ほかのシリーズでは見られないことですが、インディカーはコースに合わせて5タイプに変身します。まずはオーバルですが、ショートトラック(全長1マイル以下)用と、スーパースピードウェイ用、Indy500の3タイプに変化。2種類のフロントウイングと3種類のリアウイングから組み合わされます
サスペンションとトランスミッションはオーバル専用で、ブレーキはカーボン製です。実はラジエターなどの内部パーツもコース内側に寄せて配置され、左だけに曲がるオーバルに適した重量配分となっているんです。
一方、右にも曲がる市街地や空港の仮設コースと、常設のロードコースのマシンは同じウイングを使用し、ブレーキはスチール製。サスペンションの構造も基本的には同じですが、仮設コースと常設コースではセッティングがまったく違います。
レース専用に作られたスムーズな路面の常設コースとは異なり、仮設コースは凹凸が多い一般道や滑走路を使用するため、車高を高くしてサスペンションのストロークを大きくしてあるのです。その車高の違いを、ぜひテレビでチェックしてください。
シリーズ最大の特徴は、なんと言ってもオーバルを走ることで、当然のことながらインディカーはオーバルの走行を前提に開発されています。息を呑む時速300km以上の平均速度(最高速ではなく、平均!ですよ)やスリリングな接近戦が魅力ですが、その分アクシデントに遭遇する可能性も高く、クラッシュによるマシンのダメージは並大抵ではありません。
インディカーを開発する上で最重要とされるのが安全性の確保であり、なおかつコスト高騰を防ぐために、各チームが改造できる箇所はほんの少しだけ。もちろん高価なパーツに換えることもできませんから、安全でいて経済性にも優れたマシンでなければならないのです。インディカーがF1よりも一回り大きく、100kg以上も重い理由は、まさにここにあります。
しかしながら、まったく進歩していないわけではなく、2008年からボディサイドにカーボンファイバーで覆われたアルミハニカムの衝撃吸収材が新たに追加され、横方向からの衝撃を少なくする対策が施されました。シリーズは常に安全性に関する研究と改良を行っており、一見変化のないマシンでも着実に進化しているのです。
インディカーが時速300km以上のスピードで接近戦を演じる際に最も重要な要素のひとつが、エアロダイナミクス(空力)です。どんなクルマもそうですが、高速で走行すればするほど車体には浮き上がろうとする力(揚力)が発生するため、レーシングカーはウイングなどで下向きの力(ダウンフォース)を発生させることによって地面に押さえつけられています。
インディカーではウイングのほかに、シャシーの底を独特な形状にすることで、地面に吸い付く効果(グラウンドエフェクト)を発生させています。飛行機の翼が揚力を生かして飛ぶ原理を、インディカーでは翼を上下逆さまにしたような形状で下向きの力として利用しているのです。グラウンドエフェクトによって得られるダウンフォースは、時速350kmでなんと2トン以上。理論上はトンネルの天井を走ることだって可能です。
また、車体の底で大きなダウンフォースを発生させることによって、後方に巻き上がる乱気流が少なくなり、後のマシンがより接近できるようになっています。インディカーで常に緊迫した接近戦が見られる秘密は、車体の底の空力にあるのでした。
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シャシーコンストラクター | ダラーラ |
シャシー | カーボン/ケブラー・コンポジット及びアルミニウム・ハニカム製グラウンド・エフェクト・アンダーボディ |
トランスミッション | XTRAC製6速セミオートマチック |
トラクション・コントロール | なし |
燃料タンク容量 | 最大22USガロン(約83.27リッター) |
シャシー価格 | 最高30万9000USドル(1ドル100円で3090万円) |
ホイールベース | 121.5〜122インチ(3086.1〜3098.8mm) |
最低重量 | オーバル:1565ポンド(709.8kg) ロード/ストリート:1630ポンド(739.3kg) 潤滑油、クーラントは含むが、ドライバーと燃料は含まない |
全長 | 最小192インチ(4876.8mm) |
全高 | 38インチ(965.2mm) |
全幅 | 77.5〜78.5インチ(1968.5〜1993.9mm) |
タイヤ | ファイアストン・ファイアホーク 前:635〜660mm×284mm(直径×幅) 後:673〜699mm×381mm(直径×幅) |