team HRC現場レポート

全日本モトクロス第8戦MFJGP(10月27日・スポーツランドSUGO)にて、山本鯨選手(#400・CRF450RW)がIA1チャンピオンに輝き、Team HRCとしては4年連続でチャンピオンシップを制覇しました。昨年12回目の王座獲得を果たした成田亮選手(#114・CRF450RW)はランキング2位となり、Team HRCが2年連続の1-2独占を達成しました。今回の現場レポートでは、Team HRCの芹沢勝樹監督が激戦の2019シーズンを振り返ります。

Team HRC・芹沢勝樹監督

Vol.63

2019シーズンを振り返って

まず、今季Team HRCをご支援下さいましたスポンサー各位とファンの皆さまに対し、感謝の意を表したいと思います。この4連覇は、ライダーとチームメンバーがそれぞれの役割に対して力を発揮したことによって実現した、価値ある成果にほかなりません。本当にありがとうございました。

最終戦にゲスト参戦し、ダブルウインを飾ったミッチ(ミッチェル)・エバンス
最終戦にゲスト参戦し、ダブルウインを飾ったミッチ(ミッチェル)・エバンス

最終戦・MFJGP(スポーツランドSUGO)では、ミッチ(ミッチェル)・エバンス(#143・CRF450RW)がダブルウイン。富田俊樹(#718・CRF450RW)が2位/2位、山本が4位/3位、成田が3位/9位という成績を収め、両ヒートでTeam HRCが表彰台を独占しました。今シーズンの強さを象徴するようなシーンでしたが、オーストラリアから世界選手権のMX2クラスに参戦してきたエバンス、そしてAMA選手権に挑んでいる富田が上位を得たことは、Hondaのグローバルな取り組みによる成果の表れだと思います。

開幕戦でダブルウインを飾った山本鯨
開幕戦でダブルウインを飾った山本鯨

今季の目標としては、昨年同様のランキング1~2位独占に加え、全ヒート優勝を目指していました。開幕戦・熊本(HSR九州)では、山本がダブルウインを決めましたが、第2戦・関東大会(オフロードヴィレッジ)では、小方(誠)選手(カワサキ)に優勝をさらわれました。Hondaにとって地元ラウンドということもあり、必勝を期して臨んだのですが、いま考えると少し油断していたのかもしれません。

オフロードヴィレッジは差が付きにくいコースレイアウトなので、スタートを重視した準備をしましたが、うまくいきませんでした。事前テストではハードパックだったので、HSTC(ホンダ・セレクタブル・トルク・コントロール)をトラクション重視方向に設定したのですが、本番ではスタートから1コーナーまでの路面が掘られていたので、パワー重視に戻した方がよかったのかもしれません。スタートの成否はライダーの感性によるところも大きいですが、出遅れの一因にセッティングのずれがあったことは否定できません。

第2戦・関東大会で競り合う成田亮と山本鯨
第2戦・関東大会で競り合う成田亮と山本鯨

関東のヒート2では、最終ラップのタイトコーナーで成田と山本が接触し、成田が初優勝をゲットした一方、転倒した山本が4位にとどまりました。激しい攻防でしたが、チームとしてはレースアクシデントと捉えています。成田の執念が山本のイン側に隙を見つけたのでしょう。山本は右手の小指の脱きゅうが完全に回復していない状態でレースに臨んでおり、万全のコンディションでなかった面もありました。

第3戦・中国大会(世羅グリーンパーク弘楽園)では、テストもしっかりできてマシンも決まってきたので、チーム全員が自信を持って大会に臨みました。 山本は中国が得意で、事前テストではいつも最速です。ところがそれを本番で発揮させるのが難しい。レースで競り合うと力が入って腕が上がるなど、ちょっとしたことでライディングが乱れることがあるのです。外乱に影響されやすいという感じでしょうか。一方の成田は、テストでタイムを出せなくても焦らないし、本番にピークを持っていく組み立て方を知っています。特に今年は、小方を大逆転して勝った昨年のイメージを持ち出して、出遅れても勝てると成田を盛り立てていました。

世羅グリーンパーク弘楽園には、我々がユナディラセクションと呼ぶアップダウンの折り返しがあって、成田は今年も得意にしていました。谷底から上る部分のギャップで食われず、スピードを乗せられるラインを見つけるのがうまいのです。タイヤ1本か2本分の幅であっても、臨機応変に見極めてはラインを自在に変えていました。山本の場合は、ギャップに入りながらも最小限のショックで収まるような走り。ライン取りのバリエーションとしては、成田ほど多くありませんでした。

成田亮(左)、山本鯨(右)。第3戦・中国大会にて
成田亮(左)、山本鯨(右)。第3戦・中国大会にて

ヒート2の最終ラップには、トップ争いをしていた山本と成田が接触転倒して3位と4位…というドラマがありました。レース中のアクシデントだったとはいえ、さすがに2戦連続となるといただけません。そこで第3戦の直後に成田と山本と私の3人で話し合いました。各々言い分はありましたが、冷静になって何のためにレースをしているのか考えてみようと。チーム監督として同士討ちは見たくないし、Hondaの看板を背負っているライダーらしく、Hondaファンにも喜んでもらえるクリーンなレースをして欲しいと伝えました。

第4戦・SUGO大会(スポーツランドSUGO)は、マディになりましたが、事前テストでも雨だったのでセッティングが決まり、しっかり準備したことが本番で発揮できました。エンジンはそのままですが、サスについては泥の付着による重量増に対応し、姿勢変化が少なくなるようにセッティングしました。今年のマシンは量産ベースなので、サスのアジャスト程度で決まります。シーズンオフに徹底的なテストをやってきたので、シーズン中はあまり迷うことがありません。完全なワークスマシンですと、何か一つ入れると変化が大きいのですが、量産ベースだとその振れ幅が少ないのです。

成田亮は第4戦・SUGO大会でダブルウイン
成田亮は第4戦・SUGO大会でダブルウイン

SUGOでは成田がダブルウイン、山本が2位/2位でした。自信に満ちていた成田とは対照的に、山本は勝てないフラストレーションを溜め込んでいました。開幕戦でダブルウインを達成できたものの、仕上がって勝ったわけじゃないことは自覚していました。その後は指のケガもあって、調子を取り戻すまでに相当な日数がかかりました。山本が本来のレベルに到達したのは、第5戦・東北大会(藤沢スポーツランド)だったと言えます。山本が2位/1位、成田が1位/2位…。ポイント的には互角ですが、ここでの1勝により山本は流れを引き寄せました。

SUGOでは成田の経験値が光っていました。チームとしては山本のライン取りの幅を広げようとサポートした結果、東北のヒート2では成田のライン取りを学習して逆転という、理想的な勝ち方を見せてくれました。1本のベストラインを速く走れるライダーは大勢いますが、ラインを変えると遅くなるケースが多い。ところが成田はラインを変えてもタイムを詰められる数少ないライダーで、練習のときからいろいろなラインを試しています。レース前でも新しい情報にはどん欲で、直前に行われるIA2でチームスタッフが変わったラインを発見すると、早速サイティングラップで試したりします。山本は自分の走りに集中するタイプで、アドバイスに耳を傾けますが、どちらかと言うと自分の理想を追求する傾向です。

山本鯨も第6戦・近畿大会でダブルウインを果たす
山本鯨も第6戦・近畿大会でダブルウインを果たす

東北を境に一騎打ちモードに突入しましたが、第6戦・近畿大会(名阪スポーツランド)では、山本が勝つべくして勝ち、開幕戦以来のダブルウインをゲット。成田は8月下旬に鎖骨を骨折したこともあって、3位/3位にとどまりました。プレートを入れてすぐに事前テストを走った成田は、それほど痛みもなくレースでは勝てると思っていたほどです。しかも9月末に行われるモトクロス・オブ・ネーションズにも出場を志願しており、全日本に集中したい山本とは対照的なスタンスでした。ケガを恐れる気持ちはない。世界のトップライダーと戦うことで刺激を受けて、全日本にフィードバックしたい。そういった本人の意志を尊重して、ネーションズ参戦を許可しました。

モトクロス・オブ・ネーションズで力走する成田亮
モトクロス・オブ・ネーションズで力走する成田亮

オランダのアッセンで開催されたモトクロス・オブ・ネーションズは、ディープサンドに加えて雨という悪条件の中でしたが、成田は果敢に予選上位を走りました。足を付いた際にヒザのじん帯を痛めてしまいましたが、帰国後も意欲的に練習をこなしていたほどです。

第7戦(HSR九州)では予選1周目にヒザに再度ダメージを負ってしまったものの、決勝ではベストを尽くして走りきりました。14位/13位というリザルトは不本意だったと思いますが、成田はポイント首位の座を山本に明け渡してもなお、レースを捨ててはいませんでした。昨年の最終戦では、チャンピオン争いよりもティム・ガイザー(Team HRC)やジェレミー・シーワー(ヤマハ)に挑むことで、逆転タイトルを引き寄せたのだと信じています。成田は今年の最終戦でも、ヒート1で山本に競り勝って3位に入る執念を見せてくれました。山本に焦点を当ててみれば、昨年の教訓を生かして確実にタイトルを獲得をするスタンスでした。ヒート1で成田と競った後、冷静に引いて完走を目指していたし、彼の走りには抑えが利いていました。

チャンピオンに輝いた山本鯨
チャンピオンに輝いた山本鯨

ヒート2は山本もチャンピオンにふさわしい走りをしたいと常々言っていたことが発揮されていい形でチャンピオンを獲得することができました。再度となりますが、Team HRCへの皆さまからのご声援、ありがとうございました。