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F1エンジンは、2013年までの2.4リッターV型8気筒自然吸気エンジンから2014年は1.6リッターV型6気筒直噴過給エンジンへと変更されています。排気量は2.4リッターから1.6リッターと3分の2に小さくなっており、気筒数も8気筒から6気筒へと減少。時代の流れは小型化の方向へ進化しており、それがエンジンのダウンサイジング化と言われています。
排気量が小さくなり、気筒数も減るため、このままでは従来と同等のエンジンパワーを追求することができません。そこで、採用されたのが過給機の一方式であるターボチャージャーで、エンジンをコンパクト化しながらも排気量が大きかった時代と同等のパワーを得られるようにしています。つまりエンジンのダウンサイジングでは、大きさをコンパクト化することで燃費を向上させつつ、従来の排気量と同じパワーを発揮させることがポイントとなります。このように、ターボチャージャーの搭載でエンジン排気量を低減し、燃費を向上させることをダウンサイジング過給と言います。
また、2013年までのF1エンジンは最高回転数が1分間に18,000回転と規定されていましたが、2014年からは15,000回転と少なくなりました。さらに、10,500回転で燃料が最大流量となるように制限されています。
基本的に、出力は燃焼させる燃料の量に比例するので、回転数を上げると短い時間にたくさん燃料を燃やすことになるため出力はアップします。しかし実際には10,500rpm以上で流量が頭打ちになり(蛇口をひねっても流れは大きくならない)、回転数の上昇にともなって機械抵抗が増えるため、高回転まで引っ張るメリットは薄れる傾向にあります。
これまでのF1では、「高いパワーを発生する高回転域をいかに維持するか」が開発の中心に据えられていましたが、こうした制限によって「如何に効率よくエネルギーを使うか」がF1エンジンに求められています。
2013年 | 2014年 | |
---|---|---|
エンジン形式 | V型8気筒 | V型6気筒 |
排気量 | 2.4L(2400cc) | 1.6L(1600cc) |
吸気 | 自然吸気 | ターボ |
燃料噴射 | ポート噴射 | 直噴 |
最大噴射圧 | 100bar | 500bar |
最高回転数 | 18,000rpm | 15,000rpm |
重量 | 95kg(エンジン) | 145kg(パワーユニット) |
最高出力 | 750ps以上 | 600ps以上 |
レース中の最大燃料使用量 | 制限なし | 100kg |
最大燃料流量 | 制限なし | 100kg/h |
1ドライバーあたり年間使用基数 | 8基 | 5基※2015年からは4基 |
2014年のF1エンジンから、熱効率を高めるための過給機の一方式であるターボチャージャーが採用されました。ターボチャージャーは、1980年代のF1でも導入されており、当時Hondaが製造したターボエンジンは88年に16戦15勝という圧倒的な成績を記録しました。翌89年以降はターボエンジンが禁止されていたのですが、2014年から25年ぶりに復活導入されました。
この機能で中心となるのが「ターボチャージャー」という、エンジンの排気が持つエネルギーを有効活用するための装置です。これは、大きく分けてタービンとコンプレッサー、この2つを同軸上で支持するベアリング部で構成されています。排ガスのエネルギーでタービンを回し、コンプレッサーによって空気が圧縮されることで、エンジンに吸い込める空気の量は増え、より多くの燃焼をすることが可能となり、出力が向上します。そして、ターボチャージャーを量産でV6エンジンに用いる場合は、計2基を割り当てるのが一般的となっています。しかし、F1はレギュレーションで「1基」と定められているため、様々な工夫が求められてくるわけです。
ターボチャージャーによってエンジンに送り込まれる高温の空気を冷やす部品です。高温になった空気をそのままエンジンの燃焼室に送り込むと異常燃焼などの原因となり、エンジンが本来持つ性能を発揮することができなくなります。そこで、吸気を燃焼に最適な温度まで冷やしてくれるのがインタークーラーです。
減速時に運動エネルギーを電気エネルギーに変換する装置が「MGU-K」で、量産ハイブリッド車におけるモーター/ジェネレーターユニットと同様の働きをします。最高回転数は1分間あたり50,000回転、最高出力は120kW(約160PS)と定められています。エネルギー貯蔵装置に蓄えた電力を使用して駆動した場合、エンジンが発生する600PSの出力に、MGU-Kの160PSが上乗せされます。ちなみに、Hondaのフィット ハイブリッドの最大出力は、エンジンとモーターを合わせて103kW(約139.5PS)ですので、MGU-Kだけでフィット1台分以上の出力を発生させることになります。
ただし規則で、MGU-Kによる回生で1周あたりバッテリーに蓄えられるエネルギー量は2MJ(メガジュール:電力量の単位)、バッテリーに蓄えた電力を使用してMGU-Kが1周あたりに放出できるエネルギー量は4MJと定められています。
排気が持つ熱エネルギーを電気エネルギーに変換する装置が「MGU-H」で、これまで市販車に採用された例はありません。そのため、F1の技術開発で培われたノウハウが将来の市販車に結びつく可能性を秘めています。
MGU-Kはエネルギーの使用量に制限が設けられていますが、MGU-Hにはありません。MGU-Hで発電した電気をダイレクトにMGU-Kに送れば、MGU-Kに課された制限に縛られることなく、「プラス160PS」の恩恵を受けることができます。そのため、MGU-Hを有効に活用するシステム作りが必要です。MGU-Hをいかに効率良く機能させるかが重要な意味を持ちます。MGU-Hの性能を引き出せるか否かが、新世代F1パワーユニットの生命線と言っても過言ではありません。
パワーユニットのエネルギーのやりとりを制御するコンピュータが「ERS※コントロールユニット(※Energy Recovery System/エネルギー回生システム)」です。パワーユニット全体の頭脳に当たる部分で、エンジンと2つのMGUの性能を生かすのは、このコンピュータのソフトウェア次第となります。つまり、目まぐるしく変化していく環境や運転状況に応じて、最適に制御できるかがポイントとなってきます。
また、バッテリーは直流電流で作動するのに対し、MGU-KとMGU-Hは交流電流で作動します。そのため、直流電流から交流電流に変換するインバーターや、交流電流から直流電流に変換するコンバーターを必要とし、これらを搭載しています。電流を変換する際の効率向上や熱マネジメントの技術は、市販ハイブリッド車への活用が期待できます。
バッテリーは、従来捨てられていたエネルギーを蓄えておく装置です。過度な開発競争を抑えるため、20〜25kgの範囲に重量を収めることがレギュレーションで定められています。F1で培ったバッテリーの開発技術や制御技術も、将来、市販ハイブリッド車への活用が期待できます。
※この図は、実際のHondaパワーユニットを反映しているものではありません