今回は、ハイグリップ及びレーシングタイヤの特徴についてと、ライディング上達のポイントについてお話します。ご存知のとおり、2輪車も4輪車も路面に接地しているのはタイヤだけです。『止まる』、『曲がる』、『走る』のすべてを路面に伝えているタイヤは大変重要な役割を担っており、ラップタイムに大きく影響しています。
CBR250Rドリームカップはワンメイクタイヤで使用タイヤが限定されますが、タイヤの特性を知り、上手に管理するように心掛けてください。また、ライディングについては個々に適正のスタイルが違いますので、注意点や日ごろの走行で心掛けるポイントについてアドバイスします。
ハイグリップ及びレーシングタイヤの特徴タイヤ性能はタイヤ温度に大きく影響し、低温領域ではグリップ性能が低下、高温領域では耐久性能劣化及びタイヤブローなどのトラブルが発生します。
CBR250Rドリームカップでは動力性能及びレースの性格上、高温領域の問題発生は皆無と思いますので、低温領域をできるだけ使わず、適正温度で走行できるように心掛けましょう。
それでは、タイヤはどのように発熱するのでしょうか。左上のグラフを参照してください。タイヤのゴムは、荷重を加えることで変形し、荷重を抜くことで元に戻ります。スプリングも同じく変形し元に戻りますが、スプリングの場合は変形と戻りが同じ状態です。それに対して、ゴムは変形と戻りにズレが発生し、これをヒステリシスロスと言います。このヒステリシスロスが少ないゴムは発熱しにくく、大きいゴムが発熱しやすくなります。
■ゴムの発熱
走行のときのタイヤゴムに発生するヒステリシスロスは、路面に接地したときの荷重で変形し、路面から離れたときの開放で発熱します。タイヤの発熱は、タイヤの回転で繰り返されるヒステリシスロスで、車速(スピード)が速い領域で発生します。
また、ゴムの発熱にはタイヤのスリップによる摩擦熱があります。ヒステリシスロスによる発熱の違いは次のようになります。
@摩擦熱は表面温度が上昇するが、内部温度は上昇しない。
Aヒステリシスロスはゴム全体で発熱するため、内部温度も上昇する。
以上のことからレースでのウオームアップ走行は、ストレート区間でできるだけスピードを意識して走行するように心掛けましょう。ただし、コーナースピード及び他車との間隔には十分注意しましょう。
■タイヤウオーマー
走行前などにタイヤウオーマーを使用し暖めている光景は、走行するほぼすべてのライダーが行なっているように見受けますが、実際にタイヤ温度を管理しているライダーは残念ながら皆無に近い状況です。接触型温度計などの特殊な計測器が必要で、費用負担にもなります。注意点は、タイヤ表面に素手で触れて確認するライダーが多いですが、ホイールの温まりを確認するようにしてください。
短時間では、タイヤ表面の温度が上昇していますが、走行することで路面に温度が吸収され急激に低下してしまいます。十分に温まった(ホイールまで熱が伝わった)状態から走行することで、タイヤ温度を維持できます。
■タイヤの空気圧
連載2回目に、タイヤの空気圧調整で下記のような特性が得られることをお話しました。
◆空気圧を下げる方向(基準空気圧から20kpaが目安):テクニカルなコースレイアウトで低速サーキット
旋回加重が低く、ブレーキ制動力が必要な場合に有効です。また、体重の軽いライダーにも適します。
◆空気圧を上げる方向(基準空気圧から20kpaが目安):ストレートスピードが重視される高速サーキット
トップスピードには、タイヤの転がり抵抗が大きく影響します。少しでも転がり抵抗を減らすために、空気圧を上げることが有効になります。ただし、ブレーキの制動力やタイヤの吸収性悪化を招くおそれがあるので注意しましょう。
注意点:タイヤの空気圧は温度により変化します。必ず常温で調整し、ウオーマーなどで温めてください。間違っても、ウオーマーやサーキット走行で温まった状態を基準としないこと。また、エアーゲージ(圧力計)の精度も重要になりますので、定期的に確認してください。確認方法は、サーキットのダンロップタイヤサービスにマスターゲージが常備されています。
■エアーゲージマスター常備施設
鈴鹿サーキット、ツインリンクもてぎ、スポーツランドSUGO、岡山国際サーキット、筑波サーキット、オートポリス(※現在ドリームカップは開催されていません)の以上5施設(※+1施設)。
ライディングについてライディングテクニックに関する書物は多く出版されていますので、個々で参考にしていただければと思います。ここでは、体重移動や走行ラインなどの細かなアドバイスではなく、練習走行やレースで常に意識していただきたい内容をお話します。
■情報収集
人間の感覚は@視覚、A触覚、B聴覚、C嗅覚、D味覚の五つで多種多様な情報を得ています。
◆視覚:一般走行も含め、サーキット走行に大変重要です。スピードコントロール、ブレーキングやクリッピングの各ポイント確認には、目から入る情報が必要です。
◆触覚:スロットルやレバー類、ペダル類の操作系をコントロールすることや、車体のホールド、バランスをコントロールするには体に触れる部分の情報が必要です。
◆聴覚:競り合いなどでの他車の接近が、排気音などにより情報になります。また、エンジンの異常も異音などで確認できます。
◆嗅覚:関連は薄いですが、高温などでの異臭の情報で異常を発見できます。
◆味覚:特に不要ですが、表彰でのシャンパンを味わうのは味覚です。
この感覚で最重要視したいのは『視覚』と考えてください。視線は操縦する車両の進路方向になります。映像や自身で経験されたことがあるかもしれませんが、前方の車両がコースアウトしたり、転倒で滑っている方向に後続車が引っ張られる形で巻き込まれるアクシデントがあります。この多くの原因は、コースアウトの車両または転倒車両を直視してしまうことで、回避操作ができなくなってしまうからです(直前でのアクシデントで避け切れない場合を除く)。
ライダーの視線は、『コーナー入口でクリッピングポイント』、『クリッピングポイントではコーナー出口』へ視線を移動させていきます。例えば、『先行車両に着いて走行しているときはラップタイムも安定して走れるが、単独走行ではタイムもバラツキ、安定して走れない』場合は、視線移動ができていないことが考えられます。先行車両は常に移動していますので、視線も自然に移動します。単独走行では動く目標がなくなることで、視線移動がうまくできないからです。
視線移動とはフロントの車載映像をイメージしてください。ただし、実際の走行ではさらに先の目標になりますが、常に視線を移動させるイメージは作れます。
また、近年の世界グランプリではMoto3、Moto2、MotoGPの各クラスで接戦が繰り広げられ、接触や接触寸前でのパスシーンが頻繁に見られます。見ている側にはおもしろく手に汗握るシーンですが、走る側から見ると「狭いインに何で入れるの?」、「何でコースアウトしないの?」と、感心させられるシーンでもあります。これには、高いライディングテクニックに裏付けられた技量も必要ですが、走行ラインの先をイメージできる視線が不可欠です。仮に、競り合っているライダー、車両に視線が移った場合はこの走りはできません。皆さんも、練習走行やレースのときに自身の視線を意識しながら走行してください。大きな変化が生まれるかもしれません。
次回は『ブレーキ編』と鈴鹿サーキット、ツインリンクもてぎのファイナルレシオなどをお話します。