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HFDPアドバイザー・鈴木亜久里が語る日本人ドライバーの挑戦と課題

F1ドライバー、チームオーナーとして世界を舞台に戦ってきたHFDPアドバイザーの鈴木亜久里が日本人ドライバーの現状について語ってくれました。

HFDPアドバイザー・鈴木亜久里が語る日本人ドライバーの挑戦と課題

――日本人ドライバーが将来的に世界で活躍するために、ヨーロッパで戦うことは不可欠なのでしょうか?

亜久里:
必ずしもそうとは限らない。その子がどう考えているかが、一番の問題だからね。登山と同じで、そこに世界で一番高い山があるんだったら、登るべきだと思えるかどうか。その子にとっては、富士山でいいんだったら、それはそれでいいわけじゃないですか。もちろん、世界一の山はF1だけに限らなくて、WECでもインディでもいい。人それぞれ好きなカテゴリーがあって、そこでその頂点を狙えばいい。それが日本になければ、世界に出て行けばいいと思う。そういう意味でも、Hondaに連れていってもらうんじゃなくて、なにがなんでも自分で登ってやるという強い気持ちの子を応援したいよね。

――一般論として、できるだけ早い段階、若い年齢から、海外でのレース経験を得た方がいいことは確かですか?

亜久里:
例えば、最終的にヨーロッパを選ぶならヨーロッパで早くからやった方がいいと思う。レースの仕方も、人間関係も、それから言葉も若いうちに覚えた方がいいからね。F4である程度フォーミュラカーに慣れたら、ヨーロッパF3とかフォーミュラ・ルノーとか、あるいはいきなりGP3でもいいわけで。とにかく日本人は日本のレースでちゃんと戦っていないから、ヨーロッパの人とレースで戦うクセをつけないと、ヨーロッパの戦いにはついていけないというのが現状で、それは大きな課題だよ。

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――最近の日本の若者は、世界に出たいという志向は強いですか?

亜久里:
どうだろう? HondaがF1に復帰したので、そういう気持ちになる子は増えると思うよ。でも本来は、そうじゃないと思う。Hondaが出ようが出まいが、『俺はF1に行きたいんだ!』っていう気持ちだよね、大事なのは。まずHondaありきの世界ではなく、Hondaやトヨタ、例えフェラーリがいなくても、F1という世界はあるわけで。そこに絶対に行きたいと思うのだったら、そのためにはどんな手段や可能性があるのかってことを、自分で考えて、ちゃんと作戦を立ててほしいと思う。

――そこが育成システムの難しいところの一つだと思います。どこまで面倒を見て、同時にどうやって主体性を持たせるかですね?

亜久里:
そうだね。例えば、メーカーに頼ってばかりだと、つい甘えてしまう。お金の集め方一つにしてもね。基本的に現状はメーカーがサポートしてくれるけど、それならば本来はもっといい成績を出さないといけない。それだけレースに集中できて、恵まれた位置からスタートできるわけだから。普通はお金集めから始めないといけないわけで、その分サポートがあるのだから、当然高いレベルの結果が求められるはずでしょう。

――その点では、今の若い子に歯がゆさを感じていますか?

亜久里:
歯がゆいってわけじゃない。この世界は純粋に、才能の問題だからね。いくらお金を集められても、コース上で遅ければ意味がない。逆にお金がなくても、すごい才能と速さがあれば乗れるわけだから。

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――そのすごい才能を見つけるのが、本当に大変なことなのですね?

亜久里:
そうですね。特に最初はレベルの高いチームじゃないから、そのすごい才能がなかなか発揮しきれない。その中で見つけるのは難しいよね。ただ日本の若い子はカートから見ているから、どの子がどういうレースをするか、大体分かります。例えば、(フェルナンド)アロンソだってミナルディ※1でデビューしたし、アイルトン・セナもトールマン※2からだったよね。やはりその才能を見いだす人も必要だと思います。

※1 ミナルディ…1985年〜2005年にF1へ参戦していたプライベートチーム。通算340戦に出走し、表彰台の獲得数は0回だが、フェルナンド・アロンソやマーク・ウェバー、ジャンカルロ・フィジケラといった、のちにトップレベルで活躍するドライバーが同チームからデビューを果たしている。また、かつては日本人ドライバーの片山右京や中野信治も所属していた。

※2トールマン…1981年〜85年にF1へ参戦していたプライベートチーム。通算57戦に出走し、表彰台登壇はアイルトン・セナによる3回。

――本人の才能はもちろん絶対に必要なわけですが、同じような才能に恵まれた2人の若手が、その後の伸び代に大きな違いが出ることはよくあります。それはなにが違うのでしょうか?

亜久里:
それも、やっぱり才能なんじゃないかな。努力する才能とかね。ただF1に来るレベルの子たちは、最後の本当に最後の段階でのわずかな差だからね。その中で普通のF1ドライバーなのか、一流なのか、超一流なのか。それは本当に、ほんのちょっとの違いだと思う。ほんのちょっとだけど、でもそこはいくら練習しても、努力しても、どうにもならない部分だよね。それが才能でしょう。

――日本人がF1で勝てないはずはないと思うのですが、今のところ3位表彰台が最高です。こちらはどのようにお考えでしょうか?

亜久里:
底辺の層が薄いのが、一つその理由だと思う。もちろん、ドライバーとしての気持ちの問題もあるだろうし。日本のレースで満足している部分も、あるかもしれないね。だから海外に行きたいとも思わない。フィンランドやブラジルは、ヨーロッパの本場に出て行かないと先がない。でも日本は国内で隔離され、ある意味完結している。日本国内で、ちゃんと職業ドライバーになれるからね。

――そういう環境で若いドライバーを、世界に引っぱり上げて行くのは難しいことですか?

亜久里:
すごく大変だよ! 今は特にお金がかかるから、自分でスポンサーを見つけようとしても、実際相当に難しいしね。お金だけじゃなく、そんなに山ほど才能にあふれた子がいるわけじゃない。100人もいて、そこからどう選ぶか、なんて次元じゃないからね。選別も、育成も難しい。でも、それは日本のレース界のためにもやらないとね。日本人ドライバーが世界で活躍することが、レース界全体のために必要だと思います。

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――松下、福住両選手の現状については、どう見ていますか。

亜久里:
福住はまだ未知数な部分もあるし、伸び代もあるはずだから、もうちょっと見守ろうと思う。松下は速いドライバーであるのは、間違いない。でもレースの仕方が、まだダメだよね。特に競り合いに弱いと感じているよ。

――松下選手は、昨年に比べてマシンが攻められなくて、それで思いきっていけないと言っていました。

亜久里:
でも、全員がすばらしいコンディションのマシンに乗っているわけじゃない。みんな、なにかしらの問題を抱えているし、松下のチームメートは、同じ条件の中で思いきりのいいドライビングをしているわけでしょう。

――その辺りは、自分で解決するしかないのでしょうか?

亜久里:
そうだね。そこは日本でレースをしていたことの弊害だと思う。ヨーロッパで戦うのなら、日本でいくらレースしても、はっきり言ってあまり意味がないかもしれない。レースは、戦いなんだから。でも日本は、走行会のような感じなんだよね。そこでやっていた子が、いきなりヨーロッパに来ても、それまで経験のない戦いの中では、なかなか真価は発揮できない。でも、松下も周りに引けを取らない速さは持っているので、経験とトライを積み重ねて、なんとか乗り越えてほしいと思っているし、彼ならできると信じています。

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