全日本モトクロス2013 TEAM HRC現場レポート

HRC
vol.7 夏休み

3選手のインターバルの過ごし方

全日本モトクロス選手権のスケジュールには、7月14日の第6戦(藤沢スポーツランド)と9月8日の第7戦(名阪スポーツランド)の間に、約2カ月のインターバルがあります。この期間を、TEAM HRCのライダーはどのように過ごしていたのでしょうか? 夏休み明けの3選手にインタビューしました。

成田亮「アメリカでしっかり充電してきました」

冬の「AMAスーパークロス」に続いて、夏休みには「AMAナショナル」に出場してきました。ワシューガル(ワシューガル・モトクロスパーク)、ミルビル(スプリングクリーク・モトクロスパーク)、ニューベルリン(ユナディラバレー・スポーツセンター)、ソルトレイクシティ(ミラー・モータースポーツパーク)、レイクエルシノア(レイクエルシノア・モータースポーツパーク)の5戦です。プライベートでこんなに多く参戦するのは大変ですが、ファクトリーでサポートしてもらえたのでうれしかったです。昨年は(全日本の)タイトル獲得が最優先でしたので、AMAを走りたい気持ちを我慢していました。

今年は全日本の成績があまり芳しくないので、今回のアメリカ遠征で気分を入れ替えたり、レースを通じて自分を磨き直すことができたらいいなと思っていました。AMAナショナルは、ほぼ毎週レースがありますし、乗る時間が多かったので、マシンとの一体感が築けたと思います。

AMAでは日本のファクトリーマシンは走れませんので、日本からストックを2台送って、アメリカン・ホンダでチューンしてもらいました。エンジンの仕様は、基本的に(ジャスティン)バルシアや(トレイ)キャナードと一緒です。全日本のマシンとは全然違いますが、パワーフィーリングは最高でした。足まわりはフロントにSFF AIRを使いました。SHOWAのスタッフに同行してもらいましたので、実戦でセッティングを探ることができましたし、レースのないウイークデーは、マイルストーン、コンプエッジ、グレンヘレンなどで前後サスペンションのテストをしていました。AMAで好感触を得たエアサスですが、全日本ではスプリング式の長所の方を優先させています。

タイムアタックに慣れていませんので、ワシューガルでは予選突破が難しかったのですが、ミルビルではタイムで落ちながらもラストチャンスレースで通りました。ユナディラでは初めて予選通過タイムを出せたのですが、プレスデーを走れたのでコースに対する慣れが違いました。プラクティスの時間が短いので、いきなりタイムを出すのは難しいです。レースの間隔も短くて、ヒート1が終わってすぐに着替えて、30分でヒート2という感じですので、とても疲れました。体力的にも鍛えられたと思います。

体力といえば、自転車で特訓した効果もあったと思います。TLD(Troy Lee Designs)の城谷君と2人で10日ほど、マウンテンバイクをこいで山に登りました。これがほとんどシゴキというかいじめに近いトレーニングだったのですが、Strava(ストラバ)というアプリのおかげでがんばることができました。これは、チェックポイント間のタイムが計測できるアプリで、ある区間のランキングを見ると3位にジョニー・オマラ(1984年AMAスーパークロスチャンピオン)がいるんですよ。オマラのタイムは17分台で、僕は30分台。「くっそー、オマラに負けてたまるか!」という気持ちでがんばったら、最終日には23分台まで縮めることができました。コール・シーリー(2013年AMAナショナル13位)でも22分台でしたので、23分台は悪くないタイムだと思いますが、それにしてもオマラはすごいです。

今シーズンは“成田亮”が終わりかけていましたが、名阪で久々の勝利を挙げることができました。勝因は、Hondaのサポートのおかげで渡米し、心身ともに鍛え直すことができたからです。アメリカでもまれてきた走りを出せれば、また優勝を量産できると思います。


  • 成田亮
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小方誠「総合優勝は、名阪で乗り込んだ成果です」

夏休みにはまずフィジカルトレーニングをやりました。具体的にはランニング、サイクリング、スイミング、ウエイトトレーニングなどです。その後、少し休みを取ってからは、ずっと乗り込みです。チームの事前テストもありましたが、それ以外にも個人練習でみっちり走りました。オフロードヴィレッジと菅生はそれぞれ2日間だけでしたが、名阪は特に重視して12〜13日間ぐらい練習しました。1度の遠征で2日とか数日間走って帰ってくるスケジュールで、何度か行き来しました。練習量では、地元の小島庸平選手(スズキ)や平田優選手(ヤマハ)にも負けていなかったと思います。大雨には全く遭遇せず、名阪はずっと晴れてパサパサでした。

練習以外では、モトクロス・オブ・ネイションズの準備で忙しい夏休みでした。航空券の手配などは会社でやってくれますが、自分でもパスポートや国際免許の有効期間をチェックしたり、ウエアの打ち合わせをしたり……という感じでした。ヘルメットはモンペットスターズで、昨年と同じようにペイントしてもらいました。アルパインスターズでは、ネイションズ用スペシャルのジャージとパンツを作ってくれますので、デザインが上がってくるのを楽しみにしているところなんです。ブーツは新型にJAPANのようなステッカーを貼ったものになるらしいです。準備で忙しくても、気持ちが前向きなので充実していました。

ネイションズの日本代表になるには、第5戦千歳終了時にランキング1位か2位でいることが条件でしたが、正式に決まったときは、やっぱりうれしかったです。昨年はネイションズの直前に代打で行くことになったので、どんなレースなのかよく分からないまま終わってしまいました。とにかく大会の規模がすごくて圧倒されましたし、サンドコースのすごさにびっくりしました。緊張もありましたが、その一方で世界中のトップライダーと戦える喜びを感じて、絶対にもう一度出たいと思っていました。ですから、今年は普段の練習時から、昨年のネイションズで足りなかった点を意識して取り組んできました。まずはスタート、それからギャップの通過の仕方、そういうところをメカニックの中村さんにも見てもらいながら、世界のレベルを目指してきました。

出発は9月19日(木)です。早めにHonda World Motocross Teamと合流して、練習することになるのかなと思います。詳しい予定は分かりませんが、今年の会場になるトイチェンタールの動画で予習できていますし、早く向こうのライダーと一緒に走りたいですね。このような日程なので、オフロードヴィレッジや菅生での練習量が減ることになりますが、全日本のことは全く心配していません。むしろ、世界のトップライダーとレースができるので、自分にとってプラスになることの方が多いと思っています。

今回の名阪では総合優勝(2位/3位)できましたし、首位の小島選手に6ポイント差まで接近することができました。レース中はあまり意識していませんが、オフロードヴィレッジと菅生の残り4ヒートで逆転してチャンピオンを獲得することは、十分に可能だと思っています。


  • 小方誠
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田中雅己「関西に戻ってリセット」

ずっと関西で練習していました。今までやってきたことを確認するために、夏休みの間だけ、埼玉から大阪の実家に戻っていました。関東では練習コースが遠かったり、渋滞がストレスになったりして、どうも時間の使い方がスムーズにいかずに、リズムを崩していました。「少し太った」と言われましたが、食事の面では自炊もしていましたし、問題はありませんでした。それでも大阪に戻ったら、体重が4kgほど落ちました。チームで行う体力測定でも体脂肪率が落ちて、小方さんと同じくらいになりました。まだ小方さんの方が上ですが、大阪でやり直したことが間違っていなかったと実感できました。

やはりライディングやトレーニングの環境を考えると、自分には関東よりも関西の方がいいと思っています。練習コースは下市、名阪、滋賀県の水口などいろいろあり、乗り込み時間も増やすことができました。体力の強化にも取り組んでいます。僕はジムでトレーナーの助言を受けてやることがすべてではないと思っていますし、以前から行っていた深夜の公園トレーニングも再開しました。持久力はクロスカントリーで養っています。山の中のハイキングコースには、死にかけたセミがたくさんいて、僕の足音を聞いて騒ぎ出すのが怖くて、ついついペースが上がりましたね(笑)。セミだけではなく、蜂や蚊など虫は全般的に苦手なんです。

思えば、昨年の夏はケガをしてなにもできなかったんですよね。藤沢の翌週に肩を脱きゅうしてしまい、それ以降の1カ月はマシンに乗れませんでした。そして、練習を再開したら、名阪のブリヂストンジャンプを飛んで転倒し、肩鎖関節の脱きゅうというダブルパンチでした。そのため、昨年は夏に追い込めなかったのですが、今年はほぼ毎日乗ることができましたし、充実した夏を過ごせたと思います。TEAM HRCに入ってから一度も勝てていないですし、終盤戦からは本領を発揮したいです。特に地元の名阪では絶対に勝ちたいです。デュアルマフラーの2014年モデルも発売されましたし、先行してきたファクトリーマシンも優勝しないといけない。そういう意気込みがありました。

ブリヂストンジャンプ(別名:雅己ジャンプ)は、監督から「危ないから飛ぶな」と禁止令が出ていまして、切り札として使えませんでした。あそこを飛ぶと1秒速くなるので本当は飛びたいのですが、今年は封印しました。もっとも、昨年あたりから飛び出しを低くされて、飛べないようにする改修が行われ、今年はもっと低くなっていましたので使えたかどうかは疑問ですが……。ただ今年は飛ばなくても速い方法を見つけてありましたし、テストのときはそこだけ小方さんより区間タイムで1秒速かったんです。それを、今度は成績につなげられるようにがんばります。両ヒート転倒リタイアという結果は最低ですし、悔しくてたまりませんが、これはもっと強くなるための試練だと思って、ひたむきにがんばりたいと思います。必ず復活してみせます。


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