2020年11月11日(水)

パンデミックとモータースポーツ

パンデミックとモータースポーツ

新型コロナウイルスによる被害を大きく受けているアメリカですが、自動車レースは選手同士のコンタクトがないスポーツであることから、他のメジャースポーツと比べるとかなり早い時期にシーズン再開、あるいはシーズン開幕がなされました。

アメリカで国家非常事態宣言がなされたのは3月13日で、インディカー・シリーズはその週末の開幕戦が急きょキャンセルとなりました。しかし約3カ月後の6月6日、テキサス州でシーズン最初のレース開催に漕ぎ着けました。これより前に無観客でシーズン再開を果たしたストックカーが、移動を陸路に限り、予選も行わずにレースだけを行ったのに対し、インディカー・シリーズは最初のレースから飛行機を使って遠征し、予選と決勝を1日のスケジュールの中で開催しました。

佐藤琢磨

佐藤琢磨

インディカー・シリーズではサーキットの入り口で毎日、検温と健康状態に関する問診が行われ、サーキット内ではマスクの常時着用が義務づけられました。手洗いを励行し、ソーシャルディスタンスの確保も徹底しました。これら厳重な衛生管理体制を敷いての運営が功を奏し、インディカー・シリーズではクラスターが発生することもなく、10月末に全14戦の2020年シーズンを終えました。

チームも主催者も内部でクラスターを発生させないよう慎重に行動し、遠征する人員数には制限がかけられました。メディアは現場での取材可能な人数を最小限に限定され、カメラマンはチームやスタッフと同様に事前の健康チェックが義務づけられました。パドックとピットにはシリーズ主催者が許可した関係者と、TV局のスタッフ、限られた数のカメラマンたちだけが入場を許され、多くのカメラマンとレポーターは立ち入り禁止。レポーターたちに許可されたのは、インターネット利用のリモート方式によるインタビューだけでした。

グラハム・レイホール

グラハム・レイホール

移動に関しても、9月に開催予定だった西海岸のレース2戦が感染拡大によりキャンセルされたことで、チームやスタッフが飛行機で大量に移動するレースは開幕戦のテキサス、最終戦のセント・ピーターズバーグの2イベントだけとなりました。

ファンのレース観戦は7月11、12日のウィスコンシン州でのレースで解禁されました。ソーシャルディスタンスの取りやすい広大なロードコースであることから、サーキット内でのキャンプも認められました。ストックカーはその翌週、7月16日のレースからスタンドをファンに限定的ながら開放しました。

ウィスコンシン州で行われたシーズン第3戦久々にファンの姿がみえるレースとなった

ウィスコンシン州で行われたシーズン第3戦
久々にファンの姿がみえるレースとなった

どのレースシリーズも、イベント開催予定地の感染状況を継続的に注視し、当地の自治体とのコミュニケーションを密にとることで、安全にレースを開催するよう最善を尽くしました。一度発表されたスケジュールが、さらに変更されることもありました。

1911年に始まった世界で最も長い歴史を誇るレースであるインディアナポリス500は、恒例の5月末の開催とはならず、8月下旬に延期されました。100年を越す歴史の中で、8月のインディ500開催は初めてのことです。

無観客の中で大激戦が繰り広げられた2020年のインディアナポリス500

無観客の中で大激戦が繰り広げられた
2020年のインディアナポリス500

決勝日に30万人以上の観客を集める伝統的なビッグイベントですが、今年は3カ月遅れの日程としてもインディアナ州のウイルス感染が収束しきらなかったため、入場者数を収容人員数の半分、さらには4分の1に減らしての開催が検討されましたが、プラクティスから決勝レースまで全日程でファンを観客席に入れないことが決まりました。

ファンと地域の安全のために、第104回目の開催でインディ500は初めて無観客レースとされました。その特別なレースは歴史に残るエキサイティングなバトルとなり、佐藤琢磨(Rahal Letterman Lanigan Racing)が劇的な逆転優勝を飾りました。佐藤にとっては2017年に続く2回目のインディ500制覇です。

佐藤琢磨

2020年には17レースが開催される予定だったインディカー・シリーズですが、開幕は3カ月遅れました。地域によってはウイルス感染がなかなか収まらなかったことから、スケジュールを何度か調整。8つのコースを使い、5イベントをダブルヘッダーとすることで14レースのスケジュールを確保しました。インディ500以降のレースは、再びコースサイドに観客を迎え入れての開催。開幕戦として行われる予定だったフロリダ州セント・ピーターズバーグのストリートレースは、1日最大2万人までの入場が地元の自治体に認められ、シーズン最終戦として賑やかに開催されました。

スコット・ディクソン

スコット・ディクソン

活気を取り戻したレースは好天にも恵まれ、ストリートならではのエキサイティングな戦いとなり、Hondaエンジンを使うスコット・ディクソン(Chip Ganassi Racing) がシリーズチャンピオンに輝きました。

これはディクソンにとって自身6度目のチャンピオン獲得という快挙です。そしてHondaは3年連続でのマニュファクチャラー・タイトルを獲得しました。マニュファクチャラー・タイトル、ドライバー・タイトル、インディ500優勝の三冠制覇をHondaが達成するのは2005年以来のこととなりました。

スコット・ディクソン
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