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Hondaの人材育成

マンスリーレポート 特別編「武藤選手初優勝!」
JAPAN FORMULA 3 全日本F3選手権
 

F3は若手の登竜門ともいわれ、Hondaの人材育成プログラムである「Hondaフォーミュラ・ドリーム・プロジェクト」の中でも中核をなしている。いよいよトップ争いに本格参入を果たした全日本F3選手権のホンダ・チーム・リアル勢。ホンダ戸田レーシングの中山も、確実に完走を果たすまでに成長した。  今回は、ホンダ・チーム・リアルの2人のドライバーと田中弘監督、金石勝智代表、ホンダ戸田レーシングのドライバーと戸田幸男代表が全日本F3選手権の現状と役割、今後の意気込みについて語る。

 

Koudai Tsukagoshi 塚越広大
 

「第8戦では、結果的に運が味方してくれて本当によかったです。開幕からここまで、クルマをどんどんよくしてもらいつつ、僕らは乗り方を勉強して、少しずつ進歩してきたわけですが、その結果、第8戦で勝てたのは大きいですね。僕の知らないところで監督やオーナーがいろいろ努力してくれて、チームを改善してくれているという状況がありながら、それを自分のミスで優勝を逃したりしたときは本当に申し訳なく思ったし、自分でも情けない気持ちがありました。僕だけでなく、チームの皆さんもつらかったはずですから、それが第7戦ではスタートをうまく決めて表彰台に乗ることもできたし、このよい流れで監督・オーナーやスタッフの皆さんに対してお返しすることができてよかったと思います。本格的に反撃ののろしを上げられるように、今後もがんばります」

Hondaの人材育成
- 塚越広大 -
Takuya Izawa 伊沢拓也
 

「第8戦では、僕はレインタイヤに換えましたが、結果的に4位に入賞することができました。ローリングスタートのときに1台パスできたし、ペースもよくて、途中からは3位のロベルト・ストレイト(TOM’S)に追いつくこともできました。なんとか乾いた路面で粘りきることができてよかったです。ここ何戦か終えて、チームも軌道に乗ってきてますし、もうクルマに関してはほかのチームと差がない状態なのは、今回の結果を見ても明らかだと思います。あとは、僕たちドライバーがどれだけがんばれるか、だけです。自分のドライビングの悪いクセもだんだん改善されてきているし、全体的によい流れになってきたので、もっと上を目指していきたいと思います」

Yuki Nakayama 中山友貴
 

「エンジニアさんや監督とよく話をして、自分でもだいぶ理解できるようになってきたし、こちらからも相手に理解してもらえるような説明ができるようになり、やっとみんなで同じ方向を向いて動けるようになりました。ドライビングに関しては、最初のうちはフォーミュラチャレンジ・ジャパン(FCJ)と同じ乗り方をしている部分があって、タイヤが全然違うためにニュータイヤでのアタックもうまくいかなかったりしていました。でも、だいぶタイヤの使い方をつかんできましたし、ここまで力を出し切れなかった分を今後出していければと思います。開幕のときとは、体は一緒ですが考え方はかなり成長しているので、金曜日のうちにクルマをちゃんと合わせていきたいと思います」

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- 伊沢拓也 -
Hondaの人材育成
- 中山友貴 -
Hiromu Tanaka ホンダ・チーム・リアル 田中弘監督インタビュー
 

世界に通じるドライバーを育てるという最終目標のためには、基本的ドライビング技術を身につけさせなければならないというのが、昔からの私の持論です。クルマがよくてレースに勝ってステップアップするだけでは、技術的な裏付けが何もない。それでは、世界に出て行っても太刀打ちできません。

今は、昔より走行データなどは整備されている代わりに、練習時間が足りないというジレンマがあります。ドライバーが普段乗る乗用車はオートマチックばかりだし、サーキットで走行時間を確保するのが難しくなっているため、下のクラスでの技術指導が不十分のまま、上のクラスに上がってしまいます。F3でさえ、コスト削減のためのタイヤ使用の規制があり、走行時間を確保しにくい状況で、現在は選手育成には難しい時代であるといえます。たとえば、私が一番重視して教えているのが荷重移動なんですが、荷重移動を利用しながら前後のスリップアングルをベストな状態に持っていくという基本的技術の域にさえ到達できていないまま、ステップアップしてしまっているのが現状です。

やはり、クルマのメカニズムもドライビング技術も、基本からすべて確固たる技術を習得した上で世界に出て行くべきだと考えてます。現状、レースだけではスキルアップできないのなら、別の機会を作って鍛錬するしかないでしょう。そのために、F3ドライバーも含めて将来有望とされる若い選手たちを集め、年に数回ほど独自のドライビングカリキュラムを実施しています。ここでは座学も行いつつ、フォーミュラ・ドリーム(FD)やF3の車両を改造して、そこにラジアルタイヤやS耐用のタイヤなどを装着し、グリップレベルや限界点が低くてもクルマをうまくコントロールする練習をしています。パワーやグリップレベルは関係なく、クルマをいかに操るかの基礎は同じですから、そこを若いうちにちゃんと身につける必要があります。単にクルマの性能に乗せられ、高いグリップの中で、ただステアリングを切ってスロットルを開けてタイムが出てしまうのではなく、本当の意味でF3のマシンを自分でコントロールできる状態になったならば、上のクラスに行っても、いきなり乗れますよ。本来、F3は若手育成の最終的段階ですから、そこまでしてから上に送り出したいわけです。

今年シャシーを替えたのは、グローバルスタンダードであるダラーラにして、周囲と同じ条件にすることにより、何が課題なのかを見極めるためです。ただ、すべてがそろわないと勝てないのがF3です。サーキットも毎回変わるし、実戦の中で結果だけから判断するのは難しい状況ですが、ハードウェアがすべてよくなった暁には、今度はドライバーの腕が本当に問われます。そのためにも、ドライビングカリキュラムをこれからもっと充実させたいんです。今は年に数回ですが、いずれは月1回くらいはできるようにして、若い選手たちに基礎技術をしっかり身につけさせる体制を作りたいと考えてます。

Katsutomo Kaneishi ホンダ・チーム・リアル 金石勝智代表インタビュー
 

F3は、運転の仕方もクルマの作り方の勉強も、ここででき上がるという集大成の場だと思います。育成の核になるクラスであるF3でちゃんと成績を残せば、どこに行ってもちゃんと乗れると思います。だから、トータルでいい状態を作って補助してあげられればと思うのです。これまで、鈴鹿サーキット・レーシング・スクール・フォーミュラ(SRS-F)の講師やFDのアドバイザーを務め、いろいろな個性の若いドライバーたちを育てることのおもしろさを知り、後輩たちの面倒を見るのが楽しくなってきました。また、できるだけいい状態を作るには自分でやるしかない、という思いとさまざまな方々のサポートが、いいタイミングで重なってチャンスをいただけたので、今回自分のチームを立ち上げることになりました。ドタバタとチームを立ち上げ、ようやく今は落ち着いて仕事ができるようになってきたところです。皆さんに助けてもらってここまで漕ぎ着けたので、これから自分ががんばって、よりよいチームにしていきたいと思っています。田中監督のドライビングカリキュラムにも顔を出していますが、監督がやりたいことや、ドライバーに対しての希望を、僕がどれだけ用意できるか、答えを出せるかという立場だと思います。

カート時代からSRS-Fなど、子供たちを見てきた経験を通じて感じるのは、個々のキャラクターに応じて、個性を尊重しながら、その子供なりの接し方や導き方をしたほうがいいのではということです。育成プログラムだからこそ、必要だと思います。甘やかすということでなく、ガツンと言うべきときは言って、そのバランスを取りながら育てていくということです。もちろん、チームとしてのコンビネーションでは、監督からの指導との兼ね合いを調整するのも自分の役割かなと思います。

一番おもしろいことをしたい時期が、一番伸びる時期でもあります。遊びたい盛りに、どれだけ自分の目標に向けて一生懸命できるか。特に、ちょっと速いと周りが甘やかして、彼らの気持ちがぼやけてしまうときもあると思います。そのとき、大人が放っておいて、ぼやけた気持ちのままでいることを子供のせいにするのは、ある意味大人の言い訳に過ぎないと思ってます。今が一番大事なんだと大人が教えてあげて、いい意味でコントロールしてあげることが必要だと、自分は考えます。大人もできるだけのことをして、みんなが上に上がってくれればいいんですが、結構エネルギーが必要なので、一度にそう何人もは見られないな、とも感じてます。

ヨーロッパを目指すにしても、どういうシチュエーションで行かせてあげるかが問題です。早く外国に行ったほうが勉強になるとは限らず、条件がそろわなければ絶対に成功しません。そのために、全日本F3選手権で経験させてあげられることはできるだけ提供して、日本で成功してから挑戦するほうが確実です。日本で勝ってからのほうが、日本国内で応援してくれる人も増えますからね。世界に打って出る方法論として、全日本F3選手権でドライビングもセッティングも交渉力も十分に力をつけさせて、その先に世界で活躍するという道を作りたいですね。

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- ホンダ・チーム・リアル 田中弘監督 -
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- ホンダ・チーム・リアル 金石勝智代表 -
Yukio Toda ホンダ戸田レーシング 戸田幸男代表インタビュー
 

中山については、ドライビングの腕がどうのでなく、ここまでトントン拍子で来たため、とにかく経験が少なく、クルマのことがはっきりわからない、ドライバーとしての「引き出し」が少ないという問題があります。我々のチームは1台で戦っているため、ドライバーのコメントがちゃんとしてないと、マシンを作るところから難しくなってしまいます。

季節により路面は変わりますし、コースが変われば違うことが求められます。同じコースでも、開幕戦の鈴鹿と夏の鈴鹿では違いますよね。そうして一戦ごとにいろいろな新しい問題が出てくるので、なかなか的確には判断できないと思います。また、今年は新しいシャシーに変わったということもあり、こうしたいろいろな要素が関連し合って、よけいに彼に負担がかかっていますね。だから、この苦労もある程度仕方がないことだと思いますが、将来に向けてはとてもいい経験だと思います。彼も、ある程度出来上がってるクルマに乗れば、そこそこ速くてここまで苦労はしなかったと思いますが、ドライバーは早かれ遅かれこういう経験をしないといけないわけで、それを今乗り越えているところです。たとえF3で、すごく速いクルマを与えられて何が何やらわからないうちにタイムが出て、順調に行ってしまっても、上に行けば必ず、さらに大きな壁にぶつかってしまうでしょう。今、いろいろなことを覚えて、それらがうまくつながってくれば、当然もっといい位置に行けると思います。ドライビングもだいぶよくなってきました。でも、まだ完ぺきではないので、クルマをどう仕上げるかとドライビングをどう直していくかの両方を進めなければいけないので、難しいんですけどね。すべて一気によくなることはないですから。その時点でとりあえずタイムが出る状態にするのに、クルマとドライビングのどっちかが歩み寄って妥協しないといけないこともしばしばです。今は、こうしたたくさんの要素や課題を少しずつ理解して克服するという苦労をしながら、彼の「引き出し」を増やしている真っ最中です。

Hondaの人材育成
- ホンダ戸田レーシング 戸田幸男代表 -
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