team HRC現場レポート

全日本モトクロス選手権IA1クラスにおいて、3年連続チャンピオンを獲得しているTeam HRCは、開幕戦(4月14日・熊本・HSR九州)で1-2-3フィニッシュを達成しました。山本鯨選手(#400・CRF450RW)が完全優勝(1位/1位)、成田亮選手(#114・CRF450RW)が総合2位(3位/2位)、富田俊樹選手(#718・CRF450RW)が総合3位(2位/4位)。全ヒート優勝とタイトル4連覇という目標に向かって、順調なスタートを切ることができました。Team HRCのインサイドストーリーをお伝えする現場レポート。今回は芹沢勝樹監督によるニューシーズンの展望と、開幕戦のまとめをお届けします。

芹沢勝樹監督

Vol.56

2019シーズンの展望と開幕戦の総括

今シーズンの全日本モトクロスはIA1クラスに限定し、成田と山本の2人体制で参戦します。富田は4年目となるAMAナショナル挑戦を控えているため、今大会にスポット参戦しました。今後は状況次第ですが、全日本の終盤戦にもエントリーするかもしれません。能塚智寛は、世界選手権への復帰を視野に入れ、今季はヨーロッパ選手権EMX250に出場します。


山本鯨
山本鯨

ハードウエアとしては、成田車も山本車も同じ19年モデルをベースとしたマシンで、勝利の追求と同時に量産車の開発も見据えた検証を行っていきます。2台はほぼ同仕様で、違いがあるのはホイールとクラッチ系統ぐらいでしょうか。もちろんエンジン特性やサスペンションセッティングは、ライダーの好みに応じて異なります。両車ともサスペンションはSHOWA、タイヤはブリヂストンを採用しています。


成田亮
成田亮

今季の目標は、「Team HRCによる全ヒート優勝」です。昨年は「圧倒的上位独占」を目標に掲げながら、小方選手(カワサキ)に2勝、新井選手(カワサキ)に1勝を許しましたが、敗因を解析した上でパーフェクトを目指します。過去にはシリーズのトータルポイントや得点差などを数値目標としたこともあったようですが、今シーズンは8戦に減ったこともあって接戦が予想されるので、特に数字は定めていません。

オフシーズンはチーム合同によるメニューを少なくして、国内で個々のライダーのペースに任せた走り込みを行ってきました。成田は19ベース車への乗り換え、山本は負傷後のリハビリ明けという事情があったからです。成田も2月の練習中に薬指を開放骨折。大きなケガでしたので裂傷がふさがるまでに時間がかかりました。富田は1カ月ほどアメリカでトレーニングを積んだ後、3月に入ってからは日本に戻って、チーム練習の中で競わせました。

開幕戦の天気は、晴れから雨に向かう予報でしたが、シーズンオフにテストを行った際、1日目が晴れ、2日目が雨ということが多かったので、その経験を活かすことができました。晴れのセッティングを詰めて、雨になったら何をどの程度アジャストすればいいのか、そういったシミュレーションができていたのです。サスペンションに関して一例を挙げれば、何クリック分アジャストするということではなく、ドライ用のサスとマディ用のサスを用意しておき、路面状況に応じて取り換えるというやり方も行いました。


山本鯨
山本鯨

現地入りしてからは、富田もスポット参戦するということで、3人各々が勝つことだけを考えて集中するように心掛けました。何位でオッケーということではなく、全員がトップチェッカー、表彰台のセンターを目指すということです。そういうシンプルな気持ちで臨んだ開幕戦でした。


富田俊樹
富田俊樹

予選では富田の速さが目立っていました。富田はこのオフで唯一ケガと無縁だったので、事前テストのときから絶好調でした。成田と山本をしのぐタイムを出していましたし、富田の両ヒート優勝(ピンピン)も想定していました。むしろ、この後にAMAナショナルの開幕を控えているわけですから、全日本でピンピンを取れるぐらいでないと困ります。とはいえ昨年、一昨年のチャンピオンが富田に負けるようではいけない。そういう競争原理というか、相乗効果を期待できる3人がそろっていたということです。

予選中に山本がちょっとスローダウンして、成田、富田、岡野選手(ヤマハ)を先に行かせるシーンがありましたが、あれは自分が飛ばしているのに意外と後ろが離れなかったので、一度ラインを学習してみようと考えたからです。ただホコリで視界が悪くなりつつある中で、状況判断を誤ったことは本人も認めていました。前のラインが見えにくく、安全マージンを取って少し離れた結果、山本は4位(1位富田、2位成田、3位岡野)で予選を終えることになりました。


山本鯨
山本鯨

日曜は雨模様でしたが、ヒート1はまだドライだったので晴れ用セッティングのままでした。山本がしっかりスタートを決めて、富田も2番手につけたのですが、成田が珍しく8番手辺りと出遅れました。そこから凄まじい追い上げを見せましたが、実は成田だけ他の2人よりも速いセクションがあって、そのアドバンテージを利用してポジションを上げることができたのです。差が付いたセクションは8番ポスト、富士山を越えてからの左180度ターンでした。


成田亮
成田亮

このターンにはラインが3~4本あったのですが、IA2ヒート1の間にインベタと少し外寄りのラインが深く掘れて、立ち上がりもギャップが増えてスピードが乗りにくくなっていました。実はその2本のラインの間に比較的平らなところがあって、そこにIA2の誰かがきれいなラインを作っていました。インベタのすぐ隣りですから距離も短く、立ち上がりの路面も荒れておらず、きれいなワダチになっていました。たまたま私が観察していたときに見つけたラインでしたが、サイティングラップでチェックするようライダーに伝えました。

そのラインに入るには、手前の小さなダブルジャンプを飛ばずにしっかり減速する必要があったのですが、成田だけは飛んでから減速してインに入ることができたので後半の追い上げにつながったと思います。その結果、ヒート1は、山本、富田、成田が1-2-3フィニッシュを決めて表彰台を独占しました。

ヒート2では、やはり山本がスタートよくて、後ろを気にせずに自分のペースで走りきりました。山本はカムバックからそれほど日にちが経っていないレースで、後半の体力に不安があったので序盤から行けるだけ行く作戦でした。その後ろでは富田対成田のバトルがありましたが、富田が転倒したフープスから折り返してくる辺りは、いちばん滑りやすい路面だったことは確かです。


富田俊樹
富田俊樹

率直に言うと、山本のピンピンは想定外でした。勝って欲しいとは思っていましたが、やはり昨年の最終戦での脱臼からリハビリを経てのカムバックですから、無理せずに表彰台でいいと思っていました。ですから山本に対しては、今日は勝てるぞ!というような声がけはしていませんでした。今大会に限れば、富田、成田、山本という予想でしたが、正反対の結果になりました。今後は富田が渡米するため、山本と成田の一騎打ちになります。Team HRCとしては、ハード面でもソフト面でも両ライダーを公平にサポートしていきます。緊迫した頂上対決をお楽しみ下さい。


山本鯨
山本鯨