―現行ドライバーを来季も使う、と発言したという報道がありましたが。

ブロウン:いや、そんなことは言ってない。来年のドライバーをどうするかは、全くの白紙だ。

―ドライ路面で後れを取るだけでなく、路面にラバーの載っていない、いわゆるグリーンな状態で、ドライバーはグリップ不足を訴えています。しかもこれは、数年前から続いている症状とのことですが、それについての見解は?

ブロウン:路面にラバーが載っていない状態では、どのマシンも非常に滑りやすくなる。そしてご指摘の通り、Hondaは確かにその際のグリップ不足がほかよりも顕著だと思う。これについては空力の問題もさることながら、足回りの影響がより大きいようだ。後半戦からは、これまでより30%以上剛性が強化されたリアサスペンションが投入されたことで、事態は好転していくはずだ。まだ現時点ではこのサスペンションの性能を、100%使いきってはいないけどね。

―この新しいサスペンションは、来季マシンにも搭載されるのでしょうか。

ブロウン:それを見据えて、開発を進めてきた。今季マシンでできるだけ熟成を進めていけば、来シーズンの非常に早い段階から、本来のパフォーマンスが発揮できると思う。そしてデザインチームにとっては、来季マシンの開発が本格化する前にこうしたケーススタディが実践できることは、非常に貴重な機会でもある。この改良は単にリアサスペンションのデザインが変わっただけでなく、ギアボックス、空力パッケージまで巻き込んでの変更だった。その意味でも、非常に大きな一歩だったと思っているよ。こうした作業で、開発チームはいっそうの一体感を感じてくれると信じている。それこそが、私が第一に望んでいることだからね。Hondaはヨーロッパ系のチームに比べると、大きなハンデキャップを背負っている。日本の栃木研究所、イギリスのメインファクトリー、この2つに開発部門が分散されているからね。そのため両者が今以上に緊密に協力し合って、マシン作りができるようにしないといけない。日本の人的物的資源は、我々の大きな強みでもあるのだから。

―来季から導入予定のKERSに関して、ほかのチームでいくつか開発中の事故が起きています。この新システムの安全性については、どう考えていますか。

ブロウン:F1にとってはまったく未知のシステムであり、今後実走テストを重ねる上で、さらにいろいろな事故が起きるかもしれない。たとえば高速でクラッシュした際など、マーシャルがどのような処置を取るべきか、そういうことも今後は周知させていくべきだと思う。
 一方でHondaは、市販車でノウハウを十分に積んでいる。このシステムの安全性向上に関して、他チームから情報開示の要請があれば、喜んで応じるつもりだ。具体的にどんな事故が起きているのか、教えてくれればなおありがたい。状況に即したアドバイスが、できると思うからね。とにかく安全性の確立を最優先すべきだし、そのためにはどんなに慎重になっても慎重過ぎることはない。全チームが協力して、ドライバーやスタッフ、マーシャル、そして観客にも絶対に安全なシステムにしていくべきだ。

―安全性が確立されたとして、性能面でKERSは欠くことのできないパフォーマンスを発揮してくれるでしょうか。

ブロウン:KERSを搭載することで、余分なエネルギーを使えることになる。その結果、1周当たりコンマ2〜3秒ほどは、速くなりそうだ。問題はそれが、重量増や重量バランスの変化をしのぐほどの、パフォーマンス向上になるかどうかだね。ブレーキングの際の安定性が犠牲になることも、確認できているしね。いずれにしても開発はまだ始まったばかりで、このシステムの性能を100%引き出せているわけではない。だから結論を出すのは、もう少し待ちたいと思う。とはいえKERSの開発はエンジニアたちにとっても大きな挑戦であり、ぜひ実現させたいところだ。

―たとえば実走テストなどでKERS導入が万一見送られた場合、車体デザインに変更を加える可能性は?

ブロウン:当然、出てくるだろうね。来季のマシンは、KERS搭載を折り込んで設計されてるわけだから。もし積まないのなら、重量配分なども見直すことになる。しかし現時点では、KERS開発は順調に進んでいるし、導入を見送るような要素はないよ。

―来季2009年用マシンに関して、現時点でどの段階まで開発が進んでいるのでしょうか。

ブロウン:シャシー、ギアボックスといった基本的な部分の設計は、ほぼ終わっているね。新車の最初期の実走テストは、8月を予定している。その段階でどのような感触が得られるか、今からすごく楽しみにしているよ。

―すでにマシン開発は、100%来季用にシフトしていると考えていいのでしょうか。

ブロウン:ほとんどそうなっていると考えてくれていい。リアサスペンションの投入後は、デザイン部門のスタッフはほとんど全員が、来季用マシンにかかりきりになる。風洞に置かれる模型も、来季を見据えたものになるしね。今後は、9月のイタリアGPの際に、最後の大きな改良型マシンが投入される。それからは、100%来季のマシン開発に集中する。

―例年、日本GPには大きな改良を施したマシンが登場してきましたが。

ブロウン:残念ながら、今回はそれはない。理解してほしいのは、長期的なプランに基づいて、Hondaをトップチームにのし上げたいということだ。具体的には、3年計画の3年目にタイトルを狙う。1年目の今年は、まずはその基礎を築く作業に専念してきた。そして2年目の来年は、大きくレギュレーションが変わる。これまでトップチームが持っていたアドバンテージは、きわめて小さくなるはずだ。全チームがほとんど同じラインからスタートする、その機会を絶対に逃したくない。そのために誰よりも早く、来季のマシン開発を始めたんだ。もちろんだからといって、今シーズン後半のレースを捨てるつもりは全くない。それは今までの私の話から、わかっていただけると思う。日本GPがHondaにとって非常に大切なレースであることは、言うまでもない。イギリスGP以降、毎レースのように施している改良が、富士で結果を出してくれると確信しているよ。

BACK