今季の全日本ロードレース選手権は、4月3日の茨城県筑波サーキットで開幕戦を迎えるはずだったが、東日本を襲った未曾有の大災害の影響をかんがみて、大幅にスケジュールが変更された。筑波戦は中止となり、1ヶ月以上遅れて5月15日、鈴鹿2&4で開幕戦を迎えた。なお、全日本選手権フォーミュラ・ニッポンとの併催のため、JSB1000のみの開催となった。
昨年のチャンピオン秋吉耕佑(F.C.C.TSR Honda)は、MotoGPマシンのテストをこなしながら参戦の準備をしてきた。開幕前の鈴鹿テストは一度のみだが、好調な仕上がりを印象付けていた。
高橋巧(MuSASHi RT HARC-PRO.)は、昨年の鈴鹿8時間耐久ロードレース(鈴鹿8耐)優勝以降、調子を崩していた。しかし、オフにアメリカへ渡り、ダートトレーニングをして調子を整え開幕戦を迎えた。また、徳留和樹はHonda鈴鹿レーシングチームに移籍して新たな挑戦をスタートした。
今大会には、宮城県出身で自身も被災した伊藤真一が、F.C.C.TSR Hondaから急きょ参戦することになった。伊藤は昨年限りで全日本フル参戦を卒業していたが、F.C.C.TSR Hondaの藤井監督が伊藤を走らせようと動いた。関係各社と本人の了承を得て参戦が決定。秋吉のTカーを使用することとなり、秋吉もそれを快く承諾した。
また、今大会は鈴鹿8耐の記者会見が開かれるなど、鈴鹿8耐前哨戦としての意味合いもある大会となった。ライバルチームに先駆けて、秋吉・伊藤のコンビでの参戦も発表された。
開幕戦ということで木曜から走行スケジュールが組まれたが、あいにくの雨。金曜から天気は回復し、午前中は多少濡れた路面も残っていたが、午後には完全にドライ状態となり、いよいよ開幕という気運が高まった。今大会には鈴鹿8耐を見据えたチームも参戦し、41台がエントリー。木曜、金曜の走行で、Honda勢は好調で上位に名を連ねた。
土曜の予選は、ノックアウト方式で行われた。Q1では秋吉が唯一の2分7秒台に入れトップ。2番手に伊藤が入った。上位24台が進出したQ2でも、秋吉は2分7秒台に入れてトップ通過。2番手には今季から自らチームを率いる加賀山就臣(スズキ)がつけ、3番手高橋、4番手伊藤、5番手中須賀克行(ヤマハ)、6番手武田雄一(ヤマハ)、7番手徳留が続き、上位12台がQ3へと駒を進めた。
最終アタックとなったQ3は、タイヤ本数制限の中で効率よくアタックをすることも必要となる。まずはニュータイヤを装着した高橋が果敢にアタック。シケインでわずかにオーバーランするも、2分7秒445と7秒台に突入してトップに立った。
続けて、ニュータイヤで秋吉が飛び出し、2分7秒840で2番手につけた。しかし、加賀山が2分7秒717を記録し、秋吉を抜いて2番手に浮上。トップの高橋のアタックは続いており、2分7秒282とタイムを短縮したが、すかさず秋吉が2分7秒121を叩き出し、首位を奪回した。
伊藤は2分7秒286を記録するが、トップには届かず。加賀山も2分7秒134と詰めたが、トップタイムに及ばず、秋吉のポールポジションが決定した。2番手加賀山、3番手高橋、4番手伊藤、5番手中須賀となり、ここまでが2分7秒台。徳留は2分9秒台に入れて、7番手につけた。
決勝は15ラップで争われる。通常より短い周回数だが、だからこそ白熱したレースが予想された。決勝朝のフリー走行では、ピットレーン出口で秋吉と大崎誠之(カワサキ)が接触し転倒。オイルを吹いたマシンを処理するため赤旗中断となり、30分の予定だった走行が20分に短縮された。
秋吉のマシンには大きなダメージはなく、右ハンドル周りの確認を終え、無事、走行を開始することができた。最終的には唯一の2分7秒台を記録し、トップで走行を終えた。
決勝でスタートダッシュを決めたのは、加賀山、秋吉、伊藤、中須賀、高橋。この5台がトップ集団を形成する。秋吉がすかさず加賀山を捉えて首位に立ち、1ラップ目から2分7秒台にタイムアップし、2位以下に2秒のビハインドを築く。
セカンド集団は、加賀山、中須賀、伊藤と続き、周回を重ねた。伊藤は130Rの飛び込みで3番手に浮上し、加賀山、伊藤、中須賀、高橋のオーダーとなる。2位争いが激しくなるなか、トップを走る秋吉は2.6秒と差を広げた。伊藤はさらに2番手浮上し、トップの秋吉を追走する。中須賀、加賀山、高橋がそれを追った。
伊藤は2分7秒台にペースアップして、セカンド集団を引っ張る。2分8秒台で走行する秋吉との差はコンマ5と詰まり、トップ争いは再び5台へと膨らむ。
中須賀が伊藤に襲いかかり2番手に浮上。伊藤が西ストレートから130Rで中須賀を捉えるが、中須賀はシケイン飛び込みで伊藤の前へ。伊藤と中須賀は、最終立ち上がりを並んで通過。メインストレートで伊藤が前に出るが、12ラップ目、中須賀が1コーナーで並び、再び前に出た。
中須賀と伊藤が、秋吉に追いつき、秋吉、中須賀、伊藤のトップ争いへと発展。息詰まる3台のバトルとなった。
秋吉はトップを死守するが、中須賀、伊藤の追撃も激しくなる。しかし、中須賀がシケインで痛恨のミス。伊藤もそれに巻きこまれそうになり、秋吉との差が開く。秋吉は再び単独トップとなり、レースをリード。中須賀はなんとか2番手をキープし、伊藤も3番手で追走。秋吉との差は1.5秒に広がる。
その結果、秋吉は悠々と勝利のチェッカーを受け、開幕勝利を飾った。2位に中須賀、3位伊藤となった。
その後方で高橋と加賀山は激しい4位争いを繰り広げた。4番手を走る高橋を加賀山がマーク。13ラップ目の200Rで勝負をかけ、加賀山が前に出た。しかし、最終ラップ突入の1コーナーで高橋が加賀山を捉え、チェッカーまで4番手を守った。5位加賀山。徳留は11位で開幕戦を終えた。
秋吉耕佑(JSB1000 優勝)「思った以上にグリップが得られませんでした。逃げきるのは難しいと思い、コーナー進入で後続とのビハインドを見ながら、トップを守りました。8ラップ目くらいからは、タイヤを温存するために加速重視のライディングに切り替えて走りきりました。3台の争いになると覚悟していたのですが、あとで中須賀君がミスしたと聞き、離れた理由が分かりました。朝のアクシデントで、元々痛めていた右足を打ってしまい、心配もありましたが、ライディングには問題なく、マシンのダメージもありませんでした。無事に走りきれ、勝つことができてホッとしています」
伊藤真一(JSB1000 3位)「地元に帰れば、家も仕事もクルマもなにもかもをなくしてしまった人がたくさんいるので、自分がレースに出ていいのかと迷いました。今回の参戦の目的は勝利を求めるということではなく、被災地の人たちに、自分が走ることで元気を届けたいということでしたし、秋吉選手のスペアバイクを借りてのレースということで無理はできませんでした。なかなか思うように走れませんでしたが、転んで迷惑をかけるわけにはいきませんから、精一杯走りきろうと思いました。久しぶりのレースでしたが、秋吉選手も中須賀選手もすばらしいライダーだと再認識しましたし、ライダーたちは、高度なテクニックを持ってレースをしていると思いました。たくさんの人の協力で参戦が実現したことに感謝しています」
高橋巧(JSB1000 4位)「事前テストから感触がよく、いいレースができるのではと思っていました。レースウイークを通して順調に走ることができましたし、決勝朝のフリー走行では、このままの感じでレースができたら優勝を目標にできると思っていたのですが……。決勝では、同じマシンなのだろうかと思うくらい、フィーリングが変わってしまい、思うように走ることができなかった。何度も転びそうになったので、転ばずチェッカーを受けることに気持を切り替え、少しでも上のポジションを目指して加賀山さんの前に出ました。トップ争いとは離れてしまい、反省しています。今年から小西良輝先輩にもアドバイザーに加わっていただき、本田重樹社長、チームメカニック、岡田忠之さん、小西さんと、みんなが僕の走りを見てくれています。勝たせようと、たくさんアドバイスしていただいたのに、それに応えることができなくて申し訳なくて……。次は大きな声で、みなさんのおかげで勝てましたと言えるようにがんばります」
JSB1000
順位 | No. | ライダー | マシン | タイム/差 |
---|---|---|---|---|
1 | 1 | 秋吉耕佑 | Honda | 32:09.800 |
2 | 21 | 中須賀克行 | ヤマハ | +1.457 |
3 | 5 | 伊藤真一 | Honda | +2.807 |
4 | 634 | 高橋巧 | Honda | +5.43 |
5 | 71 | 加賀山就臣 | スズキ | +6.575 |
6 | 2 | 芹沢太麻樹 | カワサキ | +38.875 |
JSB1000
順位 | ライダー | マシン | 総合ポイント |
---|---|---|---|
1 | 秋吉耕佑 | Honda | 25 |
2 | 中須賀克行 | ヤマハ | 22 |
3 | 伊藤真一 | Honda | 20 |
4 | 高橋巧 | Honda | 18 |
5 | 加賀山就臣 | スズキ | 16 |
6 | 芹沢太麻樹 | カワサキ | 15 |