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NEWS HPD インディカー エンジン プロジェクト LPLマーク・クロフォード(Mark Crawford) インタビュー

2014年4月15日(火)

HPD インディカー エンジン プロジェクト LPL
マーク・クロフォード(Mark Crawford) インタビュー

―2014年シーズンからインディカーのルールによって、ツインターボエンジンの使用が義務づけられました。Hondaは昨シーズンまで使用していたシングルターボからツインターボへの設計変更を行うこととなりましたが、短期間での開発はいかがでしたか?

「ツインターボエンジンの開発は順調に進んできています。昨シーズン中に早めに開発を開始したことが功を奏していると思います。また、私たちにはほかのカテゴリーのエンジンでツインターボの経験がありましたから、それらを当然投入しました」

―ターボがひとつ増えることの難しさはどこにありますか?

「2つのターボ、それに付随する配管など、エンジン周りのコンポーネントをどのように配置するかで苦労しました。シングルターボ方式での配置に関しては満足していたのですが、ツインターボとなってターボがひとつ増えることから、シャシー内の限られたスペースで、吸排気のシステムまでを含めて、全く新しい配置をしなくてはなりませんでした。これはとても大きな設計プロジェクトでした」

―実走行を始めてからは、開発がスムーズにいきましたか?

「ターボの位置や配管が決まってからは、エンジンの開発を着々と進めることができています。走行を始めてからもエンジンの信頼性は大変高く、さまざまな面での性能アップに集中して開発を進めることができています。ドライバーたちも新しいツインターボエンジンの習熟を、どんどん進めることができていると感じています」

―オフの間のテストでは、どんなところに苦労があったのでしょうか?

「開発中のエンジンでは、さまざまなパーツで、次々に新しいデザインが採用されますから、パーツのストックにはおのずと限りがあります。所有しているパーツを有効に使うためには、入念な計画を立てなくてはなりません。また、Hondaには多くのエンジンユーザーがいますから、全チームにテストのチャンスが公平に与えられる必要もあります。そして同時に、新しいエンジンの開発が滞りなく、スピーディーに進まなくてはなりません。この点はユーザーであるチームに深く理解してもらい、彼らとのコミュニケーションを常に親密に保って、テストによっては最新スペックではないエンジンで走ることも了承してもらいました。昨シーズンのシングルターボエンジンを使ってもらったときもあります。そうした努力が実り、我々もチームも、今年のオフシーズンの間に必要としていたテストをこなすことができました」

―インディカー・シリーズにエンジン競争が復活して3シーズン目になります。ライバルは現在1メーカーだけですが、彼らは過去2シーズンにわたってツインターボエンジンで戦っており、開発はそのまま継続的に行うだけでよい状況です。一方で、Hondaはシングルからツインへと過給システムを変更するという、技術的に極めて大きな方針変更を行いました。ツインターボで戦う初年度となる2014年シーズン、Hondaは不利になるのではないでしょうか?

「ターボを含めたコンポーネントの配置がパフォーマンスに及ぼす影響は、とても大きなものです。我々にとって、インディカー用エンジンでのツインターボは新しいチャレンジで、ライバル陣営は2シーズンの実戦経験を持っています。彼らはツインターボエンジンをシャシーに搭載して走行したデータや、レースを戦ったデータを積み重ねています。信頼性や温度管理などに対して、彼らが我々にはない経験を有しているのは事実です。しかし、私たちがシングルターボで積み重ねてきた技術は本当に価値のあるもので、それらは当然ツインターボエンジンにも活用可能です。最初にコースを走り出したときから、私たちは自分たちのツインターボエンジンに大きな自信を持つことができました。そして、そこから性能を着実に向上させています。これからレースが始まれば、私たちはさらに多くを学び取っていくことになるでしょう。現実として、不利は確かに存在すると考えていますが、実戦でなにが起こるのか、不明な点も多いと思います。テストで経験してこなかった事態に直面することだって考えられます。プレシーズンテストでの私たちはとても順調ですから、注意深さを忘れることなく、前進を続けるだけです。私たちのツインターボエンジンの設計はいいという感触を得ています。コース上でのパフォーマンスも上々です。私たちのツインターボエンジンはまだ1シーズンをフルに戦った経験を備えていませんから、どこかのサーキットで、経験したことのない温度などの条件で走ることが出てくるかもしれません。そうしたときに、どんなパフォーマンスを発揮できるか、それが重要だと思います」

―シングルからツインへの設計変更では、エンジン内部にも大きな設計変更が必要でしたか?

「両エンジンの内部デザインには、小さな差しかありません。ほとんど変更をしていないと言っていいと思います」

―今シーズンに向けてのレギュレーションでは、1基のエンジンで走行すべき距離がまた大きく伸ばされましたね?

「はい。昨シーズンまでは2000マイルでしたが、今シーズンは2500マイルになりました。一気に、25パーセントも長く走らなくてはならないルールに変わりました。昨年は1シーズンを5基のエンジンで戦いきらなければなりませんでしたが、今年はそれが4基に減りました。そして、今回のオープンテストで各チームが使用しているのが、今シーズン用の4基のうちの1基です」

―信頼性、耐久性が本当に重要になっている。そうした条件下で過給方式をシングルからツインへと変更するというのは大きなチャレンジでしたね?

「そうですね。このオフにはより多くの課題をこなさなくてはなりませんでした。しかし、インディカーのレギュレーションが変わったのですから、それに合わせた変更を行わねばならないのは当然でした」

―その2014年用エンジンですが、どのようなテーマを掲げて設計したのでしょうか?

「インディアナポリス500マイルレース、いわゆるインディ500でのパフォーマンスを最重視しています。インディ500は私たちがナンバーワンと考えるレースですから、エンジン設計における決断を下す場合には、インディ500での競争力にどのような影響があるかが必ず検討されます。新しいアイディアやデザインの採用時には、インディ500で有効なパワーを発揮するか、インディ500を戦えるだけの耐久性が確保できるかが問われるのです。もちろん、インディ500以外のレースについても考慮します。インディ500を含めた18レースで2014年シーズンが構成されるのですからね。それらのレースに向けたエンジン開発は当然行われますが、私たちはなにをするのにも、必ずそれらがインディ500に対してプラスをもたらすかどうかを重視するのです。例えば、インディ以外の17レースのどれかで大きなメリットが得られるアイディアがあるとして、それがインディ500でのパワーロスなど、競争力低下に繋がるとしたら、必要のないアイディアと見なします。すべてがインディ500でのパフォーマンス向上に繋がっていなくてはならないのです」

―インディ500でエンジンに求められる最も重要な要素はピークパワーですか?

「そうです。マシンのスピードは、エンジンパワーに最も影響を受けますから、私たちは常にピークパワーを少しでも高くすることを考えています」

―燃費の重要性はどうでしょうか?

「現代のインディカーでは燃費が大変に重要です。過去2年間のインディ500で、私たちのエンジンは燃費で優位にありました。昨シーズンにポコノで行われた400マイル・レースでは、燃費のアドバンテージによって勝利をつかみました。私たちのエンジンはパワーが十分にあり、燃費でライバル勢を大きく上回っていたんです。今シーズンのインディ500に向けても、私たちは引き続き燃費における優位を保ち、パワーでのアドバンテージを得ることを目指しています」

―シングルターボからツインターボに設計変更をしたことで、燃費の優位を失くしてしまう可能性はないのですか?

「燃費をよくしたり、パワーを引き出したり、という開発は過給方式の違いによって大きく変わるものではありません」

―では、最後に今シーズンの目標を教えてください。

「今シーズンも一番の目標は、もちろんインディ500での優勝です。昨年以上に多くのレースに優勝したいとも考えています。また、Hondaエンジンを使う全員が勝利を手にできることを願っています。そのために、私たちのエンジンがライバルに対して優位に立てるものになるよう、全力を尽くします。走行するすべてのセッション、プラクティスや予選、そしてレースで相手をリードできたらいいですね。そのほかにも、ドライバーチャンピオンシップの防衛、マニュファクチャラーチャンピオンシップの獲得も目標です。私たちのドライバー、そしてチームのラインナップは本当にすばらしく、これらの目標を一緒に達成してくれるものと確信しています」