グッドウッドの空気を震わせた“Honda”

ヒルクライムのコース脇に集う観客。雨が降っていない土曜日の午前中の写真で、まだ数が少ないが、日曜日は終日雨にもかかわらず観客は鈴なりとなった。
 この会場に足を運ぶ人々が楽しみにしているもの――。それはもちろん歴代の名レーシングカーを見ることであり、ドライバーやライダーの往年の活躍を彷彿させる雄姿を見ることである。さらには、クルマ好きにとってたまらないショップ群を覗き、参加自動車メーカーが設営するモーターショーのときのようなブースを訪れること。あるいはクルマ好き以外の人も楽しめるよう開催されている音楽コンサートを見ることなどだろう。
 そしてもうひとつ。レーシングカーを愛する者にとって欠かせない楽しみであるのが歴代の名車のエキゾーストノートを聴くことだ。

 情熱を注ぎ込んでつくり上げられたマシンは、人の心を惹きつけてやまないサウンドを放つ。ましてや、グッドウッドに集まった名車の多くは、レース史上で華々しい活躍を記したマシンである。往年のサーキットに、今耳にしているサウンドが喝采とともに響き渡っていたのかと思うと一層感慨深い。
 グッドウッドの会場では、参加マシンがタイムトライアルを行うヒルクライムのコース脇にたくさんの観客が鈴なりとなって集う。その数たるや相当なもので、人垣の後ろに位置する人からはおそらくマシンの姿は満足に見えないだろう。それでも彼らがそこを去らないのは、すぐ近くを通るマシンのエキゾーストノートに聴き惚れているからに違いない。エキゾーストノートに陶酔して佇む観客・・。グッドウッドを訪れると、英国の人々が相当なクルマ好きであることをあらためて思い知らされる。

束の間晴れ渡ったグッドウッドの会場。観客は、疲れたら草に覆われた地面に座って休息を取る。
 グッドウッドでエキゾーストノートを楽しむ機会はもうひとつある。参加車両を保管するパドックで、ヒルクライム出走前にエンジンを暖機運転するときだ。各パドックともエンジン暖機時には多くの人が集ってくるが、なかでも圧巻なのがHondaのパドックである。Hondaのパドックには、唯一赤い絨毯が敷かれ、マシンがひときわ美しく展示されている。そこで放たれるエキゾーストノートは、独特のカン高い音色を持った“Hondaミュージック”であり、長年のレース史のなかで欧州のレースファンの心に刻まれているエキゾーストノートである。もちろん、レースファンでなくとも迫力のサウンドに圧倒され、エキゾーストノートに聴き入ったあと盛大な拍手がわき起こるのだ。これほど“聴衆”が盛り上がるのも、数多くあるパドックのなかでHondaならではの特徴。

 “Honda”のエキゾーストノートは、グッドウッドの空気を震わせ、観客の心を震わせていた。

注目を集めた“Honda”のエキゾーストノート

主催者であるマーチ卿から招待されているHondaは、唯一パドックに赤絨毯を敷いている。手前のゼッケン6がRC145。
Hondaのパドックにマシンが勢揃いしている。一番手前のマシンがFW11。その奥がRA301。
 今回Hondaは、ツインリンクもてぎにあるホンダコレクションホールで動態保存しているマシンの中からRC145(二輪)、RA301、Williams Honda FW11(四輪)の3台をグッドウッドに運び込んだ。Hondaのパドックにあるその他のマシンは、欧州のユーザーのプライベート参加。
 暖機運転は通常走行前だが、今回の週末は、雨が降ってヒルクライムコースでの走行がほとんどできなかったため、来場したお客様のためにデモンストレーションとして行われた。その模様をムービーでご紹介したい。

 皮切りはRC145。1962年のロードレース世界選手権で10戦全勝、マン島TTレースでもルイジ・タベリが乗って優勝したゼッケン6のマシン。125ccの4サイクル並列2気筒の高回転エンジンが鋭いエキゾーストノートを放った。(RC145のエキゾーストノートを聴く 映像あり
 続いてWilliams Honda FW11。このマシンは、1986年のF1世界選手権でナイジェル・マンセルが乗り、ドライバーズポイントで2位を獲得したゼッケン5のマシン。翌1987年は、ネルソン・ピケがWilliams Honda FW11Bでチャンピオンを獲得し、Hondaに初のダブルタイトルをもたらすことになる。1500ccのV型6気筒のターボエンジンが放つエキゾーストノートは、低く唸るようなサウンド。いわゆるHondaらしいカン高さはないが、聴衆は勝利のマシンのエキゾーストノートに拍手を送っていた。(FW11のエキゾーストノートを聴く 映像あり

 最後がRA301。F1参戦第1期終盤のモデル。1968年のメキシコグランプリでジョン・サーティースが乗ったゼッケン5のマシンである。3000cc V型12気筒の水冷DOHC4サイクルエンジンが放つエキゾーストノートは、鼓膜を圧迫するほどの迫力だった。(RA301のエキゾーストノートを聴く 映像あり