全日本モトクロス2012 TEAMHRC現場レポート
Vol.033ライダーの好きなコース

マイフェイバリットコース

モトクロスが行われるコースには、いろいろなタイプがあります。土質(ハード〜ソフト)、高低差(フラット〜アップダウン)、障害物(ベーシック〜テクニカル)などコース本来の特性に加え、天候の変化もコンディションに大きな影響を与える要素になります。今回の現場レポートでは、TEAM HRCの3人に「マイフェイバリットコース」について語ってもらいました。

平田優「アイデアで勝負できるのでサンドコースが好きです」

サンドコースが好きですね。そう言うと突っ込まれそうなので、先に念押ししておきますが、好きなのは日本のサンド限定で、ロンメル(2010年にスポット参戦したWMXリンブルクGPの会場、砂地獄と呼ばれるほどのディープサンドコース)は別物ですから。全日本開催地の中で一番好きなのは、藤沢(藤沢スポーツランド)です。どこでもそれなりにグリップがいいから、スロットルを開けやすい。ライン選びに自由度があって、いろいろな組み立て方ができる。だからいいラインが何本もできるし、毎周コンディションが刻々と変化するんですが、そこに考える余地があるからおもしろい。終盤になると荒れてギャップが増えるので、自分もミスするけれど相手もミスしやすい。それでも工夫しながら自分のアイデアを注ぎ込めるから、サンドコースが好きなんです。

対照的に硬質路面のコースではベストラインが1本になりがちで、みんなは速いかもしれないけれど、自分的には入りにくい角度だったりしてうまく走れないことがあります。そこで自分だけベストラインを外れてみると、滑るので遅くなる。どんどんリズムが悪くなる。だからまたみんなのラインに戻る。こうして悪循環にはまるのです。硬いコースだと1周目から集団が縦長になってしまうけれど、サンドコースだったらインでもアウトでも並べるし、横に広がる分だけ前後に詰まったまま序盤が展開される。だから出遅れてもばん回しやすいし、スタートで前に出て逃げる時だってラインを自由に振りやすい。そんなサンドコースとしては、HOP(北海道オフロードパーク)も好きですね。HOPでは増田一将選手と一緒に夏合宿をしたことがあるだけですが、今年から全日本が開催されることになったので楽しみです。

苦手なコースは、狭くて土が硬いところ。僕はラインを大きく取るタイプなので、バイクを寝かしている時間が比較的長いんです。でも、硬くて滑るコースではなるべく寝かさないように走ろうとするので、バイクを起こしてまっすぐに進入し、コーナーの奥でドンとぶつけて曲げるみたいな走り方になります。そうすると遠回りで距離が長くなるし、まっすぐな割にスピードも乗っていない、どんどん遅くなるというパターンになってしまうのです。じゃあ小回りすればいいじゃないかと言われますが、そういう走り方はしたくありません。チーム内で比較すると、成田さんはストップ&ゴーで小回りするのが得意なんです。本当はスピードを乗せた走りの方が好きみたいですが、バイクを垂直にしてブレーキング、くるっと回ってすぐに起こして加速という乗り方もできる。両方できるのが強みなんですね。

僕はスピードを落とさずにアウト側のバンクを回る方が好きなので、広さがあれば硬質路面でもそんなに苦手じゃありません。たとえば広島(世羅グリーンパーク弘楽園)、川越(オフロードヴィレッジ)などは、得手と不得手の中間という感じでしょうか。川越はコースレイアウトがよく変わりますが、ライダーの適応能力を高めるために歓迎すべきことだと思います。日本のコースは何年も同じレイアウトのところが多いから、昨年速かったラインが今年も速いということになる。でも、今年からチームメートになった成田さんと練習して学んだのは、そういうラインだけじゃないということ。成田さんは先入観にとらわれることなく全然違うラインを試したり、レースで競り合う時のクロスラインやブロックラインを想定して練習しているんです。AMAを走ってきた経験なんでしょうね。自分としては目の前にお手本が現れた感じで、すごく刺激を受けています。

平田優 平田優 平田優 平田優

小方誠「実はマディが好き…雨が降ったら小方だ! と思ってください」

全日本のコースの中で好きなのは、藤沢(藤沢スポーツランド)、HOP(北海道オフロードパーク)、菅生(スポーツランドSUGO)。共通点は何かというと、広くてラインがたくさんあるところです。自分の乗り方は、減速をあまりしないでハイスピードをキープするスタイル。普段練習している所が狭いせいか、開け開けのコースでレースしたい願望が強いのかもしれません。土質的には藤沢とHOPがサンド、菅生はちょっと違ってウッドチップを混ぜた土。菅生のコースは藤沢やHOPほど広くはないんですが、ラインがアウトとインに分かれるところが多いので、走っていておもしろいんです。

だから1本ラインになりやすいところは、あまり向いていません。やっぱり走っている僕らもそうなんですけど、お客さんのためにもコース幅は広い方がいいと思うんです。広い方がライン取りの選択肢があるし、競り合いが増えておもしろくなりますよね。観に来た人がその感動を友だちに伝えてくれたら、モトクロスの人気が高まっていくんじゃないかと。僕らにできることはおもしろいレースを見せることだと思うので、そこはしっかりとやっていきたい。やっぱり競り合いじゃないですか。レースの醍醐味はバトルですよね。もちろん今のままでも、抜いたり抜かれたりはあります。1本ラインといっても仕掛ける時はラインを変えるし。でもブロックパスになってしまうので、お客さんもつまんないんじゃないかと思うんです。そんなセコい抜き方じゃなくて、全開で並んだままジャンプを飛んだり、広いコーナーで三つ巴のトップ争いをしたり、スピードの差を見せつけるような抜き方っていうのかな。お客さんが「うぉー! すげー!」って叫ぶようなバトルを見せたいと思うんです。

僕的にはジャンプとフープス(洗濯板状に凹凸が連続し小さなジャンプをしながら通過する区間)が好きなので、そこで抜けたらカッコいいかな。レース中はあまりしないけれど、ジャンプで寝かしたりするのが好きなんです。スクラブじゃなくてウィップの方です。フープスはポーンポーンじゃなくて、ダダダダダ! って感じで抜いていきたい。コーナーはだらだらと走るんじゃなくて、深いサンドでハンドルが刺さるくらい寝かせてガバっていうのが好きですね。アメリカの本に出てくるみたいなヤツです。でもああいうコーナリングは、硬いコースだとできません。転ばないように走りますから。サンドだと転んでも痛くないし、グリップがいいから思いきりバンクさせられますね。

硬いと言えば、川越(オフロードヴィレッジ)では昨年の最終戦でも勝てたし、土質的には好きなんです。カチカチ、ツルツルで表面に砂利があったりして、以前の桶川みたいな感じでしょうか。川越で勝てたのは慣れもあったけれど、他のライダーとタイム差があまりなかったことと、マディっぽいのが自分に合っていたからだと思います。実は雨が好きなんですよ。周りのスピードが落ちても僕はあまり落ちないので、そこが強みなのかなと。あとはSWANSゴーグルのおかげですね。晴れでカチカチの路面が滑るのは嫌だけど、雨で滑るのは好きです。雨のしたくぐらいなら苦になりません。昨年は雨の熊本(HSR九州)でも勝ってますし、それ以前に最後の2ストで優勝した菅生(2004年最終戦)もマディでしたから。熊本にはもっと楽しい思い出もあって、あれは3年前だったかな、スタートから1コーナーまでが池みたいになった時も僕だけ喜んでいました。ツルツルもグチャグチャも大丈夫。そんなわけで「雨が降ったら小方だ!」と思ってもらってもいいです。もちろん雨男じゃ終わりません。晴れでも狙っています。

小方誠 小方誠 小方誠

成田亮「全開でもトラクションしてくれるアメリカのコースが僕の基準」

マイフェイバリット……いくつでも挙げていいのなら、菅生(スポーツランドSUGO)、HOP(北海道オフロードパーク)、藤沢(藤沢スポーツランド)です。菅生のいいところは、地元ファンの応援を受けてテンションが上がるのと、開けても大丈夫なトラクションのよさ。気合入れてメンテナンスしているんですね。レース前にコースを全部掘り返して、ザクザクにしてくれた時のコンディションが最高。徐々にワダチができたり変化があって楽しい。でも菅生のカチカチになった時の硬い路面は、あまり好きじゃありません。セクション的には、3番ポストから右に曲がりながら登るところが好き。結構Gがかかって曲げながら開けていくところなんで、自分でもなかなか決まらないくらい難しいんですが、菅生の中で一番気に入っているところです。あとはフープスとかトリッキーな面もあって好きなんですが、菅生もレイアウト的には飽きてきたので、そろそろ手直ししてくれたらうれしいですね。外国のコースはひんぱんにリニューアルするじゃないですか。でも日本ではあまり変化がなく、例えば「広島ではカワサキが強い」みたいにアドバンテージが固定してしまってつまらない。逆に「菅生は成田だ」というのもつまらないので、何年ごととかサイクルを決めて新しいレイアウトにしてもらい、みんながイコールコンディションになった方がおもしろくなるはずです。

HOPは5年前のオールスターレースで初めて走った時、広くてうねっているコース全体が気に入りました。路面はザクザクのサンドですが、ジャンプとフープスだけ違う土で作ったらしくてカチカチに硬かった。そういえば、藤沢もサンドコースですが、最近は少し硬めになってきた感じですね。藤沢は土質だけでなく、レイアウト的にも大好きです。自然のままのアップダウンという感じのマウンテンコースなので。菅生はコンパクトにまとまっているけれど、藤沢はもっと大胆に広がっているので、開けている時間が長くて楽しい。サンドは荒れてくるとテクニックの差が出るので、自分も疲れるしミスをするけれど、考えてレースを組み立てられるじゃないですか。身体と頭を極限まで使って戦う。それがモトクロスの魅力だと思います。

自分的にダメなのは、ハードパック(土を固めた硬質の路面)ですね。なかなか全開にできないし、晴れると砂ホコリが立ちやすいので。ライダーの安全ももちろん大事ですが、お客さんにとっても砂ホコリは少ない方がいい。そういう点ではアメリカが徹底しています。僕はAMAナショナルにフル参戦していたので全会場に行きましたが、どこへ行ってもコース全周を掘り起こして水をまいてあります。ひとことで言うと適度に湿ったザクザクですが、トラクションがいいのでインでもアウトでも全開。広いコース幅の端から端まで何本もワダチができて、徐々に踏み固められるんですが、カチカチになるまでは乾ききらない。ライダーのため、お客さんのため、コースのためのベストコンディションが保たれているんです。アメリカの主催者は、何が何でも大会を成功させようという気合がすごいですね。

そんなAMAナショナル会場の中で好きなのは、バッズクリークとレッドバッド。両方ともアップダウンとビッグジャンプと鬼のワダチで有名なコースです。あと、2位入賞したマウントモーリスですが、実は逆バンクばっかりだから嫌いなんですよ。あの時は路面がヌルヌルだったから、たまたまパストラーナより速く走れただけ。余談ですが、僕は雨が得意ではありません。洗濯が面倒臭いし、雨は大嫌い。周りのみんなが遅くなるだけなんです。全日本は雨でマディになることが多いんですけど、お客さんのためにもお天気でベストコンディションが続いて欲しいと思っています。


成田亮 成田亮 成田亮