全日本モトクロス2012 TEAMHRC現場レポート
Vol.072カ月間のインターバルをどう過ごした?

ライダーたちの夏休みの過ごし方

今シーズンは夏休み前のスケジュールが見直されたため、第6戦(7月1日、岩手県・藤沢スポーツランド)と第7戦(9月9日、奈良県・名阪スポーツランド)の間には、2カ月に及ぶ長いインターバルがありました。TEAM HRCのライダーたちは、夏休みをどのように過ごしていたのでしょうか。インタビューをしてみると、全員モトクロス漬けの日々だったようです。

成田亮「チャンピオン確定まで気を引き締めていきましょう」

最初は2〜3週間アメリカに行こうと思い、6月ごろから準備をしていました。今年は全日本にプライオリティがあるので、AMAナショナルモトクロスへの参戦はパスして、思いきり練習に集中するつもりでした。ファクトリーマシンをカリフォルニアに運んでもらい、走り込みだけではなく、テストもできればいいと思っていたんです。それで、航空機のチケットを探して、ビジネスクラスかファーストクラスで申し込みをしたら、行きはファーストが取れたのですが、帰りがキャンセル待ちという状況が何日も続いてしまって……。もちろん、ファーストクラスは、たまったマイレージで取りましたよ。とにかく、帰りのチケットが取れなかったので、結局アメリカ行きは断念しました。以前であれば、藤沢大会が終わると、翌週がAMAのワシューガル大会というタイミングだったので、すぐに支度をして飛んでいたのですが、最近はそうした無茶なことはできなくなりました。

アメリカに行けなくなったので、その代わりに国内でテストを何度もやりました。今年は、開幕から第6戦まで割と早く消化してしまったので、じっくりとマシン作りをする時間的余裕がありませんでした。ですから、夏休みが長いのはチャンスだと思って取り組みました。事前テストは、名阪だけで2日間×2回ですから、4日間やりました。平田(優)と小方(誠)も一緒で、スタッフもほぼ全員参加です。TEAM HRCは勝ちにいくチームなので、そうした態勢や意気込みがすごいですし、本当に頭が下がります。それで、名阪大会用の合わせ込みなのですが、標高が高いせいか、昔からエンジンのセッティングが出しにくいんです。キャブレターのころよりも、PGM-FIのおかげで楽になりましたが、それでも細かい要求を突き詰めていくと、名阪用はほかのコースより合わせるのが難しいです。もっとエンジンを回して走る方向で進めて、もちろん高回転域だけではなく、全体的にパワーが出るエンジンになりました。サスペンションは特に問題なく、シーズン前半の延長線上のまま、細部を詰めただけです。

マシンセッティングもフィジカルの面でも順調ですが、シーズン終盤になってくるとなにがあるか分からないのがレースです。昨年の名阪では熱中症にやられましたし、一昨年の広島では足を骨折しました。特に油断していたわけではありませんが、今思うとやはり甘かったのでしょうね。今年はそういうことがないように、気持ちを引き締めて終盤戦に臨みたいと思っています。チャンピオン決定がどの大会になるのかは分かりませんが、硬くなるといけませんので、あまり意識はせず、自分の走りができればいいと思っています。第8戦広島大会(世羅グリーンパーク弘楽園)は、新井宏彰選手(カワサキ)が得意としているコースですが、ほかにも速いライダーが大勢いますし、特に1人だけマークすることはしません。自分も嫌いなコースではないですし、負けていないと思いますので……。最終戦のSUGO大会(宮城県・スポーツランドSUGO)は、地元開催ということと、今年は第4戦で1敗を喫している因縁のコースですので、思いきり勝ちたいですね。

平田優「ニューマシンに乗り始めました」

第7戦名阪大会から新型マシンに乗り換えることになりましたので、ひたすらテストに没頭した夏でした。実は、従来型に乗り続けたいという気持ちもあって迷いました。しかし、来年の開幕からはどのみち新型になるのですから、そこで苦労するよりも今のうちから乗り換えてアドバンテージにしようと思いました。第6戦藤沢大会のあとに1週間だけ休みをもらって、それ以降はテストの連続です。事前テストは名阪で2回、広島で1回、SUGOで1回の計4回参加しました。ここまではチームで行う通常のテストなのですが、僕のために個人的なテストも2回やってもらいました。場所は長野県のスポーツランド泰阜で、標高や土質が名阪に似ていますし、地理的に自宅とHRCの中間地点にあるので、両方から合流して日帰りで戻れるんです。HRCからは、メカニックとチーフと監督が僕のために来てくださいました。

2013年モデルのCRF450Rがベースになっている、いわゆる2本出しのファクトリーマシンは、ここまで成田さんに合わせてきたマシンですので、僕が乗るにはゼロから作り上げることが必要です。成田さんはエンジンを回すタイプですが、僕の好みは正反対で、回転が上がる前にシフトアップをするので、成田さん仕様のままではトップパワーを引き出せません。ですから、まずはエンジンから取り組みました。従来型であれば、セッティングを変えようとする場合でも、世界中のデータが2〜3年分あるので割と簡単にできるのですが、今度のマシンはデータが全くないので、大変な作業でした。エンジンが仕上がってきたら、次にサスペンションのセッティング、タイヤとのマッチング、車体の剛性……。それらを評価しては、作り直してもらうという繰り返しです。成田さんとはサスペンションもタイヤも違いますので、比較できる対象がなく、本当に根気のいる仕事でした。そのようなテストに、夏休みを返上して付き合ってくれたのですから、チームスタッフには心から感謝しています。僕を勝たせたいということに加えて、彼ら自身の勝ちたいという気持ちを痛感しました。

現時点でマシンの仕上がりは、エンジンも車体も8割程度です。サスペンションにはなじんできましたが、フレームが別物なので、ベストマッチングを追求しているところです。今度のニューマシンは、軽くて振り回せる車体が売りなのですが、フレームの軽快感がすばらしいです。コーナーの入り方が軽くて、CRF250Rに乗っているような気がします。設計の狙いがはっきりと感じられますね。エンジンは低回転域が出ましたが、もっと出して幅を広げたいです。ピンポイントですごいパワーが出るエンジンではなく、少々いい加減な乗り方をしても走ってくれる特性が理想なんです。ですから、クラッチも油圧のダイレクト感がだめで、ワイヤーに変更してもらいました。

そんな感じでテストに明け暮れた夏でしたが、北陸合宿という恒例のイベントもあったんですよ。石川県の富田俊樹選手のコースに、馬場大貴選手、稲垣佳樹選手、稲垣達樹選手、鈴木友也さん、大平宏則さん、伊藤昌弘さんなど中部のライダーが集まって、楽しく走りました。ずいぶんと長い夏休みでしたが、これだけ集中してマシンテストに取り組んだことは、これからの終盤戦に必ず役立つはずだと思います。

小方誠「オリンピックを応援しながら自分のフィジカルも万全に」

今年は藤沢大会が早く終わったので、夏休みが長かったと皆さんは言います。しかし、僕自身はマシンテストやフィジカルトレーニングをしていて、いつも通りだったという感じです。レースがないのは寂しいですが、モチベーションは高く持ち続けていました。マシン作りに関しては、タイムが出せるマシンというテーマに向かって、エンジンとサスペンションとタイヤを合わせ込んできました。藤沢からパワーアップしたエンジンに大きな変更はないのですが、さらに熟成が進んで、いい感じになっています。PSF(ニューマチック・スプリング・フォーク)は昨年から使っているのですが、すごくいいんですよね。スプリングがないとゴツゴツ感がなくて、初期はふわふわした感じで手にやさしいです。奥で踏ん張ってくれるプログレッシブ特性もありますし、トータル的にシーズンオフから作ってきたマシンが完成の域に達した気がしています。

フィジカルトレーニングとしては、ランニング、サイクリング、スイミング、ウエイトトレーニング……これらを総合的にやっていますが、特に夏用のメニューはありません。トレーニングの話題からは少し離れますが、オリンピックでは応援に力が入りました。僕は北島康介選手が好きなので、全レース応援していました。個人でメダルを逃したことが残念でしたが、リレーで獲得できたのでホッとしました。なぜ北島選手のファンなのかというと、僕は子どものときからスイミングスクールに通っていたからなのかもしれません。父親も水泳をやっていましたし、叔父も水泳のコーチなんです。小方家のDNAかもしれませんね。得意なのはクロールですが、4種目全部平均的にできます。水泳は選手を目指すほどではなかったのですが、中学2年生までやっていました。だんだんとモトクロスの方が忙しくなったのでスクールは辞めましたが、今でもトレーニングで泳ぐことは好きです。僕は基本的に持久力がある方なのですが、それは水泳で鍛えてきたおかげだと思っています。また、学校の部活動は陸上部だったのですが、専門は中距離だったので、それもモトクロスのためになっていますね。

夏休み明けの名阪では予選でトップになり、決勝では久々の表彰台に立つことができました。タイムを出すというテーマは実現できていると思うのですが、周りにはもっと速い選手がいますし、競ったときにミスをしないように心掛けていきたいと思います。


成田亮 成田亮 成田亮 成田亮 成田亮
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