Hondaは1994年からアメリカン・オープンホイール・レースのトップ・カテゴリーに挑戦し続けてきました。IRLインディカー・シリーズには2003年よりエンジンを供給し、2006年からはHonda1社のみでエンジンを供給するワンメイク・シリーズとなっています。
かつては、複数のエンジン・サプライヤーによる激しい戦いが繰り広げられていましたが、現在は1年間を通じて全チーム、全ドライバーに同じエンジンを公平に供給するというワンメイクならではの難しさに挑んでいます。
Honda Indy V-8エンジンはアメリカ最高峰のシリーズに求められる高い性能を維持しつつ、高い信頼性の実現を常に目指してきました。2008年シーズンを通じたレース使用距離の積算は、16万6700マイル(42万3418km)とおよそ地球10周半分に相当しますが、レース中のトラブルはゼロ。過酷な500マイル(800km)レースであるIndy500でも、決勝に進出した全33台のHondaエンジンにトラブルが発生することはなく、ワンメイクによる純粋なドライバー同士の戦いに貢献しています。
現在、Honda Indy V-8エンジンは、カリフォルニア州サンタクラリータに本拠を置く、ホンダ・パフォーマンス・ディベロップメントで開発やメンテナンスが行われています。インディカー・シリーズに出場するチームに対し、リースという形でエンジンが供給され、年間リース料は約95万ドル(1ドル100円で9500万円)。この中には供給サービスからレーストラックでのサポートまで含まれています。
シリーズの大原則は、コストを抑えて誰もが参戦できるようにすることで、高価な素材や、開発に資金のかかるメカニズムの使用は一切禁止。現在のメンテナンス距離は1400マイル(2240km)まで延ばされており、約3レースを同じエンジンで走れるということは、コストの大幅な削減につながっています。
車体価格の上限もレギュレーションで決められ、30万9000ドル(3090万円)以下。2003年にデビューした現行のシャシーは2010年まで使用可能で、毎年買い換える必要もありません。マシンの開発だけで年間のコストが数百億円以上かかると言われているF1とは格段に違います。
インディカーは1969年から100%メチル・アルコール(メタノール)の使用を義務づけられてきました。それまで使用されていたガソリンは延焼が早いために爆発しやすく、火災時に黒煙が立つことから、視界不良による多重クラッシュを誘発することが問題となっていたのです。ガソリンと同じパワーを得るために倍近い量が必要となりましたが、安全性を優先した結果と言えます。
2006年からは世界的に注目を集めていたガソリンの代替燃料であるバイオ・エタノールを10%混合することになり、2007年以降は98%のエタノールに、2%のガソリンを配合した燃料を使用しています。なぜ100%にしなかったのか、その理由はお酒と同じ成分のエタノールは飲むことができてしまうため、誤飲を防止するためにガソリンが復活したのでした。
バイオ燃料であってもインディカーのパワーは650馬力を超え、なんとインサイトの4倍以上。車体重量はインサイトの1190kgより約40%も軽く、圧倒的なパワーと軽い車重が最高時速380km以上という驚異的なパフォーマンスを可能にしています。
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エンジン・タイプ | 自然吸気、フューエル・インジェクション、アルミ合金シリンダー・ブロックV型8気筒 |
排気量 | 3.5リッター |
重量 | 127kg(ヘッダー、クラッチ、ECU、スパーク・ボックスやフィルターを含まず) |
回転数 | 最大毎分1万300回転(IRL供給のレブ・リミッターによる) |
馬力 | 650馬力以上 |
燃料 | 100%フューエル・グレード・エタノール |
バルブ駆動 | デュアル・オーバーヘッド・カムシャフト、1シリンダーあたり4バルブ、金属製スプリング |
クランクシャフト | 鋼鉄合金、5メイン・ベアリング・キャップ |
ピストン | 鍛造アルミ合金 |
コネクティングロッド | 機械鋼合金 |
エンジン・マネージメント | マクラーレン |
イグニッション・システム | CDI |
潤滑油 | ドライサンプ方式 |
冷却 | シングル・ウォーター・ポンプ |