team HRC現場レポート

全日本モトクロス第2戦(5月12日・川越・オフロードヴィレッジ)のIA1ヒート2で、成田亮選手(#114・CRF450RW)が優勝し、今シーズン1勝目を挙げました。オーバーオールでは、成田選手が3位(5位/1位)、山本鯨選手(#400・CRF450RW)が6位(7位/4位)。この結果シリーズランキングが逆転し、成田選手が山本選手に対し1ポイント差で首位に立っています。今回の現場レポートでは、Team HRCの中川重憲チーフメカニックが第2戦を振り返ります。

中川重憲チーフメカニック

Vol.57

スタートの瞬間への準備について

オフロードヴィレッジは、埼玉県朝霞市を拠点とするHRCにとってホームと見なされる会場の一つですが、近年のリザルトを振り返ってみるとカワサキ勢の勝率が高く、この流れを断ち切ることが今回のテーマでした。もちろん成田と山本にも優勝経験があり、決して苦手なラウンドではないのですが、抜きにくいコースであることからスタート練習に注力することにしました。

事前テストでは、エンジンやサスペンションのセッティング、タイヤチョイスなどを行うものですが、今大会前のテストではスタート練習に2時間ぐらい費やしました。オフロードヴィレッジでは従来、スタート地点が立入禁止となっていましたが、今回の事前テスト時から開放されるようになったのです。他チームもやっていましたが、スタート練習にかける時間は我々が一番長かったようです。スターティングゲートのバーを動かさずに下げたままでしたが、成田と山本はポジションを変えながら自分なりのタイミングを探っていました。


成田亮
成田亮

オフロードヴィレッジのスタート地点は、その特殊性から攻略の難しさが指摘されてきました。スターティングゲートには倒れるバーを守るように鉄板が設置されていて、これがジャンプ台になってしまうのです。高さは10cm程度ですが、走り出すとまず前輪がその鉄板の壁に当たって、上に跳ねたりバランスを崩したりします。ホールショットデバイスが外れる場合もあります。次に後輪が当たると空転したり、横滑りしたり…。こういった現象について、データ収集と攻略が完ぺきにはできていないのが現状です。

スターティングゲートは、土台がコンクリートで固められています。マシンを置く位置が土なので、いわゆるコンクリートスタートとは違うのですが、ワダチが掘れて低くなれば、土からコンクリートへの段差が生じてさらに複雑になります。タイヤの通り道は、土→コンクリート→鉄板→コンクリート→土と変化します。ライダーは前輪と後輪が接する対象の違いに意識を集中しながら、スロットル操作、クラッチ操作、体重移動などを駆使しなければならないのです。段差や鉄板を利用して思いきり飛び越してしまうやり方もありますが、スタート地点の後方にはパイプが置かれているので助走距離が足りません。


スターティングゲート
スターティングゲート

攻略法としては、ウイリーしない程度にフロントを上げて、段差をクリアするのが有効だろうと考えました。そのためのクラッチミートを事前テストから練習しました。山本は以前からそういうスタイルでした。少しフロントを浮かせながら出て、ゲートの先で腰を後ろに引いて加速する。その乗り方がオフロードヴィレッジに合っていたので、山本は普段通りでよかったのですが、成田は意識的にフロントアップさせるスペシャルテクニックを練習する必要がありました。

そうして迎えたレースウイークの金曜日、コンクリートに土盛りができるようになったという情報がもたらされました。MFJの規則書ではライダーとメカニックに道具を使用せず地ならしすることが認められていますが、従来のオフロードヴィレッジでは土盛りを禁止するローカルルールがありましたが、今大会ではコンクリートと鉄板を覆う土盛りが可能となったのです。


スターティングゲート
スターティングゲート

普段の進行では、まずライダーがスターティングエリアを整地します。エリア内であれば土を手で運んだり、タイヤが通るラインを踏み固めたりします。ライダーがサイティングラップに出た後、メカニックが整地の仕上げをします。スタート後はゲートが倒れるところに石や土の固まりなどがあれば取り除かれますが、ゲートの後方は掃除されません。つまり今大会のケースでは、最初のレースでコンクリートから鉄板にかけて土が盛られ、それが次のレースにも残っていたのです。

土曜日の予選レースでは、成田がアウトより2番目のゲートから出ましたが、1コーナーで外側に押されるうちに抜かれました。山本は中央付近からスタートしたのですが、1コーナーの入口で挟まれました。2人とも出足はよかったのですが、その後のさばき方に問題があると思われました。予選フィニッシュは、成田が5位、山本は2度転倒した結果11位でした。決勝におけるゲートピックは、ヒート1もヒート2も予選順位が適用されるので、あまり芳しい成績とは言えませんでした。


山本鯨
山本鯨

オフロードヴィレッジのスタートは、インとアウトのどちらが有利なのか一概に言えません。1コーナーにIA2のレース中にできたラインがあれば活用できたり、インが有利と思いきや撒水が片寄ってウエットになっていたり…。山本の場合は過去に1コーナーで転倒した教訓を踏まえ、今回は迷わずイン寄りを回避していました。

決勝ヒート1では、山本が一番アウトから2番目、成田はインから9番目をチョイスしました。山本はクラッチミートに失敗し、成田は出遅れて集団に埋もれてしまいました。リザルトは成田が5位、山本が7位…。昼休みにビデオを徹底的に検証した結果、好スタートを切れている選手を参考に、フロントアップせず普通にスタートした方がいいという結論に至りました。土盛りによって、オフロードヴィレッジの特殊性が薄れていたのです。このことをライダーに伝えましたが、実際にどうするか判断は本人たちに任せました。


成田亮
成田亮

ヒート2のゲートは、山本がアウト寄り、成田はインから4番目に修正しました。その結果、成田が見事にホールショット。山本も好スタートでしたが、1コーナー立ち上がりで少しリアを滑らせて5番手でした。最終ラップの攻防で、トップに立った山本を成田が逆転しましたが、モトクロスならではの意地の張り合いだったと思います。ポイントリーダーズゼッケンは、山本から成田へと移りますが、こういう首位争いがシーズン最後まで続くのではないでしょうか。


成田亮
成田亮