モータースポーツ > インディカー・シリーズ > GO FOR IT! > vol.4
歯がゆい思いを何度も経験した第14戦ボルチモア。ジミー・ヴァッサーとともにチームの共同オーナーを務めるケヴィン・カルコーヴェンの表情も険しくなりがちだった。
速さはあるのに思わぬことが起きて結果を残せない。第14戦ボルチモアのレースは、今シーズンの戦いを象徴するような展開になった。
予選の第1セッションではグループ3番手のタイムを記録し、余裕で第2セッションに進出できるはずだったが、その直後、ギアボックス・トラブルが原因で立ち往生。これでセッションはフルコーションとなったため、ペナルティとして僕は最速タイムをふたつ抹消され、結果的に最後尾からのスタートを強いられることになる。
それでも決勝では速さを見せることができた。26番グリッドからスタートしながら27周目には15番手へと浮上。ところが、やがて半数近いマシンが関わる多重クラッシュが発生し、ここでフロントウィングにダメージを負ってしまう。しかも、レギュレーションを字義どおり解釈したためにピットストップのタイミングが遅れ、フロントウィングを交換してコースに復帰したときには18番手まで順位を落としていた。
再スタートが切られると、僕は猛チャージを再開。コース上でオーバーテイクを繰り返して6番手へと返り咲くと、チームメイトのトニー・カナーン、ダリオ・フランキッティ、スコット・ディクソンらが演じていた2番手争いに加わり、上位フィニッシュを目指した。しかし、この過程でコーナー内側のウォールと軽く接触。直後は走行を続けられたものの、ステアリング系のトラックロッドと呼ばれる部品が壊れていたため、2周後には操舵不能となってリタイアを喫した。
結果は残念だったが、何事もなければトップグループと互角のペースを発揮できることが改めて確認できた。この自信を胸に、次戦もてぎは全力で戦い抜くつもり。そして日本のファンの皆さんの前で、これまでの集大成といえるレースをお見せしたいと願っている。いざ、もてぎへ!
今年もたくさんのファンに応援したもらったインディ・ジャパン。これで最後とは絶対に思いたくない。
今季14戦を戦い、僕の所属するKVレーシング・テクノロジーの強みと弱みがかなりはっきりしてきた。
僕たちが得意としているのは、どちらかといえば全長が短めのオーバルコースだ。これまでテキサスとミルウォーキーでシングルフィニッシュを果たし、アイオワではポールポジションを獲得。ニューハンプシャーでも決勝で一時トップを快走した。
一般的にいって、オーバルコースの路面は平滑でサスペンションが大きくストロークすることはあまりない。また、ショートオーバルでは市街地コース用と同じダウンフォースの大きな空力パーツを用いる。こうしたコンディション、セッティングで走るとき、KVレーシングのマシンは最良の一面を見せる。苦手としているのは、これとはまったく反対の性格を持つコース。特に大きなサスペンション・ストロークが要求されるロードコースや市街地コース、特にグリップ感が低いコースでは苦戦することが少なくない。それでも市街地コースのエドモントンでポールポジションを獲得できたのは、空港の滑走路を利用するこのコースは路面がとてもフラットで、サスペンションをあまりストロークさせる必要がなかったからだ。
日本での開催は今回で最後となるが、ツインリンクもてぎのロードコースは、このエドモントンの市街地コースとの共通点が少なくない。まずは路面がウルトラスムーズであること。また直角コーナーが連続する点もエドモントンとよく似ている。しかも、インディカー・シリーズ中、母国・日本で開催される唯一のレースとなれば、僕のやる気が倍増するのはもちろんのこと。これまでで最高の成績を挙げる意気込みで、僕はもてぎに乗り込んだ。
そこで待ち受けていたのは、思いもよらない事実だった。ファイアストンが持ち込んだのは、いままでインディカー・シリーズでは使用したことがないくらいハードなコンパウンド。これは、もてぎの路面がフラットで、グリップレベルが高いために下された判断だった。
このタイヤを、僕たちは全くと言っていいほど使いこなすことができなかった。思い切り攻めようとしても、路面の上をタイヤがサラサラと滑っていくかのようで、まるでグリップ感が得られない。それでも予選ではソフトタイヤを使った気合いの走りで11位に食い込んだが、これはもう、本当に限界の限界まで攻め抜いた結果。決勝でのジャンプアップなど、この段階ではまったく期待できない状況だった。
おまけに、もてぎはオーバーテイクがとても難しいコースだった。強引に仕掛ければコースアウトを喫するか接触するかのどちらか。どこに勝機を見いだすべきか、僕は悩み続けた。
案の定、決勝レースは序盤からこう着状態に陥った。誰もが順位を上げたいと思っている。けれども、そこで無理を押し通せばすべてを失うことになりかねない。多くのドライバーが我慢のレースを強いられていた。
そうしたなか、我慢しきれずに勝負を焦るドライバーが出てきた。フォーミュラ・ニッポンの2010年チャンピオンで、今回インディ・ジャパンにスポット参戦したJ.P.デ・オリヴェイラがまさにそのひとり。僕の直後を走行していたJPはヘアピンで強引に僕のイン側にノーズをねじ込んだものの、コーナーを曲がりきれず、僕を道連れにしてコースアウト。これで僕も一旦は順位を落とすことになったが、その後も粘り強く走り続け、レースが残り数周でフルコーションになったときには7番手まで順位を戻していた。
上位フィニッシュを狙うには、これが最後のチャンス。この再スタートで順位を上げるべく、極限まで集中力を高めながら、そのときがやってくるのを待った。
そして運命の再スタートが切られた。まず、チームメイトのE.J.ヴィソを攻略して6番手に浮上すると、5番手のアレックス・タグリアーニに並びかけるほどの勢いがあった。しかし、このまま1コーナーにアプローチすればアクシデントに巻き込まれる恐れがある。もてぎ最後のインディ・ジャパンをリタイアで終わりにしたくはない。そう考えた僕はアクセルをわずかに戻し、タグリアーニの後方につけようとした。そのとき、信じられないことが起きる。EJが僕めがけて強引にダイブしてきたのだ。目の前にタグリアーニがいたため、行き場を失った僕はEJと接触、10位でフィニッシュすることになった。
最後のインディ・ジャパンをこんな形で終えるとは思いもよらなかった。特に、今年も本当にたくさんのファンの方々から応援してもらったことにはとても勇気づけられたし、だから余計に最後のリスタートでジャンプアップしてゴールできたらどれだけ盛り上がったことだろうと思うと本当に残念でならない。それでも、レース終盤、観客席に西日が差し込み始めると、みんなの振るフラッグが日の光にきらめいて本当にきれいだった。最後までたくさんの応援、本当にありがとう!!
いつの日か再びもてぎでインディカーレースが開催されることを祈りつつ、僕は第16戦が開催されるケンタッキーに向かった