CBR250R セッティング解説

第3回
エンジンの基本知識

第3回はエンジンの基本的知識についてお話します。今回お話する内容は、決して改造やチューニングを推奨するものではありません。サーキット走行やレースでのエンジン好不調の要因推測や改善方法にお役立ていただければ幸いです。

●エンジン出力とは?
現在は新計量法のSI単位が導入されKW表示となっています。個人的には馬力PS表示に慣れ親しんでいますので、今ひとつイメージできません。皆さんもご存知のとおり、出力はトルク×回転数で求められます。

●トルクとは?
トルクは、燃焼で得られた回転エネルギーの質量で瞬発力と理解してください。

●出力とは?
燃焼で得られたトルクを繰り返し(回転)物体を移動させる持久力と理解してください。

CBR250Rは単気筒エンジンで、通称トルク型エンジンに属しますので、トルクに関連する内容でお話します。トルクは瞬発力ですので高いトルクを得るためには下記の表をご参照ください。CBR250Rドリームカップは、エンジンの改造は認められていませんが、表の関連項目を管理、調整することでエンジン出力を維持し安定した性能を発揮することができます。個人で管理、調整ができない場合は、お近くのHRCサービスショップに相談してください。

CBR250Rのエンジンのカットモデル。エンジン出力を維持し、安定した性能を発揮させるためには、エンジンのメンテナンスが必要となる

関連項目 >>> バルブタイミングとリフト量
関連部品 >>> タペットシム

■管理内容:
IN/EXバルブのタペットクリアランス調整。INバルブ:0.16mm ±0.03/EXバルブ:0.27mm ±0.03。EXバルブ は熱膨張が多いため総じてクリアランスがINバルブより大きくなります。

■効果と予想不具合:
タペットクリアランスが規定値を外れた場合、−方向:バルブを突上げ圧縮漏れが発生します。+方向:バ ルブ開角及びリフト量が減少。適正なクリアランスを管理することでバルブタイミングとリフト量が確保できます。

関連項目 >>> バルブシート面の気密
関連部品 >>> シリンダーヘッド・IN/EXバルブ

■管理内容:
燃焼カーボンや微小な異物などでバルブシート面から圧縮漏れが発生します。検査方法は、光明丹(専用品)や圧力 検査で特殊な作業となります。圧縮漏れが確認された場合は、コンパウンド(研磨剤)でバルブの擦り合わせ、バルブシートカッ ターでの修正が必要になります。

■効果と予想不具合:
圧縮漏れは、エンジンの爆発エネルギーを減少させてしまいます。吸入された混合燃料を無駄なく圧縮する ことで適正な爆発力を得ることができます。

関連項目 >>> ピストンリングの気密
関連部品 >>> TOPリング・2NDリング・OILリング

■管理内容:
各リングは走行する際の摺動及び熱の影響で磨耗、張力変化が発生しますので合口隙間(クリアランス)管理しま す。TOPリング:0.46mm以下/2NDリング:0.70mm以下/OILリング :1.10mm以下。上記数値を超えた場合は交換すること。 組付時は、各リングの合口を120°ずらし、OILリングのスペーサー・サイドリングも20mmずらしてセットします。

■効果と予想不具合:
圧縮漏れは、エンジンの爆発エネルギーを減少させてしまいます。吸入された混合燃料を無駄なく圧縮する ことで適正な爆発力を得ることができます。又、ピストン及びリングの圧縮漏れはシリンダーケース内の圧力が上昇しケースブリー ザーからOILが吐出する場合があります。

関連項目 >>> シリンダー及びシリンダーヘッドの気密
関連部品 >>> シリンダー・シリンダーヘッド

■管理内容:
シリンダー及びシリンダーヘッドもエンジンの発熱で熱ひずみが発生するのでガスケット面の平坦度を管理します。 シリンダーガスケット面:0.05mm以下/ヘッドガスケット面:0.05mm以下。特に燃焼室周辺のひずみをチェックすること。

■効果と予想不具合:
圧縮漏れは、エンジンの爆発エネルギーを減少させてしまいます。吸入された混合燃料を無駄なく圧縮する ことで適正な爆発力を得ることができます。また、ガスケット面の圧縮漏れはシリンダーケース内の圧力が上昇しケースブリーザー からOILの吐出や水温の異常上昇が発生する場合があります。

関連項目 >>> 点火時期
関連部品 >>> ECU

■管理内容:
エンジンコントロールユニット(ECU)は、ベースのマップで十分走行可能ですが、排気系のサイレンサーの違い やライダーの好みによっては細かな調整が必要ですので、別売りのFIセッテイングツールで調整しましょう。

■効果と予想不具合:
前回お話した空燃比を気象条件に合わせ細部の調整をすることでエンジン性能を発揮することができます。 FIセッテイングツール:38772-NX7-020

関連項目 >>> 点火プラグ
関連部品 >>> プラグ

■管理内容:
プラグの重要管理項目は中心電極と外側電極の火花ギャップです。火花ギャップ:0.8mm ±0.1が目安。中心、外側 電極の磨耗で火花ギャップが1.0mm以上の場合は交換する。

■効果と予想不具合:
火花ギャップが不適正の場合、ENG始動不良や高回転でのエンジン不調及びスロットル急開時の出力レス ポンスが悪化します。取り扱いで特に注意することは、プラグを落としたり、ぶつけたりして外側電極が曲がって火花ギャップが 変化することです。取り扱いは十分に注意すること。

エンジンのフリクション(ロス出力)について

トルクと回転数で得られた出力KWがカウンターシャフトを回し駆動力を後輪タイヤに伝達することで前進します。いかに高い出力を得ても後輪タイヤに「効率よく伝達」されなければ速く走ることができません、この「効率よく伝達」にエンジンのフリクションが大きく影響します。

CBR250Rドリームカップのレギュレーションでは、部品の軽量化や部品交換ができませんので、フリクション低減ではなく、フリクションを増加させないことに注意して下さい。

●フリクション増加の要因

@エンジンオイルの粘度
エンジンオイルの粘度は、一般的に10W -30、10W -40、10W -50と高い数値表示が高粘度オイルと理解してください。CBR250Rでは、ホンダ純正ウルトラG1 SAE10W -30が指定オイルです。

仮に10W -40や10W -50を使用した場合にはエンジンフリクションが増加します。また、オイル給油量がアッパーレベル以上になるとフリクションが増加しますので注意しましょう。

適正な粘度(SAE10W -30相当)で、できるだけ新しいオイルを使用し、給油量はレベルのセンターで管理するようにしてください。

Aドライブチェーン(エンジン部品ではありませんが重要ですので記載しました)
前回、雨天走行の注意点でもお話しました、ドライブチェーンの長期使用や潤滑油切れでの固着は後輪駆動のフリクションとなります。ベストは、レース前の練習走行から新品に交換し、初期伸び(初期的に遊び量が変化する)を確認し調整してからレースに使用することを推奨します。長期使用したチェーンでも専用オイル(潤滑油)を塗布することで一時的にフリクションが低減しますが、持続性は期待できませんので塗布しないよりよいレベルと理解してください。

次回は、車体のセッテイングなどについてお話します。