全日本モトクロス2016 Team HRC現場レポート

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vol.38 チームが目指した3年ぶりの完全制覇

vol.38 チームが目指した3年ぶりの完全制覇

全日本モトクロス第9戦MFJ-GP(10月23日・菅生・スポーツランドSUGO)にて、Team HRCはIA1/IA2の両クラスを制覇し、ダブルチャンピオンに輝きました。成田亮選手(#982・CRF450RW)が自身11度目のタイトルとなるIA1チャンピオン(今大会:8位/DNS)、能塚智寛選手(#28・CRF250RW)はIA2初チャンピオン(今大会:優勝/優勝)となりました。

パドックにはゲストライダーもマシンを並べ、コール・シーリー選手(#114・CRF450R・米国・Team Honda HRC・2016 AMAスーパークロス450ランキング6位)=IA1総合優勝(優勝/優勝)、山本鯨選手(#400・CRF450RW・Team HRC・2016 FIMモトクロス世界選手権MXGPランキング27位)=総合6位(4位/9位)と活躍しました。今回の現場レポートでは、Team HRCの芹沢直樹監督に最終戦とダブルチャンピオンについて解説していただきます。

まず今シーズンのダブルタイトル獲得につきまして、スポンサー各位のご支援に対し、Team HRCを代表して感謝の意を表したいと思います。成田につきましては実に11度目、加入1年目の能塚にとっては初のチャンピオンですが、Hondaが最高峰クラス(IA1/2クラス)を完全制覇するのは、13年の成田=IA1/富田=IA2(T.E.SPORT)以来のことです。この結果を目指してやってきましたので、ライダーもチームスタッフも喜びを噛みしめています。

成田に関しては、モトクロス・オブ・ネイションズ(9月25日・国別対抗戦)で痛めた肩の影響などにより、前戦川越でも勝つことができなかったのですが、回復傾向にありました。万全ではないものの十分なスピードを出せると思っていましたので、あまり大きな心配をしていなかったです。シーリーの来日によって彼の闘争心にスイッチが入れば、好結果につながると思っていました。前に目標があった方が、無心で集中できるだろうと。

ところがシーリーに対する意識が強すぎて、いつも以上に攻めた結果、珍しく転倒してしまいました。ヒート1序盤、大坂先の3コーナーで、イン側に速めのスピードで進入したところ滑って転倒。8番手で再スタートして、ランキング2位の新井(宏彰)選手(カワサキ)の後方になったので、この時点で目標を切り替えました。新井選手の前でフィニッシュすればタイトルが決まることは本人も分かっていましたし、悪くても新井選手の真後ろのポジションでも構わないと無線で指示して、チームの意思統一を図りました。

ヒート1の最後に成田がベストラップを出したのは、それまでは遠かった新井選手の背中が見えてきたので、タイトルという獲物に対し狩猟本能が発揮されたのでしょう。結果的に抜くことはできませんでしたが、チャンピオン決定には十分な位置でした。レース後の成田の表情には、喜びと悔しさと転倒の痛みなどが入り交じっていました。

望むかたちではなかったけれど、一時先頭を走りました。全盛期の成田であれば、シーリーに勝つつもりで挑んだことでしょう。今の成田でしたら、一周でも前を走ってやるぐらいかもしれませんが、そういう気概はみせてくれたと思います。転倒で足を負傷したこともあり、ヒート2は大事を取って出走を取り止めました。本人は残念がっていましたが、やむを得ません。

能塚に関しては、成田に比べるとポイントリードが少なかったので、ヒート1で決まることは想定していませんでした。計算上は能塚が1位、岡野(聖)選手(ヤマハ)が5位以下で決まる点差でしたが、これまでの実績からすると岡野選手が5位以下になることは考えにくかったです。そのため能塚にはポイントなどは気にせず、いつも通りレースに勝つことを第一に考えてもらいました。

事前テストではとにかくコース攻略という点に絞って、セクションごとに一番いい走りができるまで勝谷コーチを交えて検証。迷いが最大の敵なので、それを払拭することを目的として実践しました。その結果、本人の内面でも変化が起きたようです。

能塚には今シーズン、10勝してチャンピオンになることを目標に設定していたのですが、前戦まで8勝だったので、達成にはあと2勝足りなかったです。それを本人と話したところ、コンセントレーションが高まったのでしょうか。シーズン中盤にあった中だるみが解消されて、開幕当初のようなスピードを発揮しました。特にベストタイムを終盤に出したことを評価したいと思います。

能塚のタイムはIA2の中では飛び抜けていましたし、ヒート1に限定して比較すると、IA1のシーリー=1分51秒316、成田=1分53秒070、山本=1分53秒887に対し、能塚=1分52秒790というベストタイムでした。ヒート2でもほぼ同等、能塚=1分52秒949でしたが、本人はあまり自覚なく、そんなに速かった気はしないとコメントしていました。乗れているときはそういうものなのかもしれません。

ただ、いつもと違っていたのは、エンジン回転が高すぎず低すぎず、パワーバンドのいいところを使っていたことです。乗れていないときは得てして回しすぎています。スロットルの開けすぎと同時に、ギア選びが低かったりすることも関係しています。こういった解析結果は情報としてライダーに与えますが、それをレースに役立てるかどうかはまた別で、あくまでも目安にすぎません。

ヒート2は出遅れましたが、最終ラップに渡辺祐介選手(ヤマハ)に追い付き、フープス後の下りで抜きました。ここは能塚が今回パッシングポイントに決め、多用していたところでした。手前のフープスは左側が低かったので、そこから次の左コーナーのインを回るライダーが多かったです。ただしコーナリングでスピードが落ちます。それに対して能塚は、フープスの右側から左コーナーのアウトバンクを使って勝負していました。インからアウトにふくらんで下りに差しかかる他車に対し、クロスラインでアウトバンクからインを突いて下りで並ぶ。その先がピット前の左コーナーなので、下りで並べば勝負ありというかたちでしたね。

もともとフープスを得意としている能塚ですが、土曜の公式練習まではあまり速くなかったです。ちょっと高くても作戦的に右側のフープスを使いたかったのですが、なかなかうまくスピードを乗せられない。そこでシーリーのビデオを見せたら、進入時のフロントの浮かせ方をマスターして、それを実践した予選から急に速くなりました。

今回はMFJ-GPということで、昨年のようにゲストを呼びました。シーリーに関しては、ベース車がフルモデルチェンジした「'17マシン」になりましたし、日本のモトクロスファンへのアピールも兼ねて呼びました。山本は昨年も出場予定でしたが、ネイションズにおける負傷で走れなかったので、Team HRCとしては今回が初めてです。

シーリーのマシンは米国仕様ですので、量産車をベースとした来年のスーパークロスとナショナルに向けたマシンです。山本車は「'16年MXGP」仕様で、ポーリンやバブリシェフのマシンとほぼ同等です。

山本の出場には、新しいマシンの検証よりもやってきた成果を披露する目的があったので、実績のあるマシンで走ることにしました。山本はイタリアのチームに委託していたため、そのマシンを再現するのは不可能。そこで要望を聞きながらHRCのマシンをアジャストしたのですが、慣れるのには時間が足りなかったようです。

山本の走りにはスタートの上手さとか、序盤で成田を抜いたり、シーリーにも食い下がる強さがありました。ただ、その走りを後半まで維持できなかったことが課題でしょう。ヒート1で起こした腕あがりが、回復しないままヒート2を迎えてしまったようです。レース結果は残念でしたが、得るものはあったと思います。

シーリーはとにかくコースが楽しいと言って、走行のたびに喜んでいました。シーズンオフにしても最近はモンスターカップなどがあるので、フィジカルコンディションも悪くなかったようです。走りの特徴としては、とにかくジャンプが低く、飛距離が長い。ライン取りはインベタを多用して、最短距離を走っていました。あまり有効なアウトバンクがなかったせいもあるかもしれませんが、割と近道に徹するライン取りでした。

今シーズンの全日本を振り返ってみると、各クラス1台ずつの最少編成で両クラス制覇という最も効率のよい戦果を挙げることができました。ダブルタイトルの勝因は、昨年の敗因を分析しその対策をしたことです。成田にとっては負傷があったので、まずはケガをしないように準備すること。それから我々としてもマシントラブルがあったので、ハード面で検証の仕方を変えるなど、改善に努めてきました。

能塚の場合は昨年まで他社のチームにいたので内情はわかりませんが、我々が見ていて分析していたことは活用しました。具体的にはスタートの成功率が低いこと、公式練習で転倒するなど無駄なダメージが多いこと。その辺は勝谷コーチの指導もあって改善されましたが、やはり好調を全戦維持することは難しかったようです。その一方で気持ちの切り替え方、あんまり考えすぎないところが能塚の長所かもしれません。その点をうまく生かしながら、今後も成長してほしいと思います。

「'17CRF450R」のフルモデルチェンジのデビュー、MXGPチャンピオン、全日本IA1/IA2ダブルチャンピオン、すべてが最高のタイミングで実現したシーズンでした。今後もこの流れを続けて行きたいものです。