットを獲得。序盤から先頭でレースを引っ張ることになる。高橋の後方には、加賀山就臣選手(スズキ)をはさんで中須賀選手。しかし中須賀選手はすぐに2番手に浮上し、またも高橋と中須賀選手の一騎打ちが始まることになる。中須賀選手は8周目に中須賀選手をかわすと、今度は順位を入れ替えての一騎打ちが継続。2人は昨日のレース1よりも速いペースで周回を重ね、レースは終盤へ。昨日と違うのは、高橋がここまで仕掛けていないことだった。

2人の差はレース終盤、ほぼ0秒5以下。一度仕掛けるよりもジリジリと中須賀選手の背後に迫った高橋は、ラスト2周でついにアタック。ブレーキングで、立ち上がりで中須賀選手を攻め、最終ラップには接触せんばかりの接近戦へ。コース終盤のヘアピンを立ち上がってから勝負に出たか、ダウンヒルストレートで並びかける高橋。しかし中須賀選手もそれを許さず、ならばと今度は最終コーナーで背後に迫り、ホームストレートでスリップストリームに入って抜け出すものの、わずかに及ばず、高橋は2レース連続の2位でフィニッシュ。その差0秒113は、時速200kmでフィニッシュラインを通過するレーシングマシンにとって、わずか5mの差でしかない! 2018年から激化した中須賀選手とのバトルの中でも、このような僅差のフィニッシュは、もちろん初めてだった。


高橋巧(#13)
高橋巧(#13)

高橋
「レース1で感じたマシンの問題は解決していたのですが、その分フィーリングの違いも出てしまって、最後の最後まで、また迫るだけで終わって。中須賀選手と一騎打ちになって、レース終盤には中須賀選手もどんどんブレーキングで攻めていって、ここで狙える、と思う場所もありましたが、そこも攻めきれなかった。最終ラップ、中須賀選手がちょっとブレーキングミスしたコーナーがあったのですが、背後につきすぎて僕もついていっちゃって……。そこが反省点ですね。パッシングは余裕がなくて仕掛けられなかったのが正直なところです。最後の最後、最終コーナーで行くか、と思ったのですが、きっと2人とも転んでしまうと思って……」

このとき、冒頭の多寡は進歩コメントが飛び出たのだった。

「悔しいです。ものすごく悔しい。こんなに悔しいの、久しぶりです」

エースライダーの戦いぶりを見た宇川徹監督。Team HRC復活1年目には、高橋と中須賀選手との戦いを、だれよりも身近で見て、感じてきた。


高橋巧、宇川徹
高橋巧、宇川徹

宇川徹(以下、宇川)
「(高橋)巧がレース1で勝負できなかったのは、ブレーキングです。ここもてぎはブレーキングと急加速が続くような、いわゆる『ストップ&ゴー』レイアウトだから、どうしてもブレーキに負担がかかります。それでレース2は、ブレーキまわりの仕様を変えて出ていったのですが、ブレーキングがよくなってもフィーリングが変わっちゃいますからね、巧には違う厳しさがあったと思います。それでも、ギリギリまで詰めましたね。負けておいて言うのもなんですが、よくがんばった。巧はもてぎ、あまり得意じゃないんです。むしろ嫌いなくらいで、その点では次の鈴鹿がすごく楽しみ。昨年に比べたら格段に進歩していますよね」

「次の鈴鹿への秘策は?」そう尋ねると、宇川監督のコメントがしゃれていた。

宇川
「巧、ものすごく悔しがってましたね。その悔しさが、次へのカンフル剤です」


高橋巧
高橋巧