「モトクロスのオリンピック」と呼ばれ、毎年グランプリシーズンの最後に行われる国別対抗戦、「モトクロス・オブ・ネイションズ」が、イタリア・ミラノ近郊のマッジョーラで開催されました。同地は、1986年にモトクロス・デ・ナシオン(旧称)史上、1、2を争う名勝負が繰り広げられた伝説のコース。今回は30年ぶりの開催とあって、当時の勝者アメリカ代表のデビッド・ベイリー氏(Honda CR500R)、リック・ジョンソン氏(Honda CR250R)、ジョニー・オマラ氏(Honda CR125R)がゲストとして招かれました。
モトクロス・オブ・ネイションズは、各国を代表する3人チームで競われる団体戦。決勝のレース形式は、MXGP/MX2、MX2/オープン、オープン/MXGPというように2クラスずつ混走となる3レース制。1チームのべ6個のリザルトのうち、ワーストを除いた上位5個を有効ポイントにカウントし(1位=1点〜40位=40点)、トータルが少ない順に団体総合成績が決まります。
今回の日本代表に選ばれたのは、現在全日本IA1で総合首位の成田亮(MXGP)、同IA2で総合首位の能塚智寛(MX2)と、世界選手権で戦った山本鯨(オープン)の3人。オールHondaによる編成となりました。他国チームでは、MXGP世界チャンピオンのティム・ガイザー(スロベニア)が負傷により出場を見合わせましたが、HRCライダーのゴーティエ・ポーリン(フランス)、イブジェニー・バブリシェフ(ロシア)らは、それぞれ祖国の名誉をかけて参戦しました。
予選レースのグリッド選択順は抽選で決まります。近年は日本チームのクジ運が悪く、グリッドも苦戦の一因となっていましたが、今回の選択権は38ヶ国中2番目。クラスごとに競われる予選では、成田(MXGP)が9位、能塚(MX2)が16位、山本(オープン)が10位となり、団体総合11位で決勝進出を果たしました。
●決勝 レース 1(MXGP/MX2)
グレン・コルデンホフ(オランダ/KTM)、アントニオ・カイローリ(イタリア/KTM)、ケイブン・ベノワ(カナダ/KTM)らが上位を占める一方で、成田は14番手、能塚は30番手で1周目をクリア。
4周目にはカイローリがトップに。5周目にはスタート4番手から浮上してきたロマン・フェーブル(フランス/ヤマハ)がリーダーとなり、カイローリとの一騎打ちに。フェーブルはカイローリに4秒強の差をつけて優勝。3位にはケビン・ストリボス(ベルギー/スズキ)、4位にはクーパー・ウェブ(アメリカ/ヤマハ)が入りました。
成田は途中でコースアウトを喫し、一時は能塚の後方34番手まで後退しましたが、終盤に粘って29位。能塚は34位でフィニッシュしました。
●決勝 レース 2(MX2/Open)
予選総合11位だった日本チームの決勝グリッド順は、11番目と31(20+11)番目の2枠。チームの作戦にもよりますが、450ccマシンを駆る成田や山本を優先させるのがセオリーで、それに従うと、250ccの能塚は2レース続けて不利なグリッドからのスタートとなります。
このレースでは、山本が見せ場を作ります。ホールショットはジェイソン・アンダーソン(アメリカ/ハスクバーナ)に譲ったものの、山本が1コーナーで2番手につける好スタート。世界中から注目された山本でしたが、1周目にエンジンをストールさせてしまい、24番手まで後退。能塚はオープニングラップを37番手で終えます。
トップ争いはアンダーソンvsジェフリー・ハーリングス(オランダ/KTM)のバトルとなり、中盤までサイドバイサイドの白熱した戦いが続きました。しかし、ハーリングスの転倒によってそれに終止符が打たれ、アンダーソンがレースウイナーに。2位ハーリングスを挟んで、3位にはフランスチームのポーリンが入賞しました。
山本は29位、能塚は32位でチェッカー。2レースを消化した段階で、日本の暫定総合順位は18位(124点)。優勝は上位につけるアメリカ(23点)、フランス(28点)、スイス(36点)、オランダ(42点)によって争われることになりました。
●決勝 レース 3(Open/MXGP)
ハーリングスが序盤からトップに立ち、カイローリが追う展開。暫定首位に立つアメリカのウェブは5番手、5点ビハインドのフランスはフェーブルが9番手、ポーリンが11番手と出遅れます。まずまずのスタートを切った成田でしたが、1周目に転倒を喫してしまい、最後尾37番手まで後退。山本はオープニングラップで23番手につけました。
ハーリングスとカイローリのバトルに、地元イタリアのファンが熱狂する一方で、優勝トロフィーの行方は二転三転します。大詰めまで5番手につけていたアメリカのウェブが、ラスト2周で転倒したことで、オランダにチャンスが巡ってきましたが、ラスト1周にフェーブルが4位に浮上して逆転。
団体総合成績は、優勝フランス(29点=1+3+4+10+11)、2位オランダ(30点=1+2+6+7+14)、3位アメリカ(33点=1+4+9+9+10)で、日本は18位(145点=25+29+29+30+32)となりました。
成田亮(予選9番手・決勝29位/30位)
「まずは現地や日本から声援を送ってくれたファンの皆さんに、感謝の気持ちを表したいと思います。2番クジが当たったときは『これで予選に通った』と確信しましたが、レースはそんなに甘くありません。ただ走ってるだけでは嫌だったので攻めたのですが、攻めきれなかったですね。最後のレース3では、1周目で10番手ぐらいだったので、ちょっと攻めて無理矢理インにねじ込んだら、ハンドルを持っていかれて転倒。肩と指を痛めてしまい、マーシャルに助けてもらいました。予選の9位は『シングルフィニッシュだしすごい』と言ってくれる人もいますが、2人転んでいたので、実質は11位です。ベテランとして日本のレベルを上げる取り組みをしているつもりですが、なかなかうまくいきません。チーム総合18位は、昨年よりはベターですが、一昨年のラトビア大会の方が、ベテラン3人(成田/勝谷武史/熱田孝高)で意気投合していたし、2000年のフランス大会のときが一番燃えていました」
能塚智寛(予選16番手・決勝34位/32位)
「初めて出るネイションズでしたが、夏休みにスポット参戦したスイスGPの方がレベルは高かったと思います。今回のレース1では、身体は問題なかったのに、周りの雰囲気に飲まれて硬くなってしまったようです。自分の走りができなくて、終盤になってペースがつかめてきた感じでした。レース間はジャージだけ着替えて、ヘルメットが1個しかないので自分で洗ったり、水分補給したりして、すぐ集合というあわただしい感じでした。2レース連続はきついかと思ったのですが、レース1の疲れが出る前にレース2が始まり、興奮している状態で出たので、ヒート2の方が乗れていたと思います。身体もよく動いてたし、これは行けるなと思った途端にクラッシュしてしまいました。最初の大坂下りの先の右コーナー進入で、ギャップに跳ねられたんです。リカバーは早かったと思いますが、ハンドルとクラッチレバーが曲がってしまったので、それに対応した走りになりました。新人のホルヘ・プラード(スペイン/KTM)が前にいたときは、自分も高ぶっていい走りができたと思います」
山本鯨(予選10番手・決勝29位/25位)
「2年連続のネイションズ、今年はオールHondaでいいチームだったと思いますし、いい流れが2番クジという幸運につながったと思います。個人的には決勝で15〜20位に入りたかったので、リザルトには満足していません。レース2のスタートはほぼホールショットだったのですが、アンダーソンにタイヤ1本分負けました。ヒート3は気合を入れて臨んだのですが、ずっと21〜22番手くらいでなかなか上がれませんでした。終盤になって飛び石が眉間に当たり、衝撃で視界がぼやけてきたのですが、それがだんだん戻ってきた頃に出血がゴーグルの中に広がったので外しました。でも、イタリアの人や、日本から応援してくれた家族、スポンサーやファンの皆さんのおかげで走り切れました。今回は第二の地元イタリアでしたし、僕に対するイタリア人の声援は、日本チームの中でも一番だったと思うんです。だから、最高峰の大会なのに、特別なアウェイ感はなかった。ただし、個人戦と違って、チームのために走るのは緊張しましたね」
芹沢勝樹監督
「世界選手権にはエンジニアとして参戦してきましたが、今回はネイションズの日本代表監督に任命され、なんとか決勝進出という目標を達成しました。過去のデータを分析して、100ポイント以下に抑えれば10〜15位あたりが狙えると読んでいました。20位×5個がアベレージという計算ですね。結果的には18位でしたが、全員しっかり走ってくれました。予選は成田の先行と逃げ、山本の追い上げ、能塚も硬いながらも粘り、みんなすばらしかったです。決勝では11番グリッドだったので、予選のスタートを撮ったビデオで11番付近のライダーを観察すると、アウト寄りを結構うまく回っていたので、参考にしました。それにしても主要国は強かったですね。GPシーズンを通して見てきましたが、今年は特にレベルが高くなっているので、日本と実力の差が出た感じです。決勝のスタートはみんな悪くなかったのですが、他国のライダーが上手すぎた。それに尽きます。今後もチャンスがあれば、日本のモトクロス界のために尽力したいと思います」
順位 | No. | ライダー | マシン | 周回数 | タイム/差 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 1 | ロマン・フェーヴル | フランス | 17 | 34'41.712 |
2 | 40 | アントニオ・カイローリ | イタリア | 17 | +04.648 |
3 | 7 | ケビン・ストリボス | ベルギー | 17 | +19.429 |
4 | 4 | クーパー・ウェブ | アメリカ | 17 | +25.658 |
5 | 8 | ジェレミー・バン・ホービーク | ベルギー | 17 | +34.398 |
6 | 16 | グレン・コルデンホフ | オランダ | 17 | +37.475 |
29 | 58 | 成田亮 | 日本 | 16 | +1Lap |
34 | 59 | 能塚智寛 | 日本 | 16 | +1Lap |
順位 | No. | ライダー | マシン | 周回数 | タイム/差 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 6 | ジェイソン・アンダーソン | アメリカ | 17 | 34'59.493 |
2 | 18 | ジェフリー・ハーリングス | オランダ | 17 | +06.109 |
3 | 3 | ゴーティエ・ポーリン | フランス | 17 | +07.356 |
4 | 15 | アルノー・トヌス | スイス | 17 | +08.861 |
5 | 21 | ディーン・フェリス | オーストラリア | 17 | +09.890 |
6 | 54 | ショーン・シンプソン | イギリス | 17 | +10.765 |
29 | 60 | 山本鯨 | 日本 | 17 | +1'44.416 |
32 | 59 | 能塚智寛 | 日本 | 16 | +1Lap |
順位 | No. | ライダー | マシン | 周回数 | タイム/差 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 18 | ジェフェリー・ハーリングス | オランダ | 17 | 34'34.924 |
2 | 40 | アントニオ・カイローリ | イタリア | 17 | +07.624 |
3 | 7 | ケビン・ストリボス | ベルギー | 17 | +20.781 |
4 | 1 | ロマン・フェーヴル | フランス | 17 | +26.248 |
5 | 52 | トミー・サール | イギリス | 17 | +28.215 |
6 | 36 | イブジェニー・バブリシェフ | ロシア | 17 | +34.054 |
25 | 60 | 山本鯨 | 日本 | 16 | +1Lap |
30 | 58 | 成田亮 | 日本 | 16 | +1Lap |
順位 | 国 | No. | ライダー | レース1 | レース2 | レース3 | トータル |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | フランス | 1 | ロマン・フェーヴル | 1 | 4 | 29 | |
3 | ゴーティエ・ポーリン | 3 | 11 | ||||
2 | ブノワ・パトゥエル | 10 | |||||
2 | オランダ | 18 | ジェフリー・ハーリングス | 2 | 1 | 30 | |
16 | グレン・コルデンホフ | 6 | 7 | ||||
17 | ブライアン・ボジャーズ | 14 | |||||
3 | アメリカ | 6 | ジェイソン・アンダーソン | 1 | 33 | ||
4 | クーパー・ウェブ | 4 | 10 | ||||
5 | アレックス・マーティン | 9 | 9 | ||||
4 | ベルギー | 7 | ケビン・ストリボス | 3 | 3 | 36 | |
8 | ジェレミー・バン・ホービーク | 5 | 7 | ||||
9 | ブレント・ファン・ドニンク | 18 | |||||
5 | イタリア | 40 | アントニオ・カイローリ | 2 | 2 | 44 | |
42 | セルベーリン・ミケーレ | 12 | 13 | ||||
41 | サムエレ・ベルナルディーニ | 15 | |||||
6 | スイス | 15 | アルノー・トヌス | 4 | 8 | 44 | |
14 | イェレミー・シーワー | 11 | 8 | ||||
13 | バランタン・ギヨー | 13 | |||||
18 | 日本 | 60 | 山本鯨 | 29 | 25 | 145 | |
58 | 成田亮 | 29 | 30 | ||||
59 | 能塚智寛 | 32 |