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Hondaの人材育成

マンスリーレポート 特別編「武藤選手初優勝!」
INDY PRO SERIES IndyProシリーズ
COLUMN

インディプロシリーズ6戦にして初のポールトゥウイン達成!

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- 武藤英紀 - (C)SAPR 07
 

武藤英紀は、IndyProシリーズデビュー6戦目をインディアナポリス・モーター・スピードウェイのロードコースで迎えた。1周2.605 マイル(4.192km)のコースは、Indy500で有名なオーバルコースの一部と、インフィールドのコースを組み合わせた形になっており、F1アメリカGPのために設けられたもの。IndyProシリーズ第6戦は、F1アメリカGPのサポートイベントとして開催されるが、昨年とは異なり、土曜日の第6戦決勝が終わった翌日、日曜日に第7戦決勝が続けて行われるスケジュールであった。

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- 武藤英紀 - (C)SAPR 07
 

「F1の前座としてロードコースでの開催なので、内心はいけるかなあと狙っていたんです」という武藤は、金曜日午前中のプラクティスで初めてコースを走行した。

「走り始めから調子がよかったんです。インディアナポリスはこれまで走ったことのないコースだったのですが、走り始めたときから乗りやすくてプッシュができた。だからといって、その時点で『勝てる』とは思わなかったけれど、このレースではよいところまではいけそうだなと実感はつかみました」

プラクティスでトップタイムを出した武藤は、好調のうちに午後の予選を迎えた。最初のアタックでトップタイムを叩き出すと、ニュータイヤでの再アタックで追いすがるライバルを突き放しシリーズ参戦6戦目にして初めてのポールポジションを獲得した。

土曜日の第6戦決勝は、F1のサポートイベント、しかも初めてのポールポジションではあったが、武藤はまったく動じることなく抜群のスタート加速を見せ、トップに立った。

「ローリングのスタートもうまくいきました。トップに出たときにはこのままいけそうだ、と思いました。予選からトップで手応えを感じていましたから、決勝で先頭に立っても比較的冷静でしたね。日本でレースをやっていたときのような気持ちでいられました」

その後、武藤は最速ラップを連発して1周ごとに2番手以下との差を広げ、独走態勢に持ち込んだ。突進しながら武藤はタイヤ消耗に気を配る余裕を持っており、レース終盤になってライバル勢がタイヤのグリップ不足に見舞われる中、武藤は逆にペースアップ。結局、2 番手に6 秒以上もの差をつけてフィニッシュした。

通常のIndyProシリーズでは決勝後に表彰を受けるのは優勝者のみ。武藤はこれまで2位と3位にそれぞれ1回ずつ入賞していたが、表彰台に上がったことはなかった。今回はF1のサポートイベントとして3位までが表彰台に上がる変則的な形式ではあったが、優勝した武藤は堂々と表彰台の中央に上がれる。

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- 武藤英紀 - (C)SAPR 07
 

表彰台に立った武藤は驚いた。これまでのシリーズでは優勝者の国籍を示す国歌は流れなかったが、F1アメリカGPのサポートイベントとして開催された今回のレースではF1方式で特別に国歌が流されたのである。

「まさかIndyProのレースで国歌が流れるとは思っていませんでした。だからびっくりして、それからジーンとしました。F1の前座だったから国歌の用意がしてあったということなんでしょうけど、F1だから日本の関係者もいっぱいいましたしね」

武藤は翌日、スターティンググリッド8番手と苦しいポジションから第7戦決勝に臨むことになった。ルールにより、第7戦のスターティンググリッドは第6戦の結果で決まるが、優勝者の武藤がクジを引き、そのクジが指定する数に応じてポールポジションからその数が示す順位までが逆転する仕組みになっていた。「0」を引けば武藤はポールポジションからスタートできた。ところが武藤の引いたクジは「8」。なんと優勝した武藤のグリッドは8番手になってしまったのである。

だが好調な武藤は8位から追い上げて3位入賞を果たし、前日に引き続き表彰台に上がった。望み以上の週末であった。

「本当は、今シーズンはもう少し早く勝てるかなと思っていたんです。6戦目で勝ててよかったと思います。チームは今日は完ぺきだったと言ってくれました。自分のチームの雰囲気は元々よい感じでしたが、優勝してからはほかのチームの人間も声をかけてくれるようになりました。『優勝おめでとう』とか『今日は予選がうまくいかなかったみたいだけど、決勝はガンバレよ』とか。優勝したことで、アメリカのレースに、より溶け込んだような気がしますね」

今回の優勝は、武藤にある種の自信を植え付けたようだ。

「ずっと勝ちたいと思ってきました。そして今は、早く次の優勝をしたいと思っています。(第6戦で)勝つという課題をとりあえずクリアできて、今は『うまくいけばやっぱり勝てるんだ』という自信がつきました。これまで、速く走れても勝てなかったことがあって、なかなか勝てないものだなあと思っていた。でも歯車が噛み合えば、リードも大きく独走して勝てるんだということがわかったんです」

ロードコースでは勝った。次の課題はアメリカ独特のオーバルコースにおける優勝だ。昨年までオーバルコースの経験がなかった武藤は、新たに様々なテクニックを学び取りながらここまでシーズンを戦ってきた。

「第8戦のアイオワはオーバルコースでのレースでしたが、ここでもいいレースができたと思うんです」

インディアナポリスの1週間後、アイオワで武藤は予選8番手と沈んだが決勝では追い上げて3位入賞を果たしている。

「あとは、予選さえうまく走れれば。(現在ポイントランキング首位のアレックス・ロイドに対しては)予選の一発がまだ僕には足りない。決勝ペースでは僕の方が速いくらいなんです。だから予選で前にいければ、と思う。オーバルはクルマの要素が9割といわれるので、最後の最後、セッティングの煮詰めが僕にはできていないんでしょう。オーバルは走れば走るほど深さがわかってきます。でも大体つかめてきたかなあ。決勝レース中にライバルとの位置関係をどのようにするかという、いわゆるポジショニングというテクニックも、IndyProのクルマで走る限り、大体つかめてきたように思います」

6月半ば、武藤はミッドオハイオで上位クラスであるIRLのテスト走行を行い、好タイムを記録して関係者を喜ばせた。格上のマシンを乗りこなしたことについて武藤はこう説明する。

「借り物のシートで、身体が動いてしまうような状態でしたが、すぐいい感触がつかめました。(すぐIRLのクルマを乗りこなせたのは)意外に思われるかもしれないけれど、日本で1年間、SUPER GTのNSXに乗せてもらったのが役立ったと思うんですよ。SUPER GTでは、シートもチームメートと共用で大体しか合わせられないし、クルマ自体もセッティングがチームメートと違うので大体で走らなければいけない。そもそもフォーミュラカーとは全然違うクルマですしね。正直なところ、最初はSUPER GTには気乗りしなかったんですよ。でもそういうレースを1年間させてもらうことによって、結果的にドライバーとしての幅が広がっていたんですね」

武藤は、2003年度フォーミュラ・ドリームでシリーズチャンピオンになり、Honda人材育成プログラムの支援を受けて全日本F3選手権、全日本選手権フォーミュラ・ニッポン、SUPER GTと経験を積み、今年アメリカ進出を果たした。その過程で身につけたとことがアメリカでも役立っているというのだ。

「全日本F3でもいろんなことを学びました。 ホンダ戸田レーシング時代にはレースに取り組む気持ちなどを教えてもらいました。無限×童夢プロジェクト時代にはプロ意識を植え付けられた。そのおかげで、プレッシャーを与えられても怖じ気づかないで済むようになりました。そういう意味で、いいステップを踏んでここまで来られたなあと思います」

武藤以降も、Hondaフォーミュラ・ドリーム・プロジェクトでは若い人材が育ちつつある。武藤に続こうとがんばっている後輩たちに何か思うことはあるだろうか。

「まだ若い選手にどうこうアドバイスできる立場ではないですよ。僕はまだ成長の途中ですから。でも、お互いにいい結果を出して刺激しあいながら成長したいと思います。結果が出せなくてもめげないで、未来を信じてがんばろうよと。僕が所属していたことがある戸田さんのところで今年F3に上がって苦戦している中山にも上だけを見てがんばろうと言いたいですね」

では、日本のファンに向けて何かメッセージは? 現在、ルーキーながらポイントランキングで2位につけている武藤に期待を寄せているファンも少なくない。

「アメリカの情報はなかなか日本には届かないようですけれど、新聞やインターネットでできるだけ情報が流れるようにインパクトのあるレースをしようと心がけています。でも今年はチャンピオンを意識しすぎないようにと思っています。僕としては、1年目のうちにスピードや勝負強さをアピールできるドライバーになりたいんです。学ぶことはまだまだ多いですよ。先日のレース(第8戦アイオワ)では予選でうまくいかなくて8位だったんですが、抜きにくいといわれるショートオーバルでどれだけ抜けるだろうと思いながらレースをしたんです。これは1年目だから持てる気持ちですよね。とにかく、優勝を狙うのはもちろんだけど、優勝できなくてもできるだけ上位、それもただ上位ではなくて目立つレースをすることをテーマにしています。2位、3位でも、「追い上げて2位」とか「失敗しても3位」とか、何かフレーズがつくようなレースがしたいんです」

アメリカのレースには慣れたし居心地がよくなってきたけれども、私生活の面ではいつも友だちが周囲にいてくれた日本が恋しいという武藤は、勢いに乗ってシーズン中盤を駆け抜けようとしている。

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