全日本モトクロス2012 TEAMHRC現場レポート
Vol.05サポートスタッフの仕事

ライダーの体調&栄養管理サポート

全日本モトクロス選手権で最高の成績を収めるため、TEAM HRCではマシン作りと並行してライダーの体調管理にも取り組んでいます。今回はチームに帯同しているウイダートレーニングラボの淺井利彰さん(トレーナー)と清野隼さん(管理栄養士)に、ライダーの体調&栄養管理サポートについてうかがいました。

モトクロスは非常に過酷なスポーツです。レース中には心拍数が180を超えますし、水分補給もままならない状況が30分以上も続きます。これは他のスポーツではありえないほどの厳しさで、ライダーの体調管理が極めて重要なテーマになります。

我々がTEAM HRCに帯同しながら行っているのは、ストレッチ、マッサージ、ウォームアップ、クールダウンなどによってライダーのコンディションを高めることと、水分補給を含めた栄養面でのサポート。そして現場で的確な指示を出すための判断材料として、体重・体温計測と尿検査を随時行っています。担当するタイミングとしては、前泊する金曜の夜から日曜のレース後に撤収するまでです。

アップは走行30分前までに自転車かジョギングで10分ほど行い、心拍数を150ぐらいに上げておきます。ダウンは走行後すぐに休まず、5〜10分ぐらい自転車をこぐことによって血流を促し、乳酸などの疲労物質を除去するのが目的です。とくにヒート1の後にはヒート2が控えているので、短時間でなるべく早く疲れを取っておきたい。運動直後から2〜3時間は疲労物質が出ているものですが、ダウンをしっかりやることによって回復を早めることができるのです。マッサージは筋肉の張りをほぐす程度ですが、左右のバランス取りには留意しています。やはり左右の手足は異なる動作をしているためか、張りがどちらかに片寄ることがあります。ストレッチは股関節、太ももの裏側、前腕などに施します。腕アガリは永遠のテーマですが、ライダーの乗り方によって個人差もあり、バイクの中心付近にうまく乗っているライダーの方が、無駄な力が入らず腕アガリも少ない傾向があるようです。

コンディションチェックの一環として行う尿検査は、体重・体温測定と合わせて、起床後、就寝前、レースの前後に行っています。これらのデータを分析して、水分、食事、サプリメント摂取などを調整しているのです。たとえば水分は足りているのに電解質が足りないという場合もあり、検査結果から判断しています。モトクロスライダーは身体にかかるストレスが一般の人とは違って、その発汗量から脱水症状を起こしやすい。とくに真夏にはその傾向が顕著になり、昨年8月の菅生ではレース前後の体重差が、3.1kgに及んだ例もありました。1ヒートだけで3.1kg減ったということは、それだけの水分を発汗により失ったことになり、明らかに限度を超えていました。ある程度の脱水は許容しなければなりませんが、ライダーの体内に水分とミネラルを維持する努力を怠ることはできません。

ライダーの飲み物はウイダーのトリプルカーボです。3種類の糖質を含んだスポーツドリンクで、エネルギーになるタイミングが早い糖質からゆっくりした糖質まで入っているので、長時間にわたって継続的なエネルギー補給が可能なドリンクです。レース後に飲んでいるのは、リカバリー。破壊された筋肉を修復するため、運動直後から45分後までがプロテイン摂取のゴールデンタイムとされています。ウォーターローディング(水分の補給)は脱水症状の予防策として有効なので、金曜の夜から実行しています。たとえば就寝までに水を500cc、翌朝起床後トリプルカーボを500cc飲んでもらう。さらにレース前後にも水分補給を行います。水分をあらかじめ摂取しておくと、排尿しても体内に貯蓄できる分が残るので、多めに飲んでおくことが大事です。レース前にはカーボローディングも重要で、普段よりも炭水化物の摂取を増やすようにしています。

TEAM HRCでは、昼食の弁当を特注しています。具体的にはライダー用×3個、メカニック用×3個、そしてチームスタッフ用×17個。我々の希望するメニューを少数でも作ってもらえるかどうか、事前にレース会場近隣のお弁当屋さんと交渉しています。他の団体スポーツなどでは、栄養士が宿泊先のシェフに具体的な注文を入れることがありますし、食事に対する意識を高める狙いもあってライダーは別メニューとしています。スタッフ用は何でも構いません。チーム監督や技術者の人なら、唐揚げ弁当でもトンカツ弁当でもいいのです。

ライダー用とメカニック用には意味があります。ライダーが昼食を摂るのは、土曜の予選前と日曜のヒート間になります。緊張状態の中で消化機能の低下も想定し、どんなものなら食べられるかということと、エネルギーとなる糖質源を多めに摂取することを念頭に、毎回メニューを考えています。糖質源としては、やはり米が一番。麺類やパンもいいでしょう。パスタサラダを出したこともあったし、マヨネーズを使わなければサンドウィッチでもOKです。今回の北海道大会の土曜の弁当は、おにぎりといなり寿司をメインに、フルーツを添えました。おかずは基本的になし。普段食べ慣れているもので、高脂質ではないものがあれば食べても構いません。おにぎりには食べやすくするために梅干しや味の濃いものを入れたりしますが、副菜などはあまり設定しません。

小方誠

メカニック用弁当はライダー用と似ているのですが、こちらは簡便に食べられることを重視して別注しています。メカニックは終日仕事に追われてゆっくり食事する時間がないので、作業しながらでも食べやすいように、おにぎりやサンドウィッチが主体となります。身体を酷使するメカニックにも糖質源が必要なことは確かで、結果的にライダー用弁当とほとんど同じになる場合もあります。ライダーとメカニックは一心同体ですから、同じメニューの弁当を食べてレースに臨むという演出があってもいいかなと思っています。

このようにレース会場での昼食は特注弁当で対応してもらっていますが、栄養管理としては我々とライダーが金曜の夕食を共にするところから始まっていて、実はどこで何を食べようか事前に調べて決めてあります。カーボローディング(糖質の補給)はレースの2〜3日前から心がけたいので、パスタ、うどん、水炊きなどを食べに行きます。親子丼を食べたこともありました。卵は栄養価が高く、鳥肉は脂質が少ないし、ご飯も糖質源として最高です。金曜夜と土曜夜は少し考え方が異なります。なぜなら翌日が土曜ですと昼前のプラクティスと午後に予選があるだけですが、日曜は朝からプラクティス、ヒート1、そして午後にヒート2があるので、その負担を計算する必要があるからです。

大ざっぱに言えば、金曜夜の方が自由で、土曜夜は少々厳しくという感じでしょうか。ただし、あれはだめ、これもだめ、これを食べなさいというような、がんじがらめの栄養管理はしていません。やはり食事は楽しんで欲しいし、好きな物をおいしく食べて欲しいので、効果的なメニューを考えていますが、押し付けにならないように気をつけています。ただ、リスクマネージメントの観点から生ものは避けます。朝食は土曜も日曜もホテルのバイキングです。かなりメニューも充実しているし、午前中のヒート1に直結するのでしっかり食べて欲しい。6時前に起きて尿検査、水分補給して6時に朝食、7時に出発というのが我々のルーティンなのですが、ホテルのバイキングが7時からだったりする場合は、交渉して早めてもらうこともあります。

体調&栄養管理サポートは、バイクの点検整備のようなものです。身体が発する信号からライダーの体調を読み取って対処したり、不調を来さないような準備をしておいたり……。これを飲んだら速くなれるとか、これを食べたら優勝できるというものではありませんが、ライダーのポテンシャルを最大限に発揮してもらう一助にはなれます。そのために、我々は地道なサポートを続けてまいります。


成田亮 成田亮 成田亮 平田優 平田優 平田優 小方誠 小方誠 小方誠