2016年のインディカー・シリーズにおいて、唯一アメリカ国外で開催されるレースであるカナダでのHondaインディ・トロントは、今年で30周年を迎えました。ダウンタウンからほど近いオンタリオ湖沿いのエキジビジョンプレイスで行われた3日間のイベントは例年以上の大盛況で、地元ドライバーのジェームズ・ヒンチクリフ(Schmidt Peterson Motorsports)の大活躍により、大いに盛り上がりました。


レース決勝日は好天に恵まれ、全長1.786マイルのコースには朝からとても多くの熱烈なインディカーファンが集まっていました。心地よい夏の一日のストリートで繰り広げられる激しいバトルを彼らは堪能することになりました。85周で争われるレースは、少しレイアウトが変更されたコースで行われましたが、どのタイミングでピットストップを行い、どのポジションを走るかが結果に大きな影響を与える戦いとなりました。
新しいコースレイアウトはドライバーたちに昨年までとは異なるテクニックやマシンセッティングを要求し、レースをとても興味深いものとしていました。そして、折り返し点を越えて少し経った58周目に起きたアクシデントが、とても重要なキーポイントになりました。
このタイミングでピットに入っていた、あるいはその少し前にピット作業を終えていたドライバーたちに展開は大きく味方しました。予選6番手だったヒンチクリフは、完全ではないマシンのハンドリングに手を焼きながらも序盤から上位にポジションを保ち続け、アクシデントが起こる3周前にピットで給油とタイヤ交換を行っていました。この作戦が見事に功を奏し、ヒンチクリフはレース再開時には3番手までポジションを上げることに成功しました。
その後もバトルは凄まじく、62周目にリスタートが切られてからのヒンチクリフは、トニー・カナーン(Chip Ganassi Racing Teams)やエリオ・カストロネベス(Team Penske)といったベテランたちとポジション争いを展開。順位の入れ替わりがあった末、ゴール前ラスト1周で切られた最後のリスタートでもミス無くポジションを守り通して母国カナダ、しかも地元トロントでのレースで初めての表彰台に上りました。トロント出身ドライバーの大活躍にファンは熱狂し、大歓声を送っていました。ヒンチクリフにとっては、今回が今シーズン2度目の表彰台フィニッシュです。5月のグランプリオブインディアナポリスで彼は3位フィニッシュを達成しています。


佐藤琢磨(A.J. Foyt Racing)もヒンチクリフとほぼ同じ作戦を採用して大きくポジションアップすることに成功しました。走行初日の金曜日には順調にマシンセッティングを進めていましたが、土曜日になってバランスが狂い始め、予選は出場22台中の20番手と厳しいグリッドとなっていました。しかし、決勝日の朝のプラクティス・ファイナルでマシンを大きく向上させ、レースでは安定して速いペースを保ち、チャンスを待っていました。レースが終盤に入ってから4番手まで順位を上げることに成功した佐藤は、1台にパスは許しましたが、ロングビーチで記録したシーズン自己ベストに並ぶ5位でゴールしました。
彼のチームメートであるジャック・ホークスワースもシーズンベストとなるフィニッシュが実現可能な走りをみせていましたが、ゴールを目前にシモン・パジェノー(Team Penske)にターン5で追突されて壁にヒット。レースを終えることとなりました。予選10番手だったミハイル・アレシン(Schmidt Peterson Motorsports)も奮闘、佐藤との激しいバトルを戦って6位でゴールしました。
インディカーシリーズの次戦は7月31日にHondaの中西部のホームレース、Hondaインディ200の決勝がオハイオ州コロンバス郊外のミッドオハイオ・スポーツカー・コースで開催されます。
| 順位 | No. | ドライバー | エンジン | 周回数 | タイム/差 | 
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 12 | W.パワー | シボレー | 85 | 1:42'38.6925 | 
| 2 | 3 | H.カストロネベス | シボレー | 85 | +1.5275 | 
| 3 | 5 | ジェームズ・ヒンチクリフ |  | 85 | +2.5303 | 
| 4 | 10 | T.カナーン | シボレー | 85 | +3.7758 | 
| 5 | 14 | 佐藤琢磨 |  | 85 | +4.0568 | 
| 6 | 7 | ミハイル・アレシン |  | 85 | +5.1145 | 
| 7 | 11 | S.ブルデー | シボレー | 85 | +5.6393 | 
| 8 | 9 | S.ディクソン | シボレー | 85 | +6.1020 | 
| 9 | 22 | S.パジェノー | シボレー | 85 | +6.6355 | 
| 10 | 27 | マルコ・アンドレッティ |  | 85 | +6.9746 | 
| 12 | 28 | ライアン・ハンターレイ |  | 85 | +8.0690 | 
| 13 | 15 | グレアム・レイホール |  | 85 | +8.5989 | 
| 14 | 19 | ルカ・フィリッピ |  | 85 | +8.9217 | 
| 15 | 18 | コナー・デイリー |  | 85 | +9.4068 | 
| 16 | 98 | アレクサンダー・ロッシ |  | 85 | +9.6896 | 
| 17 | 26 | カルロス・ムニョス |  | 85 | +10.0568 | 
| 21 | 41 | ジャック・ホークスワース |  | 80 | +5Laps | 
| 順位 | No. | ドライバー | エンジン | 総合ポイント | |
|---|---|---|---|---|---|
| - | 1 | 22 | S.パジェノー | シボレー | 432 | 
| ▲ | 2 | 12 | W.パワー | シボレー | 385 | 
| ▲ | 3 | 3 | H.カストロネベス | シボレー | 358 | 
| - | 4 | 9 | S.ディクソン | シボレー | 349 | 
| ▼ | 5 | 21 | J.ニューガーデン | シボレー | 344 | 
| - | 6 | 10 | T.カナーン | シボレー | 339 | 
| - | 7 | 98 | アレクサンダー・ロッシ |  | 300 | 
| ▲ | 8 | 5 | ジェームズ・ヒンチクリフ |  | 299 | 
| ▲ | 9 | 83 | C.キンボール | シボレー | 294 | 
| ▼ | 10 | 26 | カルロス・ムニョス |  | 293 | 
| ▼ | 11 | 15 | グレアム・レイホール |  | 292 | 
| ▲ | 12 | 28 | ライアン・ハンターレイ |  | 282 | 
| - | 15 | 14 | 佐藤琢磨 |  | 235 | 
| ▲ | 16 | 7 | ミハイル・アレシン |  | 227 | 
| ▼ | 17 | 27 | マルコ・アンドレッティ |  | 220 | 
| - | 18 | 18 | コナー・デイリー |  | 211 | 
| - | 20 | 41 | ジャック・ホークスワース |  | 153 | 
| ▼ | 22 | 19 | ギャビー・シャヴェス |  | 105 | 
| - | 24 | 77 | オリオール・セルビア |  | 72 | 
| ▲ | 25 | 19 | ルカ・フィリッピ |  | 61 | 
| ▼ | 26 | 29 | タウンゼント・ベル |  | 55 | 
| - | 29 | 35 | アレックス・タグリアーニ |  | 35 | 
| - | 30 | 63 | ピッパ・マン |  | 33 | 
| - | 32 | 88 | ブライアン・クロウソン |  | 21 | 





 トロント 決勝
  
トロント 決勝
 
ジェームズ・ヒンチクリフ(3位)
「ご覧の通り、すごい結果になりました。ついにトロントで幸運も味方につけましたね。私たちのマシンは、硬いコンパウンドのブラックタイヤ装着時のセッティングが最高レベルまでは仕上がっていませんでした。しかし、ソフトコンパウンドのレッド装着では非常に速く走ることができました。序盤はマシン同士の接触もある激しいファイトが続いていましたが、私はどうにかポジションをキープしました。ところが、ピットストップでブラックタイヤに交換すると、レース中に路面温度が上昇したこともあってか、非常にドライビングの難しいマシンになってしまいました。しかし、レース終盤は雲が出たことで路面の温度が下がり、路面コンディションの方が私たちの好むものに変わってくれました。終盤のピットタイミングがよく、ゴール前にイエローが出たこともプラスに働きました。これまで5度もトロントでは不運に見舞われてきたのですから、今日の幸運は喜んで受け入れることにします。ピットクルーたちも本当にがんばってくれました。彼らのすばやい作業によってポジションをいくつかゲインすることができ、それが私の地元のレースでの表彰台につながったのです。とてもうれしいことです。自分の人生の中でも最高の一日になりました。今晩はヒンチタウンで大パーティです」
佐藤琢磨(5位)
「厳しい状況にあった私たち14号車の週末でしたが、レースではすばらしい結果を手にすることができました。予選は20番手で後方から追い上げるレースとなりましたが、ラリー・フォイトとチームのエンジニアたちが的確な作戦を考え、クルーたちはスピーディーな作業でマシンをコースに戻し続けてくれました。マシンもハンドリングも土曜日までとは大きく違い、速いラップタイムを安定して刻み続けることのできる状態になっていました。本当にファンタスティックなレースを戦えたと感じています。コース上で何台かのマシンをパスすることができましたし、燃費セーブも行いながら、目標とする数字を実現しながら、ライバルたちと戦うこともできていました。最後に出たイエローに助けられた面もありましたが、今日のような激しいレースを戦い抜くことができたのは、チーム全員の力があってのことです。チームを大きな誇りと感じています」