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team HRC現場レポート

全日本モトクロス選手権第5戦(7月21日・岩手・藤沢スポーツランド)で、成田亮選手(#114・CRF450RW)が通算160勝を達成しました。今シーズンは山本鯨選手(#400・CRF450RW)の3勝に対し、ここまで5勝を挙げている成田選手が、IA1クラスのポイントリーダーに君臨しています。今回の現場レポートでは、Team HRCに帯同する風間貴文氏(株式会社ナズー/日本体育協会公認アスレティックトレーナー)が、成田選手の絶好調を分析します。

風間貴文氏

Vol.60

トレーナー視点で分析する、成田選手の好調

Team HRCのトレーナーとして携わるようになって5年目ですが、今シーズンの成田選手はいつにも増して好調だと思います。コンディショニングに関しては昨年も順調でしたが、シーズン半ばに足を骨折したことで練習できない期間がありました。一昨年はスケジュールに完全休養日を多めに設けていたんですが、昨年からはオフの日でも身体を動かすアクティブレストを取り入れました。軽めの有酸素運動で血液の循環を促して乳酸を取り除く方法です。成田選手の自宅には有酸素運動のマシンがあり、休養日のアクティブレストに活用されています。

風間貴文氏
風間貴文氏

トレーナーの観点からは、成田選手の体力を維持していこうと考えています。若いライダーであれば、もっと筋力をアップしようとか、持久力を上げようという方法論もあります。成田選手は39歳のベテランなので、体力アップよりも、ベストコンディションでレースに臨むために何をしたらいいのかというアドバイスをしています。体調管理には、運動、栄養、休養という三本柱があって、それをバランスのいい三角形に整えることが大事です。いくらトレーニングや練習を積んでもパフォーマンスが出ないときは、しっかり休んでほしい。ただ、一昨年の完全休養よりも昨年からのアクティブレストの方が、成田選手にマッチしていたことは確かです。

連日練習したときよりも、休み明けの練習の方が(マシンに)乗れているということがあります。筋肉の疲れが取れて、リフレッシュできているからです。休んでもスキルは落ちません。これはどんなスポーツでも同じです。サッカーをやっていた私の場合、リフティングをやってみると今でも10回ぐらいならできます。ただし1,000回やるとなると、昔はできたのに今では体力がないから無理です。あるいはボールの飛距離を50メートルに決めて、正確に蹴ることもできます。ところが今では、そのキックを100回繰り返す筋力がない。スキルは衰えませんが、体力はトレーニングを継続しないと維持できないのです。

成田亮選手
成田亮選手

成田選手の好調は、練習量と休養の質に裏打ちされています。週に3日とか4日とか、練習日数については指示せず任せていますが、ベテランなので大丈夫でしょう。事前テストでも精力的に乗り込んでいますし、マシンに乗りたいという純粋な気持ちが年々研ぎ澄まされているようです。2年前までは終盤にペースが落ちることがありましたが、原因は運動、栄養、休養の三角形がいびつになっていただけだと思います。年齢的な衰えでないことは、今シーズンの最終ラップまで続くデッドヒートを見れば明らかでしょう。

今では事前テストに帯同することが普通になりましたが、当初はレース日だけというプランでした。サッカーだったら常にトレーナーがそばにいることが当たり前なのですが、モトクロス界でも認知度が上がってきたのかもしれません。私の仕事はライダーの身体を作ることよりも、痛みを取るなど身体を治すことがメインなので、できるだけ走行時に付き添えることが理想です。

レース現場でケアに当たる風間氏
レース現場でケアに当たる風間氏

現場では障害予防と疲労回復、負傷した場合のアフターケアなどを担当します。ライダーにありがちな背中の張りを取って、硬くなった筋肉をリセットすることが多いですね。成田選手の背中はあまり硬くない方ですが、ケアは首の付け根から腰まで施しています。腰の筋肉は骨盤を経由して太ももにつながっているので、骨盤の動きを良くしてあげると脚も腰もほぐれます。ほんの一例ですが、そんなケアを現場で行っているのです。

トレーナーがレース日だけではなく、事前テストにも帯同するようになったのは、成田選手の要望やチームの理解があったからだと思います。たとえば足を骨折していて、レースではテーピングが必要になりそうな場合、ぶっつけ本番でいいのだろうか。成田選手だったら、レースと同じ状況を予めシミュレーションしておきたいと考えます。テーピングの強さはどのくらいに設定するのか。足首をどれだけ動かせるのか。ブーツのサイズを大きくする必要があるのか。そういうことをすべて試して、不安なく本番に臨みたい。レースがスタートしてからテーピングに違和感を覚えるようでは、準備不足と言わざるを得ません。マシンセッティングと同じようなに、成田選手は身体のセッティングにもこだわっているのです。

第4戦東北大会・ヒート1で優勝した成田選手
第4戦東北大会・ヒート1で優勝した成田選手

今シーズンの成田選手の強さは、不安なくバイクに乗れていること。スターティングゲートに付くまでに、心配事がすべて拭い去られている。どこかに痛みを抱えたまま、練習不足で本番を迎えるという悪循環になっていないことが好調の秘密です。そのための細心の準備は、成田選手の求心力がなせる業だと思います。自分の周囲に勝てる環境を作る能力とでも言いましょうか。勝利に対する執念が、それが成績にフィードバックされている。もちろんチームとしては成田選手だけでなく、山本選手も同等にサポートしています。成田50:山本50というよりも、100+100=200パーセントと表現した方がいいかもしれません。

成田選手と話す風間氏
成田選手と話す風間氏

今季もチームメート同士によるチャンピオン争いなので、テンションが高いことは事実です。感情的になることもあれば、妙にリラックスできていることもある。そんなときに私が思い出すのは、アインシュタインの言葉です。確か「人間は海のようなもので、穏やかなときもあれば、嵐のように荒れることもある。人間の身体は大部分が水でできている」という内容でした。成人の場合、60パーセントが水ですから、海面のように感情の起伏があるのもうなずけます。成田選手は喜怒哀楽の幅がある方ですが、その真ん中あたりに実は冷静な瞬間があって、気配りが周囲の人間を惹き付ける素顔がある。正にキングたる理由だと思います。

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