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全日本モトクロス2014 Team HRC現場レポート

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vol.13 IA2富田選手に聞くマディのコツ

IA2富田選手に聞くマディのコツ

今シーズンの全日本モトクロス選手権は開幕から好天続きでしたが、第4戦菅生大会では大雨の影響で非常に難しいマディコンディションのレースになりました。IA1クラスでは成田亮選手(#1)と小方誠選手(#2)がランキング上位を占めていますが、IA2クラスではディフェンディングチャンピオンの富田俊樹選手(#1)が今季初優勝を果たしました。今回の現場レポートでは、富田選手にマディ攻略の秘訣について語っていただきました。

「雨に強い」とか「マディが得意」と言われますが、実はそんなことはないんです。ただ芹沢監督代理に「雨づくしだった昨シーズンのチャンピオン」と言われた通り、昨年勝ったレース(2013年開幕戦熊本ヒート1、第2戦川越ヒート2、第8戦川越ヒート1)が全部雨で、晴れのレースで勝ったことがないのは事実です。このままだと「雨の富田」みたいな烙印を押されたままで、早いうちにドライコンディションで1勝しないとまずいなと思っていたら、また雨で勝ってしまいました(2014年第4戦菅生ヒート2)。

マディは好きではありません。ウエアが汚れるし、マシンの整備も大変だし……。でも、相性がいいみたいなんですね。その秘訣というと、まずは冷静に走ることでしょうか。熱くなると突っ込みすぎて、泥の深いところに入ってしまったり、コースアウトしてしまったり、転倒やスタックしたり、という最悪の状態に陥ります。雨の日はそんなことにならないように、淡々とマイペースで走るように心掛けています。冷静さを保つには、あまり周囲のことを気にしない方がいいですね。だれに抜かれたとかだれのタイムが速いとか、意識しだすと焦りにつながるので、気にしない方がいいでしょう。自分はコースと戦っているのだと、割り切ってみてもいいかもしれません。

マディコンディションをうまく走るには、スロットルの開閉とブレーキングにメリハリを付けて、マシンをできるだけ直立させて操作することです。寝かせて開けたら滑って横を向くし、滑るか滑らないか気にするのが僕は嫌なんです。だからマディのコーナーだったら、なるべく真っ直ぐに突っ込んで、一気に向きを変えて直線的に立ち上がるようなライン取りにします。マシンを寝かせている時間をなるべく短くすれば、転倒のリスクを減らせるわけです。

僕自身は転ばない方だと思います。あまり無理していないからでしょうか。それでもアクセルを開けるときは開けます。たとえば深いぐちゃぐちゃのマディでは思いきり開けますが、それはフロントが埋まらないようにするのと、タイヤに詰まった泥を飛ばすためです。硬い土の表面が濡れているような状態では、無理をしません。開けるところと開けないところを、はっきり分けた方がいいですね。もちろんきれいなラインがあれば、そのワダチを利用することもあります。ただし、だれかの真後ろに付くと泥を浴びせられたり、転倒やスタックの巻き添えになることがあるので、注意した方がいいと思います。

人の後ろに付かないようにするには、ホールショットを取ることですね。そのためにはハードとソフトの両面からのアプローチが必要です。ハードとしてはサスペンションを沈めるホールショットデバイスや、エンジンのスタートモードがあります。テストしてみて違いがあまりなければ、使わないこともありますが……。雨の中でホールショットを決めるには、グリッド選びも大事な要素です。一概には言えませんが、ゲートの手前の掘れ具合や1コーナーまでの路面状況を観察したり、直前のレースのスタートを見て決めます。スタートに成功すれば圧倒的に有利ですし、ホールショットを取ればライン取りも自由自在です。

マディのレースでは周回遅れが早く現れるので、ラップするときにはうまくさばくことが大事です。周回遅れのライダーがいいラインを走っている場合、青旗が振られても避けてくれるわけではないので、こっちからぬかるみの方に入って抜いたりします。コンディションは不利だし、距離的には遠回りになりますが、アウト側のバンクまでまっすぐ突っ込むようなライン取りを積極的に多用していれば、イン側のラインをふさがれても全然気になりません。

滑りやすい路面でトラクションを稼ぐためには、高めのギアを使うものですが、どちらかと言うと僕のギア選びは普通です。特に早めにシフトアップすることもなく、ちょうどいいパワーが出せるギアを選んでいます。何速なのかはあまり意識していません。それよりも大事なのは、クラッチを使わないことです。つないだらすぐに離します。レバーに指をかけていると、無意識に半クラッチを使ってしまう。クラッチ板を使いきってしまったら完走できないので、それだけは絶対に避けなければいけないと思っています。昨年の最終戦も今回の菅生もそうでしたが、クラッチを使いきって止まっているライダーが結構いました。自分はマシンをいたわっているから壊れないし、ライン取りも見えていたのでスタックしない自信がありました。

ドライコンディションだったら、クラッチのことはそんなに気にせず普通に使います。でも、メカニックの伊藤さんによると、乗れているときはクラッチの減りが少なくて、乗れていないときほど多いそうなんです。つまり、ドライでもあまりクラッチは使わない方がいいということなんですね。レースでクラッチを使いきってしまったり、焼けてしまったことはありません。どこまで使うとなくなるか……そういう経験値は特になくて、周りの例を見て学んでいます。使わないに越したことはないと。

エンジン特性は中高速型です。クラッチを使わない走り方をするには、低速トルクが必要と思われるかもしれませんが、下(低回転域でのトルクの強さ)があるとほんのちょっと開けただけで敏感に反応して滑るので、開け始めが少しぼやけた特性の方が扱いやすいのです。ガバッと開ければその部分は過ぎてしまうのであまり影響はありませんが、マディでは開け始めが大事ですね。晴れでも同じです。天気によってエンジン特性を変えたりはしていません。

マシンのセットアップとしては、雨の日はシートを換えます。僕と成田さんだけですが、加速時に尻が滑るのが嫌なので、引っかかりがいいシートを使います。雅己(田中)は晴れでも雨でも同じシートですが、筋肉で滑りをこらえているようです。あと、雨用品としては、フェンダーやハンドガードにスポンジを貼ったり、マッドグリップを付けることでしょうか。

ライディングポジションは、雨だからといってあまり変えません。後ろ乗りも前乗りもスタンディングもしませんね。コースコンディションによって変えた方がいい場合もあるかもしれませんが、僕はそんな器用なことができません。実はマディの練習はあまりしていないんです。練習中に行って途中から雨が降ってきたらそのまま乗りますが、朝から降っていたら今日は止めておこうと判断しますね。

何度も言いますが、マディは好きではありません。ただ、IA初優勝がマディだったことで自信につながりました。今後はドライコンディションでも優勝経験を積み重ねて、雨でも晴れでもオールラウンドに強い富田と言われるようなりたいと思っています。

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