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全日本モトクロス2012 TEAMHRC現場レポート
Vol.06事前テストはどのように行われる?

本番で最高のパフォーマンスを発揮するために

全日本モトクロス選手権が行われる会場では、ファクトリーチームやサテライトチームの多くが事前テストを実施しています。シーズンオフや開催日間近に行われる、レース本番へのシミュレーション……。その実態について、TEAM HRCの井本敬介監督に解説してもらいました。

ロードレースのサーキットはレイアウトが固定されていますが、モトクロスコースでは、同一のコンディションが保たれることはありません。ジャンプやフープスの形が違えば、路面にできるギャップやワダチも違いますし、天候によってコースコンディションはハードパックからマディへと様変わりします。コースレイアウトが手直しされれば、前年走ったコースとは全くの別物になります。我々としてはぶっつけ本番でレースに臨むようなことがないように、なるべく当日に近いコンディションであらかじめマシンのセットアップとライダーの慣熟走行をやっておきたい。それが事前テストの主旨です。事前テストというよりも、事前練習と呼んだ方がいいかもしれません。

スケジュール的には、おおむねレース本番の2週間前に行っています。今年のカレンダーでは2〜3週間ごとに大会があるので、たとえば菅生(第4戦・5月27日)、千歳(第5戦・6月17日)、藤沢(第6戦・7月1日)の連戦では、菅生のあとにそのまま千歳に移動して、火曜・水曜に事前テストを行ってから朝霞(埼玉県のチーム本拠地)に戻りました。そして、千歳のレース後には、藤沢に寄って事前テストというスケジュールを組んで動きました。最近は4メーカーの申し合わせによって、合同で行うことが多くなりました。やはりどこのファクトリーチームでも似たような日程になりがちですし、仮に1社が先にコースを借りきってしまうと、他社は事前テストができなくなります。そのような事態を避けるために、4メーカーで相談するようにしており、今年は熊本と千歳の事前テストを合同でやりました。お互いに他社のマシンと比較できることなども合同テストのメリットです。

事前テストの日程は、2日間が基本です。前日に現地入りして、丸2日間みっちり走行します。メニューや時間割はケースバイケースなので決まっていませんが、一例を挙げれば初日の午前中に20分×3本、午後にまた20分×3本。2日目の午前中も20分×3本ぐらいは走り、午後にはロングランを入れます。2日目の最後ともなれば、テストというよりも走り込みという意味合いが強くなりますから、レースを想定した30分×1〜2本は走っています。ライダー全員が個別に走ることもあるし、同時スタート形式でやることもあります。このような2日間が基本セットですが、取り組むメニューが多い場合には3日間になることもあります。

事前テストに参加するのは、レース当日のメンバーとほぼ同等です。ライダー3人、担当メカ3人、監督、チームメカ、サブメカ、開発スタッフ、ドライバー、だいたい10〜12人ぐらいでしょうか。そのほかにショーワさん、KYBさん、ダンロップさん、ブリヂストンさんのスタッフも参加しますが、関連メーカー様は他チームのサポートも兼ねています。

事前テストで何をやるのかという点ですが、大きく分けるとセッティングとアップデートです。まず、サスペンションとPGM-FI(電子制御燃料噴射装置)のセッティングをコースに合わせます。さらに、懸案事項や前のレースで顕在化した部分について改良を施す。これがいわゆるアップデートです。たとえば、新しいタマが入ってくると、自ずとメニューが増えます。新しいタマとは、エンジンのポート、カムシャフト、ピストン、クランク、吸気系、排気系などのニューパーツのことで、サスペンションの新機構、ジオメトリー違いのフレームもこれに含まれます。このようなアップデートには、あらかじめ年間計画で決まっているものと、ライダーの要求や突発的なトラブルなどに対応するものがあります。

ファクトリーチームの使命は、レースに勝ってチャンピオンシップを獲得することと、一般ユーザーの利益となるようなマシン作りの一翼を担うことです。したがって、アップデートを実行するか否かは、ライダーの適性を見極めながら行っています。気に入った仕様をあまり変えたがらないライダーもいますが、メーカー側にも新機構を実戦で検証したい事情がありますので、ライダーの好みよりも会社の方針を優先しなければならない場合もあります。それに、レースは相手があることですから、ライバルにストレートで置いていかれたとか、ギャップで自分だけ振られたというようなことになれば、ハードで対応することになります。具体的にはエンジンのパワーアップや、サスペンションセッティングの変更、または車体ジオメトリーの見直しが必要になるかもしれません。幸いなことに今シーズンはそんな事態にはなっていません。

最近のモトクロッサーは成熟されていますので、創世期のころのように突拍子もないマシンが出てきたり、各社のマシン性能に格段の差があったりすることは、まずありません。その一方で、今後は革新的なマシンが登場しないとも言えません。たとえばサスペンションの面では、ショーワさんもKYBさんも新機構を試みては量産化に成功しています。現在進行中の内容については言及できませんが、ただセッティングのためではなく、市販を視野に入れた開発を行っています。

タイヤに関してはファクトリー対応ということで、ダンロップさんとブリヂストンさんからあらゆるレンジに合わせたタイヤを供給してもらっています。パターン、コンパウンド、内部構造などが何種類もあれば、組み合わせは無数に近くなりますが、事前テストで何十種類も試すわけではなく、せいぜい3種類ぐらいでしょうか。今回の藤沢はおおむねサンド路面ですから、サンド用、ソフト用などをテストしました。TEAM HRCではチューブに代わるムースを前後に使用していますが、事前テストでもムースですし、成田の場合は個人練習でもムースを使っています。なお、タイヤの見極めは事前テストではなく、シーズンオフのテストであらかじめ絞り込んであるので、その中から当日のコンディションに応じて決定しています。

今年のシーズンオフは、昨年のカレンダーが11月までずれ込んだため、非常にタイトな日程でテストを行いました。真冬にはライダーが温暖な海外でトレーニングを行うこともあって、その前後の12月から3月まで2〜3日間のテストを月に2〜4回やりました。とくに新型を投入する前のシーズンオフとなると、メニューがたくさんあるのです。今年は異なる仕様の3台で開幕を迎えましたが、ライダーの個性とも関係があります。

成田はマシンテストに対して非常に熱心ですが、あまり細かいことまでは要求しません。気になっている点はつぶし込みますが、ある程度決めたあとは走り込みでマシンの特性を習得します。成田車には開幕から大きな変更を施していません。レース後のコメントを聞いて、気になった点や要望などに対応してきた程度です。平田はマシンに慣れるのに時間がかかるタイプなので、昨年末に仕様を固めてから大きく変えないようにしてきました。平田も乗り込み重視です。成績もだんだん上向き、成田と1-2フィニッシュを決められるまでになったので、そろそろ勝てるという自信を深めていることでしょう。小方は体力もガッツもあるし、とても前向きなライダーです。リザルト的にもの足りない面もありますが、今は成長過程なのであえてリザルトは求めないと言ってあります。それよりも450ccというビッグマシンでレースをするためのペース配分、ライン取り、トータル的なマネージメントを学んでいるところなのです。強引にねじ伏せて走るのではなく、後半で勝負できるような組み立てができるようになれば、表彰台の常連になるでしょう。なお、小方のマシンは少しずつアップデートしてきましたが、今回の藤沢からエンジンをパワーアップしました。予選で成田を押さえて1位になるなど、成果は出ていると思います。

TEAM HRCの事前テストに対するスタンスは、テストというよりも走り込み重視です。たとえば、なにか新機構をテストする際でも、1周ごとにピットインしては仕様を変えるようなことはしていません。そこまで細かい作業は開発ライダーがやることであって、事前テストに何仕様も持ってくるようなことはしません。ファクトリーライダーにあまり多くの選択肢を与えないため、あらかじめ芹沢直樹などの開発ライダーによって絞り込んであるからです。やはり事前テストでライダーが迷うようではいけませんし、気に入った仕様で走り込んでレースに臨むのが理想的だと思います。開幕から第6戦まで比較的タイトな日程で消化してきましたが、名阪(第7戦・9月9日)までは比較的長いインターバルがあります。一般論ですが、ハード的に何か新しいことをやるとしたら、ここがいいタイミングではありますね。


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