08.08.27 vol.181 Rd.12 European GP

クルマ自体のポテンシャルとしては、
十分ポイントを狙える力が備わったと思います。

今回が初開催となった、スペイン・バレンシア市街地を走る、ヨーロッパGP。Honda Racing F1 Teamはフリー走行では、上位に迫る速さを披露した。しかし予選はジェンソン・バトン16番手、ルーベンス・バリチェロ19番手という結果に終わる。そしてレースも2台完走を果たしたものの、ポイント獲得はならなかった。

 

【プロフィール】
長谷川 祐介(はせがわ・ゆうすけ)
1963年12月1日生まれ、東京都出身。
1986年Honda入社。量産車のエンジン開発や将来パワープラントの研究を経て、2002年よりシステム開発責任者としてF1に携わる。
現在は、ホンダ・レーシング・ディベロップメント(HRD)エンジニアリングディレクターとして、現場にてパワープラント領域を統括する立場である。

―フリー走行ではバトンがすばらしい速さを見せてくれて、予選への期待が非常に高まったのですが。
 ええ。それなのに16番手に終わったことが、今回のすべてでしたね。予選は失敗したというより、あまりに手応えがよすぎて、油断してしまったのかもしれません。1回目のアタックで、午前中の自己ベストを1秒近く縮めるタイムがいきなりポンと出た。それでもう、Q2に行けたつもりになってしまった。Q1の2回目のアタックは柔らかい方で出ていって、結果論ですが固いほうが速かった。しかもセッション終了間近で渋滞につかまり1回目のタイムを更新できませんでした。

―渋滞やタイヤの選択を抜きにして、Q2に進める自信はありましたか?
 渋滞の影響がどの程度あったか分からないのでなんともいえませんが、間違いなくQ2に進められるクルマのポテンシャルはありました。

―そしてトップ10内のグリッドも、獲得できたかもしれない。
 そうできたと思います。結果的にQ3に進む合格ラインは、1分38秒4でしたよね。ジェンソンは1分38秒フラットのタイムを、十分出せるポテンシャルを持ってましたから。そしてたとえQ3が10番手だったとしても、そこからのスタートだったら、ドライバーの気持ちもずいぶん違っていたでしょうしね。

―レースでは今まで出たことのないような、ブレーキトラブルに見舞われたようですが。
 ルーベンスはフリー走行からずっと、ブレーキの不具合に悩まされてました。そしてレースではジェンソンも異常振動のトラブルが出た。その意味でこのサーキットはやはり、非常にブレーキに厳しいコースだということを、思い知らされました。レースは2人とも1回ストップ作戦を選択したわけですが、それだけ重いクルマで走ったことで、さらにブレーキに厳しくなってしまいました。異常振動の原因はファクトリーに戻って詳しく分析しますが、とにかくブレーキ温度は非常に高くなっていました。新しいサーキットに対する洞察が、いまひとつ足りなかったということだと思います。サーキット特性として、(ブレーキに過酷な)カナダに似ていることは、わかってはいたのですが。

―ただ今回は、フリー走行でかなりの速さも見せてくれました。マシンは、確実に進化しているということですか。
 ええ。新しいサスペンションを使いこなせるようになって、その結果が間違いなく出たんだと思います。ドライバーもその点は、評価してくれてますね。それだけに、この武器をうまく生かせなかったことが、よけい残念なのですが。

―前戦ハンガリーGPから投入されたサスペンションを、今回さらに進化させた?
 サスペンションそのものは同じで、ダンパーの設定を変えています。夏のテスト禁止期間中、ファクトリーでシミュレーション試験などを繰り返して、性能をうまく引き出せるようになった。それが今回の速さに、反映されたんだと思います。サス剛性やジオメトリーが、全く変わったわけですから、ある程度の時間は必要でした。
 今まではブレーキング時に挙動が不安定になるために、ダウンフォースもことさら付ける必要があった。それが今回は、リアウイングを軽くする設定ができた。それでも挙動は安定していたし、最高速も伸びた。そのおかげで、特に一発のタイムが伸びました。あそこまでウイングを軽くできたのは、今シーズン初めてのことでしたね。クルマ自体のポテンシャルとしては、十分ポイントを狙える力が備わったと思いますよ。